打ち上げのバーベキュー
私はルーナさんたちと一緒にバーベキュー場へとやってきた。
「バーベキューって、河原や海辺でやるもんだとばかり思ってたんで、まさかバーベキュー専門のハウスがあるなんて思ってもみませんでした」
「焼き肉屋と同じ理屈ですね。換気扇をガンガンに回して炭火を使っても一酸化炭素が増えないようになってるんですよ。それにここで素材を用意してもらってますから、手ぶらでバーベキュー気分が味わえるんでお得なんです」
「へえ……」
たしかに女子グループでバーベキューをするとなったら、網や炭は重くてひとりじゃ運べないし、食材も皆でばらけて持っていくとなったら大変なんだ。
そう考えると、店舗で用意してもらって、セルフサービスで焼いていくのが一番いいのかもしれない。
魔法少女の姿でも、店の人たちが誰も気にしないのは、いったいどういう名義で予約したんだろうなあ。
そんなことを考えつつ、店の人たちにノンアルコールのカクテルを注文しはじめた。
「魔法少女の格好してるときって、さすがにお酒飲むのは罪悪感湧きますよねえ」
「わかります。肉にはビールかジンジャーエールをぐいっと合わせたいところなんですけど」
「でもレースフリフリにジョッキはちょっと、ねえ……」
魔法少女も様々だ。
バーベキュー場が用意してくれたのは、定番の薄切りとうもろこしにかぼちゃ、じゃがいも、にんじん。それらを皆で網で焼いていく。
あといい匂いがすると思ったら、スペアリブやソーセージを焼きはじめていた。
皆でそれぞれ取り、バーベキューソースを付けて食べはじめる。
濃いバーベキューソースに野菜の甘みはよく合う。そしてスペアリブ。噛めば噛むほど肉の脂の甘みを噛み締められて、ずっと食べていたくなる。
「おいしい……!」
「そりゃよかったです」
「でもいつも魔法少女たちでバーベキューを?」
「いえ。私たち、元々大学生で同じサークルに入ってサークル活動してたところでリリパスに声をかけられたんですよ」
それに私の心は傷付いた。
そりゃアラサーが魔法少女やってるなんて言ったら、この子たちだって反応に困るだろう。私の年齢は伏せておかないと。
リリパスはというと、他の魔法少女たちに「これ食べる?」「これは?」と肉や野菜をもらっていた。リリパスは酸っぱいもの以外はなんでも食べるけれど、とりわけとうもろこしがお気に召したらしく、それをもりもり食べて目を輝かせている……そういえば中華のとうもろこしスープにもやけに食いつきがよかったから、甘い野菜が好きなのかもしれない。
そうこうしている内に、「お待たせしました」と店員さんがノンアルコールのカクテルを持ってきてくれた。
肉に合うのはシンデレラにサラトガクーラー、そしてノンアルコールで仕立てたモヒートだ。
シンデレラはオレンジジュース、パイナップルジュース、レモンジュースを同量入れてシェイクしたもので、炭酸が入ってないから炭酸が苦手な人でも飲みやすい。
サラトガクーラーはライムジュースとシロップをジンジャーエールで割ったもの。こっちも比較的甘めだけれどジンジャーエールの分の炭酸が入っているから、さらっとした味わいでも炭酸が苦手な人は苦手かも。
そしてノンアルコールのモヒートは、ライムとミントに炭酸水を注いだシンプルで全く甘くないカクテルだから、肉に合う代わりに苦手な人はとことん苦手な味わいとなっている。
私はモヒートを飲みながら、肉を食べはじめた。肉は本当はビールと一緒に飲むのがいいけれど、肉がおいし過ぎてビール飲み過ぎると、翌日胃がしくしく泣いてしまうから、アルコール摂らずに食べられる範囲までで肉を食べ終えないといけない。
なによりも、私はまだ実家の門にまでしか辿り着けてないのだから。
「それにしても、今日はナナさん、わざわざこちらまでどうなさったんですか?」
「いやあ……家出していた兄が、実家に彼女連れて挨拶に行くっていうのを仲介頼まれてたところでリリパスに捕まったんですよ」
私が軽く言うと、大学生魔法少女たちは全員凍り付いた。
……申し訳ないな。私は私で肉食べている理由が、家に着いたら野菜しか食べさせてもらえないという危機感だからだというのに。最近はヴィーガンなる生きとし生けるもの全て食べちゃ駄目って食習慣もあるから、うちのお母さんそれに染まってないだろうなという警戒もある。
皆を代表して、ルーナさんが声を上げた。
「だ、駄目じゃないですかね!? それお兄さん困ってませんか!?」
「私も唐突に頼まれて困ってますけどねえ。うちの父とは連絡取り合ってましたけど、母は変な食生活送ってたのが原因で、兄は家出し、父は家だと滅多に食事摂らなくなりましたから」
「それってさらっと言っていい話なんですかね!?」
大学生たち困らせちゃって、このアラサー困ったもんだな。
他人事のように思いつつも、私は値段を確認してから、自分の分を支払う。
「いえいえ。私は私で、魔法少女してなかったらこんなにおいしいもの食べる機会あんまりなかったんで。今が一番楽しいんですよ。ごちそうさま。空気悪くしちゃってごめんなさい」
現金持っててよかった。さすがにカードで格好よくお支払いしようにも、魔法少女で名前書きたくないし。
それにルーナさんは「えっと!」と再び声をかけた。
「こちらこそ、応援本当にありがとうございます! なんだか大変そうですけど、頑張ってください! 戦い終わったあとの肉って、無茶苦茶おいしいですよね!」
その言葉に、私は思わず破顔した。
ルーナさんはルーナさんで、戦い明けの肉の美味さがわかるなんて、わかってる勘がものすごい。
「そりゃもう!」
こうして、私は道の途中で変身を解くと、怖々と実家へと帰ることとなった次第だ。
****
数年家に帰ってなかったというのに、外観だけは本当になにも変わっていなかった。私はチャイムを鳴らすと『はあい』とチャイム越しに声をかけられた。
それに私は喉を鳴らす。
「お母さん? お久し振りです。奈々です」
『あら奈々! お兄ちゃんいきなりやってきたと思ったら、奈々が途中でいなくなったとか言ってて心配してたわよ!』
「ごめんなさい、急な呼び出しで……」
『なあに、それ。とりあえず入ってらっしゃい』
久々に聞くお母さんの声は、本当に何年ぶりだというくらいに上機嫌に聞こえた。
お兄ちゃんと梅子さんのお付き合い、認めてくれたんだろうか。それともふたりにまた無茶なことを言って、今度こそ絶縁宣言か。
私は怖々としながら、久々の実家に足を踏み入れたのだった。
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