#017


※今回のヒトマクは、KAC20243にて執筆したものを再編集しています。




 今日、学校へ行ったら、あたしの席に大きな箱が置かれていた。

 それはご丁寧にリボンで飾られていて、いかにもプレゼントって感じだった。

 誕生日でもないのにって不思議に思いながら、だけどワクワクを隠しきれずに、それを開けてみる。

 そうしたら、あたしのテンションは地に落ちた。


「なに、これ」


 中には『大嫌い』って書いてある紙切れが一枚。

 贈り主は不明。

 字の癖からしてなんとなく、あの子かな? っていう候補がいるけど、似たような文字を書く人が何人もいるから、絶対この子とは言えない。

 そして、誰がやったのか特定したところで、良いことはない。

 だからあたしは、犯人探しをしない。

 犯人探しをしたとして、それで良いことがあるとすれば、嫌いと言っていない人にまで、疑いの目を向けなくて済むこと。

 でも、そもそも誰も疑わなければ、いい。それだけのこと。


 何事もなかったかのように、時間を溶かしていく。

 大きな箱が視界でチラつく。

 あたしに〝あたしを嫌う人〟の存在を主張する邪魔くさいそれを、処分したくて仕方ない。

 でも、処分する術がないから、放課後までこれと共に過ごすしかない。


「それ、どうしたの?」

 疑おうとすれば疑える、犯人候補に声をかけられ、

「なんか、もらった」

 嬉しさゼロの事実報告をする。

 箱の見た目と、受け取り手のテンションが噛み合わない。

 目の前には、不思議そうな顔。

 わかるよ。あたしだって、あなたの立場だったらそうするもの。


 いや、そうするのだろうか。

 彼女が犯人ではないとしたら、この顔は普通。

 じゃあ、犯人だったとしたら?

 なんだ、ダメージ受けてないやって、同じような顔をするんだろうか。


 犯人探しをする気なんてなかったはずなのに、探りまくっちゃって自己嫌悪。

 太陽よ、早く沈め。

 夜の闇よ、早く世界をのみ込め。

 あたしを、この悩みごとから解放してよ。

 この小さな部屋から飛び出す許可を、頂戴よ。


「何もらったの?」


 別の犯人候補に問われると、言っていいのかどうかわからない言葉が、のどのあたりまで上がってきた。

 彼女が犯人かどうか、あたしにはわからない。

 でも、話しちゃうのもひとつの手かな、って思った。

 というか、話してしまいたかった。

 もう、一人で抱え込んでいられない。

 あたしはそんなに、強くない。

 

「実は、さ」


 一枚の『大嫌い』を、そっと取り出し、見せた。


「え、ヤバ。リリのこと、大好きすぎじゃん」

「……へ?」

 予想外の言葉すぎて、びっくりした。大嫌いが、どうしたら大好きになるんだろう。不思議で思考が停止する。

「だって、こんなに凝った大嫌い、本当に嫌いな人にはしないって。気になってるけど、そんな気持ちに気づいてもらえなくて拗ねてるとかさ、そんな感じなんじゃない? 本当に嫌いだったら、避けるとか、紙切れ一枚ポンとか、なんか吐き捨てて終了だって」

「そう、かなぁ」

「この箱の大きさ、『私はこんなに想ってるの』の大きさだったりして」

「え……」

 もしこの説が正しいとしたら……。

 あたしは、どんなに好いてもらえたとしても、そんな意思表示方法の人と仲良くなりたいだなんて思わないんだけど。

 面倒くさそうだし。

 あたしはその人に紙切れ一枚ポンってして、しっかりお別れしたいんだけど。


 なんか毒々しいことばっかり考えちゃう。

 やっぱり、犯人探し、しようかなぁ。

 そうしたら、楽になれるのかなぁ。

 

 とにかく、早く、時間よ溶けろ。

 あたしは早く、このコミュニティのことを考えないで済む、穏やかな一人の時間を過ごしたい。




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