第14話 モテモテ

 学園の中には本当にカフェがあった。


(すごい人だな)


 今は登校日でもなんでもないはずだ。

 なのにカフェの中にはギッシリと人がいた。


 学生服の人、スーツの人、私服の人。色とりどりだった。

 色んな人がこのカフェを利用しているらしい。


「懐かしいね、この光景も」


 勇気さんからしてみたら普通のことらしい。


 俺は勇気さんと一緒にカウンターに向かってった。


「いらっしゃいませー、どうしますー?」


 お姉さんにそう聞かれた。


 よく見てみると。


(サキュバスだ、この人)


 しっぽがフリフリしてた。


 俺は知らなかったけどこの世界では普通にモンスターが働いているらしい。


 俺と勇気さんは適当に注文すると店の外で待つことにした。


「実を言うとね。僕このカフェの席座れたことないんだよね。なはは。いつも満席だ」


 苦笑いしてた。

 どうやらこのカフェはいつもこうらしい。


 外で待ってるとやがてサキュバスが料理を持ってきてくれた。


「お待たせしましたー」


 俺たちに紙袋を渡してくれた。


(普通の人に見えるよなー?人がサキュバスのコスプレしてるみたいだー)


 そう思ってサキュバスを見ていたらサキュバスお姉さんは少ししゃがんできた。


 俺と目線を合わせた。


「かわい〜♡裏メニューはいりませんか〜?」

「裏メニュー……?」


 俺が反応するとサキュバスお姉さんは俺の耳に「ちゅっ」と唇を当ててペロリと舐めてきた。


 ゾクゾクってした。


「ふふふ、これ以上は大きくなったらね、ばいば〜い」


 サキュバスのお姉ちゃんは店の中に戻ってった。


(あ、あれ人間じゃないわ。絶対サキュバスだ)


 俺がそう思ってると勇気さんは「ヴヴン」と咳払いした。


「悪いサキュバスに騙されてはいけないよ、零くん。鋼の意思を持つんだ」


 そう言っている勇気さんだが俺は知っている。


 この人が何人ものサキュバスをメイドとして家に連れてきたことを。


 だが俺は優しいのでそこは突っ込まないことにしておこう。


 そうしていると勇気さんが言った。


「少し見て回ってみるかい?学園のことを知りたいよね?結衣はともかく、零くんは入学確定だからね。あらかじめ見ておいてもいいんじゃないかな」

「は、はい。お願いします」


 俺たちはそのまま学園の中を少し歩いていくことにした。


 正直めちゃくちゃ広い学園である。


「端から端までどれくらいかかるんだろう」


 ふと呟いたら勇気さんが答えてくれた。


「この学園は相当広いからね。一周するのに歩いたら2時間くらいかかるよ。それくらい広い」

「2時間も?!はえぇ……」


 まるで某遊園地くらい広そうだな。


 そんなことを思った俺だった。


「だけど普段はそんなに動き回らないよ。学年ごとに活動エリアは分けられてるからね」

「そういうのがあるんですね」

「うん」


 そのまま勇気さんは俺にいろいろと話しながらとある建物の前まで案内してくれた。


 のだが、その建物は工事中のようだった。


「改装中かぁ」


 少しだけ中が見えるようになっていたけど中ではゴブリンやトロールたちが作業をしていた。


 そして、そのすぐ横では剣を持った探索者がパイプ椅子に座って、寝てた。


「寝てるんだけど」

「まぁ調教されたモンスターが暴れだしたなんて話聞かないからね。寝てても作業は終わるんだよね」


 ふーん。


 それだけモンスターというのは現代日本に溶け込んでいるようだが。


「ちなみにここはなんなんです?」

「学生寮だよ。1年生は入学すると基本的にはここで暮らすことになる」

「へぇ、俺もなんですか?」

「強制じゃないけどね。あの山からくるの面倒でしょ?だからここで基本的には暮らすといいよ」


 そんな話をしていた時だった。


 ザッザッザッザッ。


 複数人分の足音が聞こえてそちらに目をやった。


 近寄ってきていたのは一条以外の分家の人達だった。


「これはこれは勇気さん」


 そうやって勇気さんに声をかけるのは二条の親。


 勇気さんは俺に言ってきた。


「ちょっと話してくる。零くんは子供たち同士で話しなよ」

「はい」


 それから沙也加が俺の方に駆け寄ってきた。


「零!また会ったな!」

「え、うん」


 前会った時から変わらないテンションだった。


 それから別の声が響いた。


「おやめなさいな。二条 沙也加さん?零様が困っておられます」


 近寄ってきたのは前回会話しなかった女の子。


 ふんわりした髪型の金髪美少女。かなり目立つ容姿をしていた。


 何ていうか、一目見てプライドが高そうな女の子だなって感じ。


「三条 リイナと申します。零様。以後お見知り置きを」


 そう言うとリイナは俺の腕に抱きついてきた。


「ところで婚約者などはいらっしゃいますでしょうか?零様」

「いないけど」

「そう。ならよかったです。私と正式に婚約しませんか?私は魔法使いです。相性はいいと思いませんか?」


(いきなり婚約の話かよ?!)


 俺がそう思ってると沙也加が言った。


「待て待て待て待て。お前の方が零を困らせてるぞ三条」

「なんのことやら」


 リイナがしらばっくれようとしていたそのときだった。

 沙也加がとんでもないことを言い出した。


「私と結婚しよう零。2人で結婚して子供を作ってハイパー脳筋剣士な子供を生み出すんだ。脳筋剣士がこの世で1番強いに決まってる」


「「は?」」


 俺とリイナはいきなりの言葉に呆然としていたのだが。


「紋なし野郎が……」


 そう呟く声があった。


 目を向けるとそこにいたのは


(四条 タツヤか。前にも俺に絡んできた奴だったな)


 四条 タツヤはことある事に俺に絡んでくる。


 それは俺が一条家にいた時から変わらない。


 たぶん、こいつはこう思ってる。


 『紋なしよりは俺の方が優秀だ』って。


 だからことある事に絡んでくるのだろう。



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