第12話 王家と侯爵家の非公式会談と空気の読めない存在
「この場に主犯の3人がいないという事で察して欲しいが、マクスウェルは今謹慎させている。宰相と騎士団長の息子の2人も同様だ。」
リディアは強制的に牢へ入れられたというのにも関わらず、一時的とはいえ随分と甘い謹慎処置である。
「学園の卒業資格だけは与えようと思うので、課題だけだして自宅勉強という形を……」
「それは随分と都合が良い話ですね。娘は通学も許されなかったというのに。」
王の言葉を遮るのは通常不敬に当たるのだが、マルムスティーン侯爵は構わず遮った。
牢に入れられていたのだから、学園に通う事は不可能である。
例え優秀な成績を修めていたとはいえ、リディアはいち生徒である。
「そうですね。3年の実刑、賠償金として王金貨10枚が妥当なところかと存じます。これには慰謝料も含む金額となっております。」
口を挟んだのはリディアだった。
なお、王金貨とは金貨100枚に相当する。
別の世界ではこの世界の金貨100枚は、いちおくえんに相当する。
「私に対する様々な冤罪、他の収監していた者達への過剰な罪や冤罪、諸々含めてそのくらいがバランスの取れた罰かと存じます。」
もちろんそれはマクスウェルに対してである。
他の二人は1年の実刑、金貨500枚が妥当だと言う。
それでも充分重い罪であり罰だ。
「それと、ここからは非公式なんだが……」
「いっそリディア嬢に女王になって貰うという事は……」
「お断りします。」
王太子妃としての教育をされており、実質次期王としての資質をと秘密を持しているリディア。
このまま野放しにするには、国家機密を知りすぎている。
悪用しないとは公言されていても、安心出来ないのも事実である。
それであるならば、いっそ王位をマルムスティーン侯爵に渡してしまいたいというのも、一つの本音でもあった。
「だよなぁ。」
非公式という事で、王も砕けた口調となっていた。無礼講とは言わないが、下手に堅苦しくしないでくれという事だった。
王達は以前イングウェイが申し伝えた、王女どちらかを次期王にという事は理解している。
幸いか、両王女に現状婚約者はいない。
「それなら以前侯爵家からの要望のあった、次期は王女に王位を譲るという体で、マルムスティーン侯爵家子息、イングウェイに第一王女・ペチオスセキュナスの婚約者になって貰うのはどうだろうか。」
ピクっとイングウェイのこめかみが反応する。
「二人は同い年だし、学園でも面識はあるし、どうだろうか。他の貴族からは権力の集中を勘ぐられないわけではないが。」
「え?嫌です。」
否定の言葉を表したのは、当のイングウェイではなくリディアだった。
「お兄様……兄が王家へ婿養子で入るという事は、私まで王族と近くなってしまうではないですか。王女二人と義理の姉妹となるのは良いですけど、私はもう政治的な云々はお断りしたいと存じます。」
「王家からはリディア嬢に政治的介入はしないしさせないと誓おう。」
「私は婚約破棄もされ独り身となりましたので、これを期に
「予定としましては、小さな町か村で商売か畑でも耕しながら……」
「それなら良いことろがあるぞ。」
王は地図を持ち出し、指を差した。
そこは海と山の両方が程近く、海と山の幸が共に採れそうな場所であった。
さらに王家直轄の領であり、マルムスティーン侯爵領とも隣接しているため、名目上はマルムスティーン侯爵へ割譲という体もとれるのである。
「お前を隠居させるには勿体ないんだがなぁ。自領では落ち着いたりは出来んか。」
王女とイングウェイの婚約話が有耶無耶になりかけそうに、リディアは話を誘導させていく。
それが無駄に終わる事も何となく理解はしていたのだが、無駄な抵抗はやるだけやってみようと思っていた。
無駄な抵抗と思うのは、第一王女であるペチオスセキュナスが、実はイングウェイラブラブだという事を知っているからである。
それはもう学生時代からの話で、ペチーから何度も相談に乗っていた程である。
結局王女から告白……なんて出来るはずもなく、かといって自身の婚約を自ら進められるはずもなく。
リディアがマクスウェルと婚約状態にあった事もあり、王女は身を引いていたのである。
同じ家門から2組も王家と婚姻するわけにもいかないため、ペチーは自身の婚約を引き延ばしていたのである。
リディアとマクスウェルの婚約がなくなったのであれば、イングウェイとペチオスセキュナスが婚姻を結んでも、世間体としてはギリギリ許容範囲ではある。
しかし、ペチーがイングウェイを好いている事をしっているのは、リディアと第二王女・セノスペキュナスくらいのものである。
それとなく気付いている者もいるだろうが、王の先ほどの言葉はある意味必然でもあった。
「王女はお二方共に聡明である事は存じてます。娘・リディアとも懇意にされてる事も存じてます。王女のどちらかが男児であったなら後継者問題が拗れていなかった事も存じてます。」
リディアの奮闘むなしく、話を戻してしまったのはマルムスティーン侯爵である。
「婚約については両名の意見を聞いてからでも遅くはありますまい。政略なのはさておき、またしても破断や破棄なんて事になってからでは、他の貴族にも示しがつきますまい。」
この話はまた後日……といったところで、小休止となる。
マクスウェルの処遇については、3年の実刑後、幽閉。
それは逃亡や自死防止の首輪を着用した状態でである。
そして上手くまとまりかけていたところで、空気を読めない存在というものは現れたりするものだ。
「しっ失礼します。」
ノックの後、返事も待たずの慌てた様子の兵士が入室する。
「何事だ。王の御前であるぞ。」
「そ、それが……魔物の大群が王城に迫ってきております!」
息を切らせながら、大きな声で王国の危機を発した。
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