第13話 かつてない程雑な扱いの魔族と魔王達

「ちょっと行ってきますね。」


 慌ただしい雰囲気の中、リディアが席を立った。


 リディアが歩き始めると、その姿がふっと消える。


 自らの時空魔法で別の場所に移動したのである。


「あっおい。」


 イングウェイ、魔法騎士団団長の仕事をぶんどる形となるのだが、今のこの場で理解出来る者はいない。






「魔物も調教すればとても良い労働力ですのに。お兄様達に任せたら殺害素材となりますからね。」




「はいはーい。この中で一番偉いのは……」


 指揮を執っているだろう魔物の傍にリディアは移動する。


 時空魔法、物凄く便利である。


「なっ何?」


 青少年には見せられない際どい恰好をした女魔族の前に、リディアは突然現れる。


 別の世界ではサキュバスと呼ばれるような、紐で大事なところだけを隠したような、性欲を掻き立てるような恰好である。


「このまま大群で攻められると流石に問題なので、引き上げてはいただけないでしょうか。」



「貴様、私が魔王様の四天王と知っ……ぶべらっ」


 リディアは持っていた扇子で女魔族の左頬をはたいた。


「言ってわからない人には実力行使しますよ。」



「もうしてるじゃ……はべらっ!」


 今度は右の頬を扇子ではたいていた。


「いえ、なんだかはたきたくなるようなほっぺただったので。」


「な、なんだその道端に落ちてた石ころを邪魔だから蹴っ飛ばしたみたいな言い……はきゅんっ!」


 リディアは構わず右に左に扇子を振って、女魔族の頬を往復ビンタする。


「あびゃ……」


 別の世界の少年誌で連載されていた、お猿さんが主人公の漫画や、馬が喋ったりする漫画に出てきたキャラクターのように、頬と唇が腫れあがっている女魔族。


 登場時の美貌はどこへやら、お色気担当から完全にギャグ担当へと変貌していた。


「きょっこの……ぶっころしてや……」


 女魔族が両手を上げると、そこには突然大きな毒々しい火球のようなものが現れた。


 そしてリディアが扇子をその火球に向かって指すと、その火球はふっと姿を消した。


「便利ですよね、時空魔法。」


 

「な、なな、か、核融合魔法を指先一つで搔き消した?」



「あら、そんな物騒な魔法だったのですね。」



「も、申し訳ありませんでしたー。軍団は引き上げさせていただきますー。それと貴女様に忠誠を誓いますー。魔王様には辞表を提出してきますー。」




 女魔族がいた場所は濡れていた。







「というわけで魔族の皆さんはお帰りになりました。これが大将を務めていた女魔族の衣装戦利品です。ちょっとアンモニア臭が混じってますが。」


 リディアはばっちいものでも持つように指先で紐状の何かを摘まんでいた。



 出ていった時と同様、突然現れたリディアは事の顛末を簡潔に説明した。



 それらを聞いた王は、疲れた様子を隠す事もなく、リディアに対する褒章を口にする。


「リディア嬢には爵位を。そしてさっき話した土地をリディア嬢の領地として……」



「辞退させていただきます。私は領主になるつもりはありませんので。」


「領地運営は代官に任せても良いから。さっきの大きな塊、あれ魔族が放とうとしたものだろう?それを掻き消して、魔族の大群を退かせた者に褒美を与えないわけにはいくまいよ。あの魔法の塊は王都の国民にも目に入ってるだろうからな。」


 一旦お開きとなる会合。後日改めて本日の決定事項を発表するとの事だった。




 そして後日、正式に子爵位を拝命するリディア。


 これはリディア個人に与えられた爵位である。


 王国にはマルムスティーン侯爵とマルムスティーン子爵の二つが存在する事になる。


 別の世界でいうところの英国式であるため、家が断絶しない限りは失われる事はない。


 日本式のように陞爵される事はないのである。


 王からはややこしくなるので、結婚して姓が変わる際にはそちらの性に変更しても可とされていた。


 慰謝料として王金貨10枚、王族直轄領、5年の税金免除、以降も他領より1割免除等、他にもリディアにとって都合の良い制約を貰っていた。


「それで、その……リディアの横にいるのは。」


 一旦王都にあるマルムスティーン侯爵邸に集まった一家。


 マルムスティーン侯爵が、指を差してリディアに問いかける。


「魔族の四天王の皆さんですね。あの後、順番にですが3人の四天王を名乗る方たちが現れまして。全員調教した結果、働かせて欲しいと言ってきまして。」


 2人の男魔族と2人の女魔族。4人の部下が出来たのである。


「新天地で悠々自適な生活スローライフを送るための働き手とでも言いますでしょうか。彼らに任せてひゃっほいしようかなと思いまして。王も代官を立てて良いとおっしゃったではないですか。別に王家からの代官である必要もありませんし、彼は魔王の元で宰相も兼任していたそうですから優秀だと思います。」




「それで、その……リディアの腕にしがみついている幼女?少女?は一体……」



「四天王の皆さんを取られたと、元雇い主である魔王が攻めて来たんですけどね。返り討ちにおしおきしたら懐かれてしまいまして。」



 10歳くらいに見える少女は、なんと魔王であった。


 先代魔王が引退すると娘にその役を押し付け、先代は旅に出たとの事だった。


 押し付けられた魔王は、国民の生活のために人間世界の王国へと軍隊進行遊びの下調べに出たとの事。


 その際にリディアに返り討ちにあい、部下を悉く失い自ら出張った時には、魔王自身も返り討ちにあった。


 そしてそのままリディアと行動を共にするに至る。


「小さい頃の第二王女と思えば可愛いものですよ。」


 リディアは元魔王の頭をなでなでする。



「それに、私が瑕疵された領で魔族や魔物と開拓すれば、彼らも衣食住には困らないですし。私は悠々自適に過ごしますし、領地運営は四天王の皆さんが行ってくださいますし。」


 魔物も統制が取れていれば別に害獣というわけではない。


 四天王にはそれぞれ特色があり、配下が存在する。


 別の世界の、会社で言うところの四天王は部長職のようなものだ。





「では、四天王を始め魔族の代表の皆さんは、まずか侯爵家で自分が担う仕事の役割を覚えてください。合わないと思ったら配置変換しますので、遠慮なく報告するようにしてください。」



 そして1か月近い時間を教育調教期間に費やし、リディアは悠々自適生活スローライフのために馬車に乗った。


 全員を連れて時空魔法で移動してしまえば早いのだが、現地民がびっくりするだろうという事で、馬車での移動を決めた。


 現地民には新たな領主と領民が向かう旨は先ぶれとして、王命が届いている。


 それがまさか魔族や魔物とは記載されていないが。



 マルムスティーン侯爵家の紋章の入った馬車や旗を掲げた一行リディアと愉快な仲魔達は、マルムスティーン子爵領となる新天地へと歩みだした。

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