第11話 答えは決まってる


「どうだ?零?一条に戻ってきてはくれないか?」

「お言葉ですがお父様。俺は一条には戻りません」

「そうかそうか。お前を迎える準備はできている」

「聞いていたか?俺の話を」


 会話が食い違っていたので、もはや敬語も忘れてそう言ってしまった。


 お父様は驚いたような目で俺を見た。


「いまなんと?」

「一条には戻らない」


 そう答えると結衣が俺に飛びついてきた。


「兄様っ!」


 だきっ!


 俺の背中側から抱きついてきていた。


 勇気さんも口を開いた。


「い、いまなんて?零くん」

「言ったでしょう。一条には戻らない」


 ワナワナと震え出したお父様。


「零、もう一度聞いてやろう。一条家に戻ってこないか?」

「くどい。戻らないと言った」

「バカなのか?お前は五条に残るメリットなんて何一つないだろ?」

「お前らみたいな嫌な奴だらけの家にいる方がメリットないだろ」


「国立探索者養成学園はどうする?倍率は知ってるよな?3000倍だぞ?日本全国から入学希望の奴らが来ては、あっけなく散っていくんだぞ?五条に残るなら推薦枠はないぞ?」


「だからどうした。そいつら全員蹴落として一般で入ればいいだけだろう?」

「うぐっ……」


 それからお父様は言った。


「お前がそこまでバカだと思わなかったよ零。後ろの五条の下品な娘にたぶらかされたか?」

「そうだよ。だからとっとと帰れよ。俺はあんたより結衣を取っただけだ」


 ダーン!


 お父様は机を叩いてそのまま部屋を出ていった。


 俺はその背中に言ってやった。


「お父様。推薦枠を使って国立探索者養成学園には一也を入学させてくださいね?何度でもボコボコにしてやるから」

「っ!」


 バタン!


 お父様は扉を閉めて怒ったように廊下を歩いていった。


 その時だった。


 今まで黙っていた七海さんが口を開いた。


「ははは。こいつは傑作だ。正直言うとこんなただの私的な争いなど大した興味はなかったのだが……」


 七海さんは本音を漏らしていた。

 思いっきり。


 その後俺を見て言った。


「詫びよう。面白いものが見れたよ零くん。こんなところで魔剣が2本も見れるなんてね」


 俺に近寄ってきた。


 俺の前に立つと彼女は懐から折りたたまれた紙を取り出した。


 それを開いてサラサラっと文字を書いていく。


「零くん、面白いものを見せてもらったお礼にこれをあげるよ」


 スっ。


 紙を俺に渡してきた。


 受け取ってみると、そこにはこう書いてあった。



【国立探索者養成学園、特別推薦】


推薦者:【絶対王者】七海 夏鈴かりん


被推薦者:五条 零




(すごい……2つ名まで書いてある。って突っ込むのはそこじゃない)


「これは……」


 俺は七海さんに目をやった。


「私の家の推薦枠だ。君にあげよう」

「ご家族に与えるものでは?」

「君にあげるよ。私の親族には努力させよう。この程度の入学試験すら突破できないようであれば、しょせんはその程度の人間だよ。入学すべきではない」


 そう言うと俺の肩に手をポンと置いてきた。


「では、私は帰らせてもらうとしようか。以上のものなんてこの後も見れないだろうからね」


 そう言うと七海さんは部屋を出ていった。


 そのあと部屋を出る間際に彼女は呟いた。


「学園には私の妹【七海 風夏】が行くだろう。仲良くしてあげてくれ」


 パタン。


 扉がしまった。


 勇気さんが話しかけてきた。


「すごい、威圧感だったなぁ、七海さん。さすが日本トップクラスの探索者だなぁ」

「しかも、妹さんが入学できるって信じてましたよね!」


 勇気さんと結衣がそんな会話をしていた。


 それから勇気さんは俺を見てきた。


「零くん、すごいね。七海さんは推薦枠を使ったことがないって噂だったのに、そんな人に赤の他人の君が使わせるなんて」


「すごいですっ!兄様!」


 俺は2人の眼差しを見て思っていた。


 たしかに、普通推薦枠は親族に使うのにそれを俺に使うなんて……。


 俺はとんでもないことをしでかしたんじゃないかって、今になって思うようになっていた。


 ちなみにだがこの推薦枠は貰っておこうと思う。


 さすがに他の家の人から推薦された物まで拒否するのは失礼だ。


 あ、そういえば。


「結衣はこれからの進路どうするの?」

「私も学園志望ですよ」


(やっぱりそうか。一条の分家なんだもんなぁ)


 目指すところは同じってところか。


 そう思ってたら結衣は不安そうな顔をしてた。


「受かりますかね?」


「受かるよ。不安なら俺も訓練に付き合うから今からでも頑張ろう」


「お願いしますっ!」




 結局今回の選抜式は完全に流れることになった。


 俺がめちゃくちゃにしたからだ。


 そんなわけで分家のやつらは帰る事になったのだが、その帰り道のこと。


 二条 沙也加が話しかけてきた。


「次会うときは学園になるのか?」

「もう合格する気?」

「とうぜんだ」


 胸を張ってた。


「私は誰にも負けん。お前にも負けんぞ零。学園で会える日を楽しみにしているっ!倍率3000倍の狭き門と言うが、私は二条の家に生まれるという狭き門をくぐり抜けた!余裕だ!」


(それはそうだな。たしかにそっちの方が狭き門だな)


 そのとき、車の中から声が聞こえてきた。

 二条の当主の声だった。


「沙也加。帰るぞ。もうすぐ雪が降るらしい。早くしないと帰れなくなる」

「雪が降るのか?ならここに泊まればいいだろう?父様」

「仕事があるんだよ。つべこべ言わずに乗りなさい」


 父親にそう言われた沙也加は帰ってった。


 そのとき。俺の鼻先に雪が落ちてきた。


「ほんとだ。雪降ってきた」


『にゃにゃにゃ。雪を切るなんていう無粋な真似はやめておいたですにゃ』


(それはたしかに無粋な真似だな)


 俺がそう思ってると結衣が話しかけてきた。


「兄様。このあと雪だるま作りませんか?この山は積もりますよ!」

「お、いいね。クマの雪だるまでも作ろうか」


 そう言うと「?」みたいな顔をしてた結衣。


「あれ?クマ好きじゃなかったっけ?初めてあった日クマのぬいぐるみ持ってたから」

「お、覚えててくれたのですか?」

「まぁ、一週間前のことだし」


 って言うと


「兄様ぁぁぁあぁ。愛しておりますぅぅぅぅ」


 グリグリグリグリ。


 俺の胸に顔を擦り付けて来る結衣。


「結衣、そういうことはあんまり言っちゃだめだよ?男は本気にするから」

「本気にしてくださぃいぃぃぃ〜」


 俺はとりあえず雪が降り積もりまで家の中に避難することにした。


 それにしても冬の山の中は寒いな。

 前世も含めて山で暮らしたことなんてないし新鮮だ。






【あとがき】

とりあえずこれで一章終わりです。

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