#004
ネットでポチッとしたら、ビューンって届く。だから、別にお店に行く必要なんてない。そんな、便利な今を生きている。
でも、お店にはお店にしかない栄養がある。
ついで買いとかしちゃうから、お財布には優しくない。
でも、心にはたくさんのワクワクをくれる。
買いたいものを買い忘れないようにって、調べに調べてメモをして、それをきちんと全部買った。
お目当てじゃないものも、ちょっと買った。
この後、パッと帰っちゃってもいい。
っていうか、お財布のことを考えたら、パッと帰ったほうがいい。
だけど、あたしは帰らない。
せっかくここまで来たんだ。
あたしはひたすら、今を楽しむ。
店先をちらちらとみながら、ゆっくりと歩く。
陰が駆ける。雲の流れがはやいみたい。
太陽が、ちらちらと地上を見てる。
まるで、あたしみたいだ。
――あの帽子、いいかも。
ふらふらと店内に入ると、奥へ奥へと吸い込まれる。
気になった帽子よりも、もっとビビッとくる帽子が、奥の奥であたしを待ってた。
あたしは、
「これください。すぐかぶりたいので、タグ切ってもらってもいいですか?」
運命の帽子をかぶり、再び街を散策する。
ニコニコ笑顔と、楽しそうな声。地上の太陽の手には、美味しそうな香りをふわぁんと風にのせる、出来立てのたこ焼き。
あー、お腹減ってきた。
でもなぁ、ひとりで食べるのもなぁ。帰りに電車に乗るから、持ち帰りで買ったら飯テロになっちゃうし。
っていうか、冷めちゃうし。
たこ焼き屋さんの前で、足が止まる。
別に、ひとりで食べてもいっか。
パクッと食べて、タッタと帰ろう。
注文をしに行こうとしたら、
「おっすぅ〜」
向こうから、マキがタッタとやってきた。
「買い物?」
「うん」
「で、買い食い?」
「うん。このソースの匂いに負けたわ」
「んじゃ、あたしも〜」
ふたりしてたこ焼きを買って、近くのベンチに腰掛けて、パクパク食べた。
ひとりで食べても、きっと美味しかったと思う。
だけど、ふたりだから、もっと美味しい。
美味しいねって言いながら、マヨネーズついてる、なんて笑いながら、アツッて舌を火傷しかけながら食べるたこ焼きは、超美味しい。
「そういえば、たこ焼き食べててヘーキなの? 予定とかなかったの?」
「んー? 欲しいもんあって探しにきたんだけどさ、運悪いみたいで、タッチの差で売り切れた」
「マジ? タッチの差って、なんか嫌だよね。あとちょっと早ければとか、思っちゃう」
「まー、そうなんだけどさ」
マキは最後のひとつを口に放り込むと、
「不貞腐れて歩いてなかったら、たこ焼き食べられなかっただろうし。これでよかったんだと思うよ」
って、ニカっと笑う。
「じゃーねー」
「うん。またね」
笑顔を咲かせ、手を振り合う。
空にも、心にも、雲はない。
「満足、満足! さぁ、帰ろう!」
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