#008


 あっつぅ〜。

 今日じゃなきゃダメだから、あれもこれも着てきた。

 今日着たいものを全部着たら、季節感はバッチリなはずなのに、周りと全然違うスタイリングになっちゃった。

 まったく、なんなんだよぅ。

 冬なんだから、二十度超えてくれなくていいよぅ。


 この前、誕生日プレゼントとして、ミサキから帽子をもらった。

 アイナからはカーデでしょ?

 ユミからはトレーナー、リカからはシャツ。

 もらったタイミングはバラバラだったけど、どうも、みんなでワイワイ買いに行ってくれたらしい。


 みんなで話し合いながら選んだからっていうのもあるんだろうな。

 まとまり感サイコーだし、私がよく履くボトムスとか、ブーツのこともよくわかってくれてて私物とすっごく合わせやすい。

 テンションが上がる。

 わかってもらえてるっていう嬉しさと、友だちとずっと一緒にいるみたいな、そんな安心感が、私を笑顔にしてくれる。


 だけど、あつい。

 とにかくあつい。

 家を出る前、持ち腐れてるテレビを珍しくつけたら、気象予報士さんがウキウキしながら、今日の高温について話してた。

 なんてことない普通の冬の日だったら、この笑顔は見られなかったんだろうなって考えると、まぁ、百歩譲ってこの高温を許してやってもいいかなって気分になる。

 人の笑顔は、けがれない純な笑顔は、みる人の心を照らしてくれる、太陽みたいなものだから。私は照らされて、あたためられると、すぐにとろんと「ま、いっか」なんて思っちゃう。


 瞼の裏に焼き付けた気象予報士さんのウキウキ顔が、本物の太陽の熱で溶けていく。

 あつい、あつすぎる。

「ま、いっか」も溶け始めて、「全然よくない!」って不満が風船みたいに膨らんでいく。

 あーあ。今すぐかき氷屋さんに行きたい気分。ニセモノの雪を頬張って、冬と夏を一気に感じたい気分。


「おっす〜! はやいね」

 待ち合わせ場所に、リカが来た。

「でしょー? 楽しみすぎて、はやく来すぎた」

 不満の風船に、針が一本、プツンと刺さる。

 ミサキとユミも、やってきた。

「やっほー」

「おまたせ〜」

 不満の風船に、針が二本、プツン、プツンと刺さる。

「わー、最後だ! ごめーん!」

 アイナが叫びながら、ニッコリ笑顔でトコトコ走ってくる。

 不満の風船に、針が一本、プツンと刺さる。

「ってか、今日着るには暑くない?」

 問われ私は、

「すーんごくあつい」

 不満の風船が、パーン、と割れた。

 私の顔は今、笑顔しか浮かべられない。


「やっば。別に着てこなくてもよかったのに」

「今日が終わったら、しばらくこのメンバーで遊べないじゃん? だから、私はこうしたかったの!」

「じゃあさ、じゃあさ。冷たいもの、食べに行かない?」

「さーんせーい! 春服着てても暑いもん!」


 みんなで食べる、かき氷は超美味しい。

 BGM代わりなのだろう、店内にあるテレビの画面に、情報番組が流れてる。

 ――来週は雪が降りそうです。

 そっか。ちゃんとした冬が来るのか。

 ありがとう、冬の合間の、夏みたいな日。

 おかげでみんなで、「あつい」と「冷たい」を繰り返しながら、キラキラとした笑顔いっぱいの一日を過ごせたよ。



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