第11話 面白裁判の行方
「それでは王太子殿下。何か反論弁論はございますか?」
裁判長であるピュセル公爵が促すと、王太子は項垂れわなわなと身体を震わせていた。
王太子の傍には側近と侍らせている、騎士団長候補と宰相候補の男子生徒。
その二人もまた、王太子同様俯き身体を震わせていた。
手をあげ、先に弁論をしようと宰相候補の、現宰相の息子である男子生徒が証言台に立とうとした。
先に発してしまえば苦しみは少なくなると判断したのか。
そのあたりは脳筋(騎士団長の息子)やポンコツ(王太子)よりは頭が回るという事か。
宰相の息子は証言台に立つと、名前と宣誓を行い自らの言動を嘘偽りなく……だが主観的に話した。
聞く者からすればそれはただの言い訳に過ぎず、とても擁護される面などないものだったが、要約すると……
「私は殿下の主張していた事の全てを自分で見聞きしたわけではありません。殿下がそう言うのだからそうなのだろうと勝手に殿下に蒙昧していただけです。」
噂を信じた哀れないち個人を主張したのである。
それで人一人を陥れた事に変わりはなく、当然この見苦しい言い訳を述べた令息にも厳罰は下るだろう。
それでも主犯の一人に認定されるのは避けたかったのか、私はただの取り巻きですアピールであった。
しかし、それは王太子のでっちあげ証拠となんら変わりがない事に気付いていないのか、宰相の息子にしては知識知能に乏しさを表すだけだった。
そして次に証言台に立ったのは騎士団長の息子であり、次期騎士団長にまで上り詰めるだろうと言われている男子生徒。
実際、武芸だけなら学園2位である。そして1位はもちろんリディアである。
「わ、私も直接見聞きしたわけではありません。殿下が言うのだから間違いないだろうと信じておりました。」
「貴殿はリディア断罪の際に身体を押さえつけたと記憶しているが……現行犯でもない者に対していささか暴力的ではないか?貴殿には暴行罪の余地も検討しているのだが……」
イングウェイの追撃なる反論弁論が始まる。
「そ、それは……あの場では、リディア嬢の反撃や逃亡を防ごうと……」
「凛として立っていた
言葉は丁寧だが、イングウェイは怒りを覚えていた。
大事な可愛い妹を暴力的に押さえていた事に。大事な妹が怪我の一つも負っていたらと思うと気が気でないのである。
「も、申し訳ありません。殿下のためにと思い勝手にそう判断して、良いところを見せようとやってしまいました。」
嘘を付いたり駆け引きをしたりするのは苦手なのだろう。言われた事に対して素直に白状する。
そして矛先は再び王太子であるマクスウェルへと向いた。
「お、俺は悪くない。リディアが悪女なんだ。可憐で物腰優しいディアナを妬んでいるだけなんだ。婚約者だった俺に相手をされなくて。」
それからも、王太子にあるまじき罵詈雑言が放たれる。とても未来の王になる人物とは思えない言葉が。
それは大抵の犯罪者がする言い訳であり、王族の威厳も権威もあったものではなかった。
あの断罪の場にいた者も、この裁判の場にいる者も、全ての人間が思っていた、これが満場一致というやつかと思いながら。
【こんな人物が次期王では国は終わると。この期に及んで何を言ってるんだと。】
「それでは……リディア・フォン・マルムスティーン証言台へ。」
裁判長に促され、リディアは証言台へあがる。
件の断罪劇で言及された事への反論を自らの口で説明するためである。
「まずは、ディアナ様と私はそれほど面識はございません。同学年という意味で多少の面識がある程度です。」
「王や王妃からの依頼ですが、当時私は将来的には王室に入る予定でしたから、国家事業に対して携わるのですから今から慣れておきなさいという事で同席させていただいたり、書類作成などを手伝うという事を行っておりました。本来であれば、王太子殿下もその場に同席しなければいけない事なのですが……」
残念おつむなのか、その場に王太子が呼ばれる事はなかったのである。
二人で2という王と王妃の関係性が保たれるのであれば、実権は王妃となるリディアが握っていれば問題ないと判断されての事である。
次期王は、行事で顔を出す程度で良いという認識だった。
それでもマクスウェルが王太子になるのには、男尊女卑程でなくとも男が優遇されている世界であれば致し方ない面でもある。
