魔法少女大部隊
私は「カレイドスコープ、オープン!」と変身すると、リリパスに文句を言う。
「ちょっと! 久々の実家の里帰りだったのに! というか、ここ私の普段の管轄じゃないんだけど!?」
「ミュミュウ……申し訳ございません。ですが、この地にいる魔法少女たちだけですと、人手が足りず……」
「人手が足りないって……いったいどんな闇妖精が出たの」
しかも今日は休日だ。こんなものに巻き込まれたら一般人だってたまったもんじゃないだろう。私が風を足に纏わせて空を飛んでいると、既にファンシーな格好をした魔法少女たちが集まっていた。
さすがにうちの地元から離れた場所で屋台を構えているテンカさんはいなかったものの、レーシーな格好の魔法少女たちがカレイドタクトを持って、オーラを使って攻撃していた。 そしてその攻撃先だけれど。
……怪獣か。なんだ、この間映画の大きな賞を獲ったような気がする怪獣か。たしかに闇妖精でもいろんなものが混ざっているのと戦ったことはあるけれど、ゴリラとトカゲが混ざったようななんかよくわからない巨大生物と戦ったことなんてないぞ。
「というか! なんでこんな大きなものが、こんなところにいるの!?」
「ミュ、ミュミュウ~、わかりませんよう。とにかく魔法少女の皆さんでなんとか闇オーラを吸収しようとしているんですが、大き過ぎてカレイドタクトに闇オーラが収まりきらないんですよう」
「え……それってまずいんじゃ?」
「まずいですよっ、闇オーラは普段カレイドタクトで濾過して、オーラとして使用しますが。カレイドタクトの濾過が追いつかないほどの大きさですから」
そこまで言ったところで。
「ホーッホッホッホッホ!!」
今時聞かないタカビーな声が響き渡った。最近本当にタカビーなんて聞かないなあ。
「魔法少女たち! 今までよくもよくもやってくれたわねっ! こてんぱんにしてやるんだから、覚悟なさい!」
「うるさい!」
「空気読め!」
「今怪獣討伐で忙しいの! あっち行って!」
地元の魔法少女たちに一斉に非難囂々の罵声を浴びせられて、うっすらと涙目になる。
でも。普段の白を基調としたワンピースはすっかりと闇色に染まってしまい、レースも気のせいか真っ黒に染まってしまっている。
下水に落ちた訳じゃないんだったら、つまりは。
「闇オーラの濾過が追いつかなくなって、闇落ちしたって訳ね……」
「ミュミュウ……はいです。皆で闇オーラをどうにか吸収しようと、中に溜め込んだオーラを使って攻撃して容量を空けますが、それでも追いつかないんです」
「闇落ち魔法少女は無視するとしても、あの怪獣は無視しちゃ駄目だよね……町の避難誘導は?」
「サポート特化の魔法少女がしてくれています」
「よかったぁ……」
たしかに普段だったら殴って倒してその間に闇オーラを吸収してしまえばおしまいだけれど、それだけだったら終わりそうもないから問題なんだ。
闇オーラは濾過すればオーラだけは攻撃に使える。それぞれ向いているオーラがあるから、それに合わせて攻撃できる。でも濾過が間に合わなかったらああやって闇落ちする訳で……この子元に戻せるんでしょうねえ。
どっちみちお兄ちゃんの付き添いで帰ってきたんだから、さっさと終わらせないと挨拶できない。私はカレイドタクトを構えて、一番年上らしい魔法少女に声をかけた。
「すみません。首都から来ましたカレイドナナです。今あの怪獣退治まではわかるんですけど、これどうなってますか?」
「ああ、救援ありがとうございます! 自分はカレイドルーナと言います! 普段ここまで大きな闇妖精現れない上に、闇落ちも初めて見ましたので、今全力で対処中です」
ルーナさん曰く、ここは地方都市だけれど食い倒れの店が多い関係で闇妖精の発生率が高いらしく、そのせいで比較的魔法少女の数が多いのだとか。
リリパスが前に言っていた、飽食から闇妖精が活性化しているってこういうことかあ。
そして怪獣になった闇妖精。皆でオーラで攻撃しているものの、どうにもならないで、困っていると。
「ええっと……ちなみに皆さんのオーラってなんですか? 私は風なんですけれど」
私がカレイドタクトにひょいっと風を吹き出させると、皆それぞれ手を挙げてくれた。
「自分は水です。霧が出せます」
そういいながらルーナさんがプシャーと水を出した。霧雨が肌に心地いい。
皆振り返って「火です」「土です」「ちなみにサポートに回ってくれている子たちはほとんど土ですね。そこで怪獣がこれ以上人を襲わないよう誘導してました」と教えてくれた。
なるほど……。ここだと土が多めで、風は稀少価値高い感じかあ。でも土で土豪をつくって怪獣から町を守っていたのは恐れ入った。
……うん?
