#012


 ライブ、久しぶりだなぁ。

 最近ずっと、忙しかった。チケットをとっても、ギリギリになって行けなくなる、みたいなことの連続。

 こういう時、意地でも休んで楽しむ人もいるけれど、私はそういうの苦手だ。だから、自分がやりたいことを我慢して、やるべきだろうことをやってしまう。

 そうしてずっと抑えつけてきた感情が、会場に入る前から爆発してる。

 なんなら、家で服を選んでる時から爆発してる。

 電車に大人しく乗っているのが難しくて、ずっとソワソワしてた。

 私が今日の私を客観的に、冷静に見ることができたとしたら……。はじめてのおつかいか何かをイメージしそう。

 ドキドキって文字が、頭の上で揺れている。


 久しぶりだけど忘れていない、ライブ前のルーティン。カフェに行って、カフェインレスで水分補給。ついでにちょっと甘いもの。体力をつけておかなくちゃいけないからね。

 開場の時が近づくと、お手洗いに行って身だしなみチェック。推しから私は見えないだろうし、見えても顔の上半分とかなんだと思うから、身なりなんてどうでもいいのかもしれない。だけど、もしものために、整える。

 真剣に自分と向き合っていると、視界の隅に見慣れたものが飛び込んできた。

 手をとめて、それをちゃんと見てみる。

 幻覚とかではなかった。隣の鏡の前に立った人のカバンに、私の手を止めたアクキーがある。

 きっとこの後、会場でまた会いそう。

 それなら今、声をかけちゃって、一緒に行くのもアリじゃない?

 いやいや、待て待て。

 彼氏とか、知り合いと一緒に来てるかもしれないじゃん?

 今声をかけられたって迷惑だって。

 いやいや、違う違う。

 今声をかけないと、きっともう、話すことなんてないんじゃない?

 だって、入場タイミングとか、その後の鑑賞位置とか、近いはずないだろうし。


「あの……」

 隣の人に声をかけられて、

「あ、はい」

 ぼーっと返事をした。

「何か、ご用ですか?」

「え?」

「ああ、いや……。視線を感じたもので」

 やってしまった。失礼なことをしてしまった。この後、会場で隣とかだったら超気まずい。

「す、すみません。アクキーが気になって」

「ご存知なんですか?」

「ああ、はい。この後――」

「行きます?」

 急にぐぅっと近づいた距離。なぜだか気圧されて、私は一歩後退した。

「あ、すみません。わたし、ファンの友だちいなくて、いつもひとりで。だから、えーっと……」


 開場前まで一緒にいて、終演後にまた会った。

 久しぶりのライブは、私に興奮と、新たな友だちをくれた。



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