第14話 やっぱり時空魔法は便利よねぇ

「お義姉さま~遊びに参りましたよ~。」


 第二王女であるセノスペキュナスが、王家の紋章の入った馬車と護衛の騎士達を引き連れ、リディアの治めるマルムスティーン子爵領へとやってくる。



「あら、セノス。遅かったわね。」


 セノスが叫んだお姉さまとはリディアの事であったが、今返事をしたのはセノスの血のつながった本当の姉である第一王女のペチオスセキュナスである。


「あれ?お姉さまがなぜこちらに。」


「未来の旦那様と忙しくなる前の旅行よ。旦那様にとっても実の妹の治める土地へくるのは色々な意味で癒しにも視察にもなるでしょう?」


 結局第一王女であるペチオスセキュナスとイングウェイは婚約をした。


 当人同士に話を切り出したところ、ペチーは超ノリノリで賛成したとの事である。


 イングウェイにしても、マクスウェルと絡みがなくなるのであれば、王家について思うところはない。


 王女のどちらかであれば、王国にこのまま仕える事に不満はないとの事だった。


 学園時代に切磋琢磨した相手であれば、それが王族であっても悪い気はしないとも。


 そして少なからずイングウェイも気がなかったわけではなく、好意は持っていたとのことだ。



「それでお義姉さまはどちらに?」


 セノスがペチーに尋ねると、海岸を指差して「あそこ。」と答えた。


 そこには浜辺に備えた背もたれ付きのベンチに寝転がるリディアの姿と、浜辺と海辺で遊んでいる魔族の姿があった。


「ほら、マオ様ー。あまり奥へいくと波にさらわれてしまいますよー。」


 元魔王の名前はマオである。マオは別の世界でスクール水着と呼ばれるモノを身に着け、胸元には「まお」と書かれていた。


 そしてその身体は浮き輪で沈まないようにも。


 ベンチに横たわるリディアは、優雅にドリンクを片手にその様子を眺めていた。


 その横には秘書を務める、元四天王の女魔族。


「たったの1年で見事な観光地化まで済ませましたね。流石リディア様。」



「それもこれも貴方達がしっかり仕事をしたからじゃなくて?私は便利道具を出したり、山や岩等を削ったりしただけでしてよ。」


 リディア達一行が到着した時こそ、現地民に驚かせはしたものの、直ぐに打ち解けていた。


 そして瞬く間に住居や街道を整備し、海岸リゾートと山の登山と温泉リゾートを建設していた。


 それら労働力は、現地民と言葉を話せる人型魔物や魔族である。


 町そのものはまだまだ開拓途中であるが、いずれは王都に匹敵するだけの都市となる事は想像に易くない。


 魔族や魔物が戦力となっているため、外的からの心配はほぼ皆無。


 それら魔族や魔物は、リディアに教育調教されており、原住民との諍いはほぼない。


 互いに補いあい、リディアから便利道具を瑕疵されれば、開拓は進むというものである。


 これまでは時空魔法であちこち移動して購入してくれば事済んでいたが、今では自領で生産出来るまでになっている。


 近いうちに国にまで成長してもおかしくはない程に。



 リディアは働きたくないでござると言わんばかりに、大雑把に元四天王達に任せ、大きく方針を決める時だけ口を出すというスタイルだった。



「我が妹ながら、よくもまぁここまで色々やらかしてくれるもんだよな。こないだまでこんな小さくて可愛かったのに。」




「そういえば、リディが便利な移動用装置を作るとか言ってましてよ?ここと王城、こことマルムスティーン侯爵家の行き来用に。リディ本人は自分の意思で移動出来るけれど、私達は態々馬車などで移動しなければならないでしょう?」



「流石お義姉さま!私達の事まで考えてるなんて。」



「緊急用の移動手段も兼ねてって事ですけどね。なんでも魔力と特定のコードさえ入力すれば移動出来る装置だとか。コードが必要なのは誰も彼もが利用出来ないようにという防衛処置でしょうけれど。」








 リディアが治めるマルムスティーン子爵領が、巨大な要塞都市兼観光地になるのは、そう遠い未来の話ではなかった。


 そこにはリディアの時空魔法という便利な魔法があっての事であるが、定時間であれば馬車馬のように働く魔族や魔物たちあっての事だった。 



「本当に便利よねぇ。時空魔法。邪魔なものは消せるし、物の取り寄せは出来るし、移動も出来るし。本当便利よねぇ。」


 子爵邸に備え付けられた、露天風呂に浸かりながらリディアは言葉を漏らした。


 露天風呂には元魔族四天王の二人、元魔王のマオ、来客として呼んだ王女2人と件の断罪劇で強制的に迷惑を被る事になったディアナ嬢。


 さらには、王妃と自身の母の姿もある。視察と静養を兼ねての来訪であった。


 この露天風呂も、山から引いた温泉が利用されている。


 当然、リディアの便利な時空魔法で配管を通している。


『便利ですよね、時空魔法』×5


 開拓と悠々自適な生活に気がいっており、リディアにとって元王太子達の存在は思い出す事はなかった。


 別に便利な時空魔法で記憶を消し去ったわけでもないにも関わらず。




「領地が軌道に乗ったら本当の悠々自適な生活スローライフを楽しみますわ。」


 それは後に不屈の要塞、マルムスティーン子爵領は世界一ィィィィ、世界一の観光地、黄金郷、人生の終着点などと呼ばれるまで言い続ける、壮大なフラグとなった。

 

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冤罪で牢に入れられましたが、時空魔法が便利過ぎて実家のように快適です。 琉水 魅希 @mikirun14

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