「リリパス、ひとつ質問」
「ミュミュウ? なんでしょうか、ナナ様」
「闇オーラって、放っておくと生き物に寄生して闇妖精になったり闇落ち魔法少女になったりするんだよね?」
「ミュ、ミュウ……はい、残念ですがその理解で合っています」
「ところで魔法で生成した壁の中に闇オーラの濾過ができるまで保存した場合、どれだけ持つ? 具体的には闇オーラが人や動植物に悪影響与えない時間を教えて欲しい」
「だ、誰もそんなことしたことありませんけど……多分三日くらいまでは土壁の中に保管してても大丈夫かと思います。でもちゃんとカレイドタクトに入れて濾過しないと駄目ですからね?」
「わかった。あのう、ルーナさん」
「はい?」
こういうのは縄張りの問題だし、よそから来た私がどうこう言ったんじゃ、この辺りのリーダー格のルーナさんに悪いよなあと思う。
「作戦を思いついたんですけれど、これって実行可能ですか?」
「できるんですか? 怪獣退治、になりますよ?」
「一応は……」
ルーナさんに説明したら、途端にルーナさんは目を輝かせた。
「皆、集合! 助っ人のナナさんが考えてくれた作戦があるから!」
ルーナさんの号令で、私の考えた作戦が即座に伝わる。訝しがる子、困った顔をする子もままいる中、皆が目を輝かせた。
「やりましょう! このまま身内が闇落ちしててもしょうがないですし!」
「あの子の闇落ち解くためにも、まずはカレイドタクトの容量をなんとかしなきゃ、ですよね!」
こうして、皆で作戦を決行することとなったのだ。
****
私が考えたのは、「とりあえず闇オーラを吸収するのを、カレイドタクトではなく、一旦土でつくった箱の中に接続し、その中に向かって闇オーラをほうしゅつしよう」端的に言うと、私の風を掃除機の吸引力に見立てて吸い取り、掃除機のゴミパックに見立てた土壁の中に封印。回収し次第、空っぽになったカレイドタクトの中に闇オーラを入れてオーラに濾過。ただし闇落ちしない程度に。
オーラを使って体力消費を回復させながら、闇落ち魔法少女たちを元に戻すべく闇オーラを吸引する。そういう作戦だった。
これだけ土オーラを持っている子の多い場所でなかったら、この作戦は立てようがなかったものの。人を守るためにつくった土壁が、今は闇オーラを閉じ込めるための箱となろうとしていうr。
「カレイドスコープオーラジアース!!」
さんざん怪獣から吸引した闇オーラを土オーラに変えて土壁をどんどん増やしていき、それを掃除機に見立てた箱へとカスタマイズしていく。
そして私は自分のカレイドタクトを持った。
「カレイドスコープウィンドオーラ……!!」
カレイドスコープは一瞬大きく太くなったと思ったら、掃除機のノズルのような大きさに変わる。それを掃除機に差し込むと、ギュインギュインと音を鳴らした。
「さあ、吸い込むから。大人しく、なさい……!!」
怪獣に向かって巨大掃除機を構える。怪獣が暴れ回ったおかげで、アスファルトは不自然な足跡だらけになってしまっている。
私が巨大掃除機で吸引をしようとしたら、当然ながら怪獣が邪魔をしようとするけれど。
「そうは」
「させるかあ!!」
ルーナさんたちが、火のオーラ、水のオーラで怪獣を足止めしてくれている。火力の強い攻撃オーラを使うふたりのおかげで、闇オーラの吸引がスムーズに進んでいく。
だんだん、あれだけ暴れ回っていた怪獣も小さくなってきたのに気が付いた。
ギュインギュインギュインと掃除機の音。ようやっと闇オーラを吸収したときには、ぽこっと猿が現れた……なんで町の中に猿がいるの。
その猿は一瞬ぎょっとした顔をしたあと、そのままキキィと鳴いて退散してしまった。
その場で私はしゃがみ込んだ。
「はあ……しんどかった」
「お疲れ様です! いきなりの助っ人でしたのに」
ルーナさんが気を遣ってくれ、回復オーラを放てる子を連れてきて私の手当てもしてくれた。これだけたっぷり闇オーラがあったら、それを継ぎ足し継ぎ足しでオーラの補給にもあてがえるだろうし、闇落ちした子も元に戻せるだろう。
「全部終わりましたら、打ち上げで焼き肉とか食べたいですねえ……」
私の言葉に、ルーナさんは破顔した。
「本当だったら私たち、屋上バーベキューの予定だったんですよ。ナナさんもいらっしゃいます?」
「えっ……バーベキュー?」
バーベキューは人に接待してもらった肉が一番おいしい。人の世話をしながら食べるとちっとも食べた気がしない。
私は自然とお腹をキュルルと鳴らした……魔法少女は燃費がいいんだか悪いんだか。
実家に挨拶に行かないと駄目だけど、先に招待されたバーベキューに行ってもいいかな。私の決意は弱かった。
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