第10話 俺の魔剣は全てを絶つ②
「ぐぁぁぁあぁぁあぁぁあ!!!!」
一也兄さんの絶叫が響いた。
俺の斬撃は魔剣を切断しただけでは止まらずに一也兄さんに襲いかかったからだ。
ズバッ!
ザンッ!
一也兄さんの全身を切り裂いたことでやっと斬撃は消えていった。
グラッ。
一也の体から力が抜けていく。
バタン。
その場に一也は倒れた。
(やばい。やりすぎかもしれない!血まみれだ!)
他人事のようになっていたが俺は納刀するとお父様に話しかけた。
「たいへんです!一也兄さんが!」
そこでお父様はフリーズから帰ってきた。
「あ、あぁ……きゅ、救急車っ!」
そのとき七海が口を開いた。
「大丈夫。この程度であれば私の魔法があれば」
そう言って七海は一也兄さんに近付くと魔法で治療していた。
その時だった。
「一也兄さんがゼロに負けただと、ありえない」
「一也兄さん!」
「一也兄さんが負けるなんてぇぇぇぇ!!」
一条家の他の兄弟から悲鳴に近い声が上がっていた。
それから俺を見てきた。
(やばいか……?)
俺がそう思った時だった。
「死ねぇぇぇぇ!!!」
「ゼロが調子に乗りやがってぇぇぇぇぇ!!この面汚しが育ててもらった恩を仇で返しやがって!」
「ファイアボール!!!」
魔法を使ってきた。
俺に飛んでくる火の玉だったが。
俺の半径3メートルくらいに入った瞬間、火の玉が消えた。
(えっ?なんで?消えてる?)
そう思っていたら頭の中に声が響いた。
『にゃにゃにゃ。主様。私に切れないものはないですにゃ。岩、木、モンスター。それから魔法まで切り裂いてしまいましょうにゃ。私を装備しているだけで主様をお守りしますにゃ』
(なんだ、そういうことか)
だがこんな会話も知らない兄弟たちは戸惑っていた。
馬鹿みたいに口を開けてお互いの顔を見ていた兄弟たち。
諦めずに
「ファイアボール!」
「アイスボール!」
「ウィンドカット!」
魔法をどんどん使ってくる。
だが、すべての魔法が消えていく。
それを見ていたお父様がやっと口を開いた。
「やめろ!貴様ら!みっともないっ!一也は負けた!その現実を受け入れろ!」
ギリっと歯を食いしばっていた。
よっぽど悔しいのだろう。
それでも大人らしくお父様は兄弟たちを止めてくれた。
それからお父様は俺に言った。
「ゼロ……いやレイ。後で話がある。一也の手当が終わったら連絡をするから予定を開けておけ」
(わざわざ呼び方を訂正したということは俺に対する気持ちが変わった、ということだろうか?)
正直この人にはあまり関わりたくは無いが……俺は頷いた。
「はい」
◇
選抜式は中止になった。
あんなことがあった後だったからだ。
俺たち子供たちは昨日の宴会場で待機させられていたのだが。
優斗は笑っていた。
「おいおい、見たかよ!あの本家のヤツらの顔!あんな間抜けな顔初めて見たわ。ぷげらっ!」
「優斗兄さん。周りが見ています。もう少しお静かに」
結衣が注意していた。
それから結衣は俺に言ってきた。
「零兄様。すばらしい余興でした。余興の意味とは……?となりますがこれはこれでいい余興でしたね」
それにしても
(優斗は"兄さん"なのに俺は"兄様"なんだな。)
結衣の中での扱いの違いがよく分かる瞬間であった。
そして、周りの分家からの扱いも変わっていた。
「お前すごいんだな!」
二条 沙也加。
彼女は俺たちの輪に加わってた。
「本家の一也を倒してしまうなんて、やっぱりすごいやつだったんだ。本家のやつはすごい!」
そんなことを言ってた。
んで、四条や三条の奴らは遠くから俺たちを見ているだけだった。
明らかに昨日とかとは俺たちに対する扱いが変わっていた。
そんな変化を実感していた時だった。
ブー、ブー。
スマホを取り出すと。
お父様:五条 勇気もいる。五条 勇気の書斎にきてくれ
いつも通り簡素なメッセージだったが。
(いつもなら"来い"みたいな命令形だと思うんだが"来てくれ"か)
お父様の俺への対応も変わっているようであった。
「結衣、書斎に呼ばれた。案内してくれないか?まだ場所がちょっと」
「はい。こちらへどうぞ」
俺は結衣に案内されて勇気さんの書斎に向かうことになった。
木製の扉の前に立つと俺は部屋をノックした。
「どうぞ」
勇気さんの声だった。
その声に安心感を覚えて中に入った。
中にはお父様と勇気さんがいた。
それから少し離れた場所に七海さん。立ち位置的に今のところはこの人は会話には入ってこないっぽい。
開口一番にお父様が俺に頭を下げてきた。
「すまなかった、零」
「顔をあげてくださいよ、お父様」
そう言うと顔を上げてきたお父様。
「お前を追放したのは一週間前のことだったな。水に流してくれとは言わんが、どうだ?一条家に戻ってきてくれないか?」
正直胸のどこかではこんなことを言われるんじゃないだろうかって思ってた。
一条家は超実力主義である。
実力のある者を引き抜くためには、恥も外聞も気にしない。
魔剣に気にいられた俺を引き込むためなら手のひらを返すことも分かっていた。
俺は何も答えないでいるとお父様は口を開いた。
「お前は確か剣王になりたいんだったな?その夢も一条家なら叶う。一条家には国立探索者養成学園にも特別推薦枠がある。特別推薦枠はもちろんお前のために使おう!一条家に戻ってくればお前は夢を叶えやすくなるのだ」
俺が感情では動かないと思ったのだろう。
理屈で動かそうとしていた。
さらに俺に畳み掛けてくる。
「仮に剣王になれなかったとしても、国立探索者養成学園卒業というだけで未来は約束されている。どうだ?悪くないだろう?五条家には特別推薦枠なんて存在せんぞ?」
「……ふむ」
俺が考え込むような素振りを見せた時だった。
バタン。
俺の背後にあった書斎の扉が開いた。
振り返るとそこには結衣がいた。
泣きそうになりながら聞いてきた。
「零兄様……もしかして帰っちゃうんですか?グスッ」
後ろからは泣き落としで引き止めようとしてくる子(無自覚)が1人。
前からは理屈で俺を引き戻そうとするおっさんが1人。
前門のおっさん、後門の美少女ってところか。
おっさんの方はさらに畳みかけてくる。
「零。お前ならどういう選択をするのが賢いか分かるよな?これからの待遇は絶対によくする。お前のために一条家を運営すると言っても過言では無い。一条は結果主義である。お前は結果を出した。お前のためならなんでもやろう」
そこまでしてくれるなら、五条家に残る意味なんてはっきり言って皆無ではある。
理屈で言えば……ね。
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