第3話 断罪劇の終焉
「言い訳すらしないという事は認めた、というわけだな。」
つらつらと述べていた王太子の中には、真の愛に目覚めたというディアナ嬢を自らの妃にすると宣言していた。
自身の婚姻は父たる王が取り決めたというのにも関わらず。
王族や貴族は、国や貴族間の結束のために基本的には政略結婚である。
言葉で政略というとあまり良くは聞こえないが、その実は互いにとって実りがあるものがほとんどであった。
互いの領にとって足りないモノを補う事がほとんどであり、それは飲食物であったり近隣する領の位置だったり、武力や学力だったり。
決して派閥を作ったり派閥争いだけのために行うものではなかった。
王太子の婚約者を決めるには非常に難航していた。
何しろ王太子には学もなければ武もない。
魔法も人並み程度。
努力はしないし、取り巻きに持ち上げられていい気になるだけの凡俗であった。
最低限の学力はあるものの、秀でてるわけではない。
姉妹の方が文武共に優れていたのである。
出産など、どうしても公務に差し支えが出てしまうため、王国では要職には大抵が男性が就く、男性社会であった。
男尊女卑とまではいかないが、基本的には男性が中枢を担い女性はそれを補助するというのが一般的である。
国民達はそこまでの固執はないため、女性が経営する飲食店や雑貨屋などは多数存在する。
あくまで政治に関してのみ男性社会と認識するのが正しいだろう。
そのため、マクスウェルが王太子となったのは、リディアという巨大な支えがあるからというのが前提であった。
いっそリディアを女王として据えた方が国としては回ると思わせるくらいには、王族や現要職に就く大臣達は理解していた。
それならば、なぜ王太子の茶番に何も言わないのか。
呆れて開いた口が塞がらないというのが真実なのであるが、この場の誰がそれを理解出来ようか。
時折王太子から目線を向けられるディアナ嬢自身、何を言ってるの?という表情を見せつつも、自分ではどうしようも出来ないのかオロオロするのが精々だった。
ディアナが王太子に好意を寄せているかは定かではないが、親切にして貰っているという面では感謝はしていた。
新しい教科書を貰う際に口聞きしてくれたり、新しいノートを買うために護衛としてついてきてくれたり、階段から落ちかけた際には手当をしてくれたりと。
感謝が恋慕になるかは当人にしかわからないが、王太子の中では相思相愛という事になっている。
ディアナは伯爵令嬢であるため、一応は王太子妃となる事も可能ではある。
ディアナがリディアよりも優秀であれば、王が最初から候補に選んでいる。
リディアが婚約者に選ばれたのは、学園に入学する前……3年は前の話である。
リディア自身侯爵家の令嬢であるため、王に嫁がないにしても同等貴族の元へ嫁ぐ事も見越して、幼少の頃から教育を受けていた。
「殿下、発言をよろしいでしょうか。」
静寂を破ったのは一人の男の声。
リディアにとっては聞きなれた声である。
3つ年上の自分の兄、イングウェイ・フォン・マルムスティーン。
21歳で魔法騎士団の1大隊を任せられる程の時期将軍候補である。
「なんだ。申してみよ。」
鼻で笑うかのような態度で、王太子はイングウェイの発言を許した。
「先ほどから証言が、殿下の周りの者しかおられないのですが、客観的な第三者の証言や証拠はございませんか?また婚約は王自らが選定し望んだもの。王太子殿下といえども勝手に破棄したり婚姻したりは出来ないと具申させていただきますが。」
イングウェイはどうにか言葉を選んで差し支えのないように振る舞う。
「何を言う。俺の側近となる者達の言を偽りと言うのか?それに婚姻や破棄については父に認めて貰う。何しろ父が用意した女の醜悪な面を公言したからな。この場にいるのが同年代ばかりとはいえ、この話はその両親達へと伝わるだろう。実際父兄の一部はこの場に参加しているからな。」
つまり根回しのようなものはこれで充分だ、と言いたい王太子である。
これだけの貴族や貴族令息令嬢の前で詳らかに発表すれば、後には引けないだろうという事だった。
他にもイングウェイに続こうといくつか質問をしたり表情や態度で示したりと、何人かはこの場の異常さに苦言を呈する者は存在した。
しかし、この場を覆すには至らない。
王太子はともかく、王と王妃が焦点の合わない目とはいえ同席しているこの場であれこれと述べるわけにはいかない。
場合によっては不敬罪となる可能性があるため、多くは意見出来なかったのである。
「それで、当のお前から何か言い分はないのか?」
「意見……本当に良いのですか?」
「あぁ、今だけは意見を言う事を許す。」
「意見を言って本当に良いのかを聞いたのではなく、このような事をして、このような事を続けて本当に良いのですか?という意味だったのですけれど。」
溜息を一つついて、リディアは全てを諦めたように口を開いた。
「どうぞお好きなように。投獄でも国外追放でも何でも受け入れます。何を言っても、もう結果は変わらないでしょうし。」
ほとんどの人はその結果が、もうどんな罰でも受け止めると取ったであろう。
しかしリディアは違った。
自分が投獄なり追放なりを受ける事で、自分が担っていた仕事は停滞し、王太子自身の首を絞める未来……を指している事に。
幾人かの、リディアの声を聴きとれた者の中には、リディアの言葉の真の意味に気付いた者もいた。
「おい、何をしている。こいつは全てを認めたんだ。ひっ捕らえて牢へ連れていけ。」
声をかけられた警備達は当然戸惑う。
先ほどのリディアの言葉が、全てを認めた事になるのだろうか。
倫として応対するリディアのどこに悪行をした証になるのだろうか。
もし本当にそうだとしても、この大観衆の中牢に入れる程の事なのだろうかと。
戸惑う警備達を叱責し、反逆罪でお前たちも捕らえるぞと言われてしまえば、従う他なく。
警備達はリディアを連行していく。
ある意味では主役のいなくなった王太子誕生パーティはどこか白けていった。
王太子一派が会場から一旦席を外した際、リディアの兄であるイングウェイは王に進言していた。
「妹の無実を証明する時間をいただきます。その間我が魔法騎士団は休暇をいただきます。もちろん、王自らも調査はされるのですよね。」
イングウェイは休暇を貰った。自身の魔法騎士団1大隊全ての。1大隊……つまりは約1000人近い団員を使うという事である。
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