第5話 二つ名はいつの間にか増えていた

 看守は鍵を開け、リディアの牢内のモノを運び出そうとする。


 冷静に考えてみれば、これらの差し入れはおかしいと結論に至ったわけである。


「あばばばばばばばばばばば……」


 強引に運び出そうとした看守は突然の感電に見舞われる。


 ある程度のモノには持ち主登録というものがある。


 強盗・盗難防止対策……というのが真実のところではあるのだが、登録をすることで、そこに登録のある者以外……この場合は魔力登録であるが、登録者以外が運びだそうとすると、死なない程度の電流が流れる仕組みとなっている。


 なお、全身に電流が流れるため、一部の男性は子種が死滅してしまう可能性も或る。


 それから、強引な持ち出しをしようとする看守はいなくなった。


 電撃ビリビリは痛いし、万一子種がなくなると困るからである。




「ななな、なんだ。この美味そうな匂いは!?」


 ある時の看守は、リディアの牢からとても食欲をそそる、香しい匂いが漂ってくる事に驚いた。


 リディアの手には包みに収まった、パン生地に挟まった肉と野菜の、そういえば見た事のある食べ物に目が行っていた。


「城下で話題の、『はんばあがあ』という食べ物ですわ。このソースがお肉と野菜に絡みあってとても美味ですよの。ただ、あまり食べ過ぎると体形が崩れてしまいそうですけどね。あと、この『こーら』という飲み物も刺激的ですね。次は『すぷらいと』か『かるぴす』にしましょうかね。げーっぷっ。あら、はしたないところをおみせしましたわ。」


 他の牢からは、『姫君のげっぷいただきましたー。モエー。」とか聞こえてくる。


 看守はこれまでツッコミを入れる事はなかったが、他の囚人達の牢内が変化している事も暗黙としていた。


 リディアの牢程ではないが、かなり魔改造されているのである。


 とはいっても、ベッドやトイレ、簡易シャワーなど程度のものではあるが。


 それだけでも、牢という事を考えれば相当居心地が良いのである。


 気が付けば、リディアは『牢屋のアイドル』、『牢屋の姫様プリズンプリンセス』(略してプリプリとも)、『牢屋の天使様プリズンエンジェル』などと呼ばれるようになっていたのである。



「あ、看守様もおひとつどうです?さすがに3つ以上は入りませんわ。」


 1セット……はんばあがあ、ぽてと、こーらが看守に手渡される。


 唖然として受け取る事しか出来なかった看守は、他の看守に見つからないよう、その場で全てを食した。


 これがアメというものであり、以後この看守は比較的リディアに協力的になった。


 主に、リディアが持ち込むモノを、見て見ぬふりするという行為である。


 そして、決して自ら来る事はないであろうが、王太子やその側近候補達が牢に来ないように働く事。


 もしくは、いつ来訪するか、知りうる限りで教える事を、勝手に約束してきたのである。


 アメはやはり美味しいものに限ると、リディアだけでなく周囲の囚人達もうなずいていた。





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