第2話 王太子誕生パーティでの勝手な断罪茶番劇

「リディア・フォン・マルムスティーン!」


 煌びやかな装飾に彩られた衣装を纏う金髪碧眼の男、このサンドリヨン王国の王太子であるマクスウェル・ド・サンドリヨン。


 学園に通う間に限り親しい者や近しいものには、愛称でもあるマックスと呼ぶ事を許されている。


 もっとも、実際に呼ぶかどうかは別問題でもある。


 王太子が大きな声を上げて呼び止めるのは、自身の妃となるべく国王である父王が取り付けた婚約者、マルムスティーン侯爵家の娘であるリディア・フォン・マルムスティーン。


 腰まである銀色の髪は、太陽の光に当たると王太子の金よりも輝いて見えるほど美しいものであった。


「はい、何の御用でしょう、マクスウェル王太子殿下。」


 物静かに丁寧に、貴族令嬢然とした物腰と態度で階段上の王太子に首を垂れる。


 その王太子の横にはおどおどとした様子の、子ネズミのような令嬢の姿があった。


 さらにその周囲には令嬢を守るかのように幾人かの令息の姿も。


「リディア、お前は在学中彼女。ディアナを散々虐めていたようだな。」


 ディアナ・フォン・ソレイユ。ソレイユ伯爵家の令嬢。


 桃色掛かった髪と小動物のような小顔と表情、小さな身体が庇護欲を立たせる令嬢である。


 ディアナ自身の成績は程ほどに良く、中堅貴族の令嬢としては身を弁えている節があるとリディアは記憶している。


 目立たず引き過ぎず、本当に程ほどに埋もれているという認識である。


 恐らくは他に学園に通っている令息や令嬢の認識も同様であろう。


 認識が違うのは、その容姿等に魅入られたのだろうか、王太子と王太子の金魚の糞のように付き従う令息や令嬢達だけであった。


 それらは、所謂王太子派という者たちである。


 派閥もなにも、現王に子息は王太子しかおらず、次期王位を狙う者は王族内にはいない。


 しかし問題は、その王太子自身なのである。


 まずは学業。公表される成績表(テストの順位表)は、偽りである。


 プライドの高い王太子に良い気にさせるために、偽りの成績が貼り出されているのが真実である。


 その実力は、授業を一緒に受けている者であれば直ぐに理解出来る事だった。


 蒙昧な王太子派を除けば、王太子妃として内定おり、婚約者でもあるリディアがこっそりと耳打ち助け舟を出していたのである事は一目瞭然。


 テストに関しても言わずもがなであり、王太子のお世辞にも綺麗とは言えない字を、筆跡鑑定も困難な程酷似させてリディアが記入しているのである。


 もちろん、試験官にはバレないように、自身の時空魔法を駆使して。


 つまりはテストの際、リディアは2人分の回答を書いていた。


 そんなポンコツ王太子ではあるが、リディアが支える事で通常通りの王・王妃の役割を果たせると判断して、とりあえずのところ次期に関してはやっていけると判断されていた。


 王太子0、王子妃2以上という、足し算の合計が2以上になる無茶苦茶な計算式として。



 王太子であるマクスウェルから、リディアにとっては全く身に覚えのない事を、大衆の面前でツラツラと連ねられて右から左に言葉が流れていく事に疲れを見せることなく直立して聞いていた。




 やれ、教科書に落書きがされているだの、ノートが破られていただの、上履きに虫の死骸が混入させられていただの、階段から突き落とされただの……


 どれもこれも騒ぎになっていたので、ほとんどの事は知っているが、リディアには身に覚えはない。


 そこで登場するのが、ディアナを守るように囲っている令息達である。


 彼らがそれらの現場を目撃したというのであった。


 それならば、件の騒ぎがあった際にリディアを糾弾すれば良いものを、何故当時にしなかったのかが理解出来る。


 恐らくはこの誕生パーティですべてを暴露し、リディアを王太子妃候補から外す……婚約を破棄するための材料に使いたかったのだろう。




「それで、何か言い訳や反論はあるか?」


 運動不足のせいなのか、王太子は息を切らせながらリディアに問いかける。


 周囲の令息や令嬢達はどのように反応していいのか戸惑っていた。


 人によっては手に持っていたフォークから食べ物を落としてしまう者までいた。


 それをさっと拾い撤収する給仕達。


 グラスを傾けていた令嬢なんかは、飲み物がドレスに掛かっている事にすら気が回らない。


 そして件のリディア本人は……申し開きも反論も、王族に対して言えるはずもなく、ただ黙っていた。

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