冤罪で牢に入れられましたが、時空魔法が便利過ぎて実家のように快適です。

琉水 魅希

第1話 財務大臣達の苦悩

「どういう事だ。なぜ帳簿が合わないのだ。」


 財政を預かる大臣が額の汗を拭いながら、本年度の支出と収入(税収)を見比べていた。


「この月までは一寸の狂いもなく間違いはない。しかしある時から合わなくなっている。どういうことだ!」


 国庫は当然最新のセキュリティが施されており、普段はそうそう開く事はない。


 災害や大体的な工事でもなければ、月に何度も開ける事はないのである。


 そして引き出す時には、誰の命でどこにどういう理由でいくら引き出すかをしっかりと記録に残してきている。


 半期ごと(6ヶ月)に帳簿と国庫内の金銭の実態を照らし合わせ、差異がないかを確認するのである。


 その半期ごとの調査のために確認したところ、帳簿に記載されている金額と国庫に保管されている金額に差異が生じていたのである。


「なんだこの、上位貴族が数ヶ月贅沢するくらいの金額が抜け落ちているのだ。」



「財務大臣、実は国庫の帳簿が合わなくなる少し前にも同じような事が、王太子殿下の方でも……殿下本人は気付いてませんが。」


 部下の一人が帳簿を財務大臣に手渡した。


「なっ、これは……」


 財務大臣が目にしたものは、国庫の帳簿が合わなくなる2月程前から、王太子の帳簿も狂いを生じていたものだった。


「王太子殿下の帳簿を管理していたのは……」


「えぇ、あのリディア嬢です。」


「そうか。つまりアレ以降、管理されていなかったわけだな。」


 大臣はそうはいうが、一応は執事が帳簿をつけていた事は知っている。


 間違いが起き辛くなるよう、王太子の財政は執事と件のリディア嬢とで二重につけていたのである。


 リディア嬢は王太子の婚約者であり、王太子周辺の業務の一部を王太子妃教育として担っていたのである。


「執事からは何の報告もあがってきてはいないが?」


「王太子殿下が例の令嬢にイレ込んでいるのはご存じの通り。まるでパドックで興奮イレ込んでいる競走馬のように。」


「あぁそうだな。王族や貴族の義務を放棄して、真実の愛とやらを口にしてイレ込んでいる令嬢な。」


「王や王妃は例の茶番で何も口にしなかったし、恐らくは内密に調査はしているのだろうけれど。」


「あ、なんかもう理解出来た気がします大臣。帳簿が合わない理由。」


「そうだな……リディア嬢の得意とするのは時空魔法だったか。空間収納の中では時の概念を止めたり進めたりもできるあの……」


「でも、証拠はないんですよねぇ。」


「状況証拠的なものだけでは罪は問えないだろうな。ある意味ではまともな裁判もなしに牢に放り込まれてるわけだしな。」


「しかも王を始め他の誰も表面上は庇ってはいませんし。八つ当たりを含めた行為でしょうかね。」


「国庫はともかく……王太子殿下の方は、少し前に城下で流行だという『ざまぁ』小説の通りなんですけどね。」


 財務大臣の部下達が次々に口にしていく。


 王太子は他に王子がいないため、余程の事がない限りは王太子として次期王となる。


 他に姉妹はいるのだが、男尊女卑ではないが男性が要職では優遇される。


 それは、女性ではどうしても出産などで公務に差し支えが出てしまうため、致し方ないのである。


「王はその余程を期待して廃嫡しようとしてるのでは?」


「おい、お前、流石に不敬だぞ。」


「王の本来の目的は、王太子に優秀な妃を迎えて支え合うことを期待していたのだろう。そのためのリディア嬢だったと記憶しているが。」


 財務大臣の言う通り、リディアは王太子をよく支えていた。


 通常王太子と王太子妃で支え合い、足して2の仕事をこなさなければならないのだが、今世代に限りは王太子0のリディア2だったのである。


 それだけで王太子のポンコツぶりが理解出来るのだが、他に男児のいない王家が頭を抱える所以なのである。


「あぁ、王太子が誕生パーティであんな事しなければなぁ……」


「俺はそのパーティには顔を出してないからな。」


「妹の送り迎えで俺も少しだけ飲食物にあやかってたんだよ。」


「王太子の誕生パーティだから、基本は同学年の者が参加してないからな。」


「絶対リディア嬢は家族と一部の者を除いて全員敵だと認識してるよな。」


「だからこそこの現状……なんだろうな。」


「まだリディア嬢がやったとは限らないけどな。」


「他の空間魔法使いは恐れ多くてこんな事しないだろう。セキュリティを搔い潜れるのだから普通の空間魔法じゃ不可能だし。」


「時の概念も無視できる時空魔法だからこそ……か。」


「状況証拠だけで犯人扱いするのもどうかと思うが……まぁそうだよな。ある意味では勝手に慰謝料をふんだくったような形になるな。」


 部下達が好きに思いを吐き出している中、財務大臣は勝手に納得していた。


 王太子からふんだくるのは良い、しかし流石に国庫はまずくね?おかしくね?と思いながらも、あの場で令嬢を庇わなかったのだからある意味では仕方がないのかと。


「そういえば、牢に入れられてるはずの件のリディア嬢だがな……」


「快適に暮らしてるらしいぞ。」

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