#005
完全に、ポップコーンを食べたい気分。
コンビニとかスーパーで買えるやつじゃなくて、専用の機械からポコッポコッてでてくる、ホカホカのやつを食べたい気分。
あれが食べられる場所っていったら……テーマパーク?
いやいや、今からテーマパークに行くとか、そんなの無理だよ。
ひとりでさらっと行くところじゃないし、入場するためにポップコーン何個分のお金を払うんだ? って感じがするし。
いろんなフレーバーがあるのは魅力的だけど、今じゃない。今じゃ。
じゃあ、あとは?
私の頭に、ピコン! と電球が光る。
「そうだ、映画館に行こう!」
あそこなら、ひとりだってさらっと行けるし、ポップコーンを楽しめる。ついでに、映画を観られちゃう。
ほら、サイコーじゃん?
ウキウキしながら電車に乗って、映画館まで急ぎ足。
「えぇ、どうしよう」
着いてようやく、私は私の計画の穴に気づいた。
ポップコーンのことばっかり考えてた。何を観るかなんて、考えてなかった。
ここ最近、何が流行ってるのかわからない。
っていうか、いちいち流行りに乗ったほうがいいのかもわからない。
ちっちゃい子向けのやつは、嫌かな。
アニメは……それでもいいけど、今日は実写の気分かも。
上映開始が近いものから、消去法で絞り込む。
前情報ゼロの洋画を字幕で観るのが、今の私に最適っぽい。
お手洗いに行って、お目当てのポップコーンと、ついでにメロンソーダを買う。
ルンルン弾む足。
弾けたポップコーンが、カップからも弾けて飛び出てしまいそう。ポコッポコッと跳ねている。
席に着くと、さっそくひとつ。
うーん、コレコレ!
舌鼓を打ちながら、暗くなるのを待った。
注意事項と、たくさんの予告を経て、それは始まる。
ポップコーンをポン、ポン、ポンと口に放って、チューチューとメロンソーダを吸う。
期待なんかしていない眼前の世界は、ポップコーンの添え物だ。
パクパクパク、ゴクゴクゴク。
パクパク……、ゴクゴク……。
パク…………、………………。
ほっぺたを、水分が滑り降りる。
あれれ、あれれれ? いつのまにか、私は映画の世界にのめり込んで、ポップコーンを添え物にしてた。
劇場が明るくなる。
ドリンクホルダーには、氷が溶けて薄まった、気の抜けたメロンソーダ。ぎゅっと握ってるカップには、ちょっと冷たくて、湿気ったポップコーン。
まるで、コンビニとかスーパーで買ったみたいなそれを、ポン、ポンと口に放る。
あなたを食べたい衝動に、正直になってここへ来たら、素敵な作品と出会えたよ。
劇場から出ると、空が泣いていた。
『うわぁ、雨降るって聞いてねぇし!』
街の人は、慌ててる。
――わかる。あの映画、泣けたよね。
ピチピチチャプチャプ、歩き出す。
私の心は、弾けて晴れて、空の涙を跳ねる。
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