HITOM@KU―ヒトマク―

#010

　プールに入るの、いつぶりだろう。

　高校の授業ぶりって感じもするけど、あたし、授業の時入ったっけ？

　ああ、たぶん、一回はある。一年の時とかかな。

　女子は入れない子がいて当たり前だし、先生もゆるかったっていうか、なんていうか。ちょっとでも頭が痛かったりすると、入らなくて良いよって言ってくれたからな。

　だから、はじめはちゃんと入ったけど、だんだんサボりグセがついたんだよね。学校用の水着とかダサすぎて着たくないし。そもそも、クラスメイトの前で水着になりたくないっていうか。

　そんな奴がプールに行くのかよってつっこまれちゃいそうだけど、それはそれ、これはこれなんだよね。

　毎日同じ教室に長時間いる人に見られるのと、その日限りの名前も知らない誰かに見られるのだと、なんか違うっていうかさ。

　あー、緊張してきた。

　あたし、水着のチョイス、合ってたかな。

　っていうか、水着のことばっかり考えてて、プールバッグのことをすっかり忘れていたのが超残念すぎる。

　ダサい。ダサいよ、コレ。高校の時の、指定ってわけでもないけど、授業で使うものを販売しまーすって時に売ってて、何も考えないで「これでいいや」って買っちゃったやつ。

　いざ授業の日にそれを持って行ったら、何人か同じのを持ってる人がいたけど、それ以外はみんな可愛いやつを使ってて「やられた！」って思った。

　あたしだって、可愛いのがよかった。まぁ、ろくに参加するでもない授業に必要なものだったし、買い替えるお金があったら新作コスメが欲しいようなお年頃だったし？　そのままにしてたけど。

　こんな未来が待ってるなら、あの時買い替えちゃえばよかったかも。

　そうだ、そうしたら、もしかしたら「可愛いバッグ〜」ってテンションが上がって、ズルしないでプールに入ったかも。

　……いや、入らないか。クラスメイトには水着姿、見られたくないし。

「やっほー！」

　やっと、きたきた！

「やっほー」

「マリン、今日メガネ？」

　そうそう！

　目の悪さも理由のひとつだった！

　あたしは普段、コンタクトを入れてるんだけど、そのまま入ったらコンタクト失踪事件が起こりそうじゃん？

　それもあたしに「プールの授業をボイコットせよ」と悪い声をかけてきたひとつだ。

「コンタクト無くすと困るからさ」

「んー。でも、顔ブクブクさせるわけじゃないし、ルノとかコンタクトしたまま入ると思うよ」

「まじ？　平気なの？」

「ルノはね、それで何度もコンタクト無くしてる」

　全然ダメじゃん！

　あたしはメガネで来てよかったって、その時は思った。

　でも、遊びだしたら後悔した。

　すごい邪魔。っていうか、水がついたら視界が悪くなる。よく見るためにかけてるっていうのに、水が視界を幻想的に埋めてしまう。

「ごめん、コンタクトしてきていい？」

「いいよー」

　あたしはひとり、急いで戻る。

　帰り用にってバッグに入れておいたコンタクトを、両目に装着。

　クリアに飛沫を見ながら、あたしはみんなと思いっきり遊んだ。

　またプールに入りたいって思えたから、あたしは今度、プールバッグを買いに行こうって、心に決めた。