「件のお茶会は、文化祭実行委員の女性のみを集めた懇親会のようなものです。私が実行委員長でしたので。」
別の世界でいうところの、『女子会』というものである。
これも書物の中から得た知識を参考に、リディアが女性だけを集めて行った会である。
貴族令嬢だけのお茶会だと、殺伐としたイメージが強いと考えた結果である。
「そういった事もあり、数度会話した事ある程度のディアナ様と特別にいざこざがあった事はありません。委員会の中での意見交換はともかく。」
そして次は渦中の一人でもある、ディアナ・フォン・ソレイユが証言台に立った。
「私は……リディア様に何かをされたと思った事は一度もございません。もちろん嫌がらせを受けたとも思っておりません。」
王太子にとっては衝撃の一言が発せられる。
そして王太子が主張した事に対する、イングウェイの弁論に対しても同意する。
「私は絵が下手だと自覚しております。実家では父が勿体ないからと、私が幼少の頃から描いていた落書きを残している事も承知しております。」
「階段から落ちた時は……私の不注意で転んで運悪く数段階段を踏み外してしまい足首を怪我してしまいましたが、いつの間にかリディア様が突き落とした事になっていて……」
「私が真実を言っても、殿下は俺に任せておけと言うだけでまともに取り合ってはくれませんでした。」
「しかし、私が何かを言おうにも、私はただの伯爵令嬢。自分が爵位持ちでなければ、相手は王族です。正直相談出来るのも家族以外には僅かしかおりません。」
「声高に反論出来ず、リディア様にご迷惑をおかけしてしまった事は私の罪です。今更体の言い謝罪程度では済まない事も承知です。」
しかし、イングウェイはこの裁判でディアナを罪に問おうとする発言は一切していない。
先ほど証言台に立ったリディアも同じである。
強制退場させられた王太子だけが自分を正当化しているだけである。
取り巻きの二人でさえ、自らの未熟さこそ露呈させていたが、裁判中リディアやディアナを責める事は一切していない。
「裁判長、これでリディアの無実は証明出来たと存じます。」
「客観的証拠、証言に基づき、リディア・フォン・マルムスティーンは無罪とする。」
カンカンと鳴り響き、裁判長は判決を下した。
「それでは次に、冤罪でリディアを陥れた王太子殿下とその取り巻き2名の罪状についてですが……」
「それにつきましては別途場を設けさせていただきたく存じます。本日はリディアの無実の証明と釈放だけで充分です。」
そして裁判の最後に王が姿を現した。裁判所の一同はその様子に驚きはしつつも、王からの言葉を待っていた。
「マルムスティーン侯爵令息、イングウェイ。追って侯爵にも通達するが、此度の事に対して報告と所存を伝えたいと思う。令嬢と共に登城してもらいたい。」
余談となるが、後日リディアと同じようにあの牢に捉えられていた犯罪者(仮)の裁判も行われた。
刑の軽くなった者、冤罪と分かり釈放された者と様々だった。
そのほぼ全てに王太子が絡んでおり、王太子の横暴さが露呈される事となった。
それら全てが数日のうちに片付き、実家に戻っていたリディアはそれまでと変わらない生活を送っている。
変わった事と言えば、王太子妃教育がなくなったくらいだろうか。
そして後日。王城にある会議室に集められたのは……
リディア本人を含むマルムスティーン侯爵家一同、現宰相、現騎士団長、第一第二王女、最後に着席を済ませた王と王妃であった。
王は王らしくなく、テーブルに肘を乗せ指を絡ませその上に顎を乗せた。
そして一つ溜息を付く。
「ふぅ。このような体勢で済まぬな。」
「まずは、裁判の様子からして理解していると思うが、宰相と騎士団長の息子が親の地位を受け継ぐ事はない事は最初に伝えておく。そのために二人も同席して貰った。」
「そして、王太子……マクスウェルの処遇だが……」
「廃嫡し、王族から除名とする。しかし市井に出すわけにもいかないので、僻地で隔離幽閉にしようと思う。」
前半の廃嫡と除名は言い切っているため決定したという事。
後半の隔離幽閉については、これで良いか?とマルムスティーン侯爵家の面々に尋ねていた。
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