#007
――三丁目のパン屋さんのメロンパンはマジで美味しい!
このおいしさを共有したいと、ミカに布教活動をしたのが先週の頭。
それからのらりくらりかわされて、ようやく今日、食べてくれた。っていうか、連れて行って、奢って、食べさせた。
もぐもぐしているところを見るのは失礼かなって、自分は目の前のメロンパンに集中する。だけど、めっちゃ気になる。ドキドキしすぎて、味がわかんなくなってくる。味がわかんなくなっても美味しいとは思えた。それはつまり、ここのメロンパンは超美味しいってことだ!
「美味しかったぁ」
そう言われて、
「でしょ? 言った通りだったでしょ?」
こんなこと、滅多に言わない。
でも、今回ばかりは言わせて欲しかった。
絶対美味しいって、自信を持っていたから。
私が作ったってわけではないから、私が自信を持つっていうのは、なんだか変な話だけど。
ほら、オススメするには、強い思いが必要っていうか、さ?
なんとなくオススメするとか、ナシじゃん?
「うん。コンビニパンより美味しかった」
おいおい。コンビニパンと比べてくれるな。
でも、そんなもんか。私はパンにこだわりがあるし、だから最高のパンに出会えたらテンションが上がるけど、みんなもそうってわけじゃない。パンなんてスーパーで買えばいいとか、コンビニで充分とか、そういう人だってたくさんいるはず。
ああ、今猛烈に、ミカをパン屋さんに沼らせたくなってきた!
「パン屋さんにあんまり行かないタイプ?」
外からじっくり、内側のふわふわした部分を攻めていく。
「うーん。パン買うとしたら、コーヒーついでにコンビニとかが多いかな。ってかさ、ほら」
「なに?」
「お店にもよると思うんだけど、トレーにのせてドーンって陳列されてるお店あるじゃん?」
「うん」
「そういうところで、売り物のパンをベタベタ触ってる人を見たことがあってさ。それから、ちょっと避けてたりもする」
ああ、分かる。
その点は大共感。
前に、マスクしてるのにくしゃみする時だけそれをずらしてる人がいた。その人の顔が向いている先にあったコーヒーメロンパンが欲しかったんだけど、その時は買う気、失せたなぁ。そうそう。それでその日はコロッケパンになったんだ。
惣菜パン、あんまり好きじゃないから、なかなか買わない。でも、もう菓子パン買う気になれないし、今日は惣菜パンでもしょうがないよねってテンション下がり切ってた。
だけど、思ってたよりも美味しくて、だからどうにか元気を取り戻せたりもしたな。
「じゃあさ、ひとつずつ袋に入れてくれてるパン屋さん、行かない?」
「え、そんなとこあるの?」
「あるある。お店の人にオーダーするパン屋さんも知ってる」
「マジ?」
楽しみな予定が、スケジュール帳のシンプルな枠を、カラフルに埋める。
「やっほー。待った?」
「ううん。待ってない。お腹、ペコペコにしてきた?」
「もっちろん! 美味しいパンをオススメしてくれるって信じてるから、それはもうペッコペコにしてきたよ!」
ふたり分の両手もお腹も心も、美味しいパンで、満ちていく。
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