第9話 俺の魔剣は全てを絶つ


 俺は選抜式には関係がないのでいつものように部屋から庭の方を見ていたのだがスマホにメッセージが届いた。


 お父様の方からだった。


お父様:お前も開会式に来い。武器が必要になる。持ってこい。あるだろ?自分の武器くらい。


(俺はもう本家には関わらないって思ってたんだけどな)


 どうやら向こうはまだ俺に用事があるらしい。


(ここで言うことを聞かなかったら勇気さんがどうなるか、だよなぁ。一条のお父様は平気で嫌がらせくらいするしな)


 だから俺はイヤイヤ立ち上がると部屋を出ていくことにした。


 どうせ大した用事でもないだろうし手早く終わらせてしまおう。


 扉を開けて廊下に出るとゼッチャンが話しかけてきた。


「にゃにゃにゃ」

「何を笑ってるのさ」

「いえ、お覚悟を決めた方が宜しいかと思いましてにゃ」

「覚悟?」

「まぁ、すぐにわかると思いますにゃ」

「前から気になってたけど、君は未来予知みたいなことできる?」

「はいですにゃ。ちょっとした余興が行われるようですにゃ。でもご安心をこの私がいれば問題ないですにゃ」


 そう言ってゼッチャンはそれ以上口を開くことは無かった。


 何かあるかもしれないとの事らしいし。まぁ気を引き締めていこうか。


 庭についた。

 とりあえず一条のお父様を探すことにしたのだが、すぐに見つかった。


 偉そうにふんぞり返ってパイプ椅子に座っているからすぐに見つかる。


「お呼びでしょうか?俺は参加しないつもりですが」

「そこにいろ。目障りだから視界には入ってくるなよ」

「はい」


 俺はお父様の後ろで待機することにした。


 しばらくすると庭にどんどん人が集まってきた。


 これから選抜式が始まる。


 そして、選抜式の開会式を一条のお父様がやっていった。

 ひとことで言えば運動会の開会式だ。


 開会式の挨拶が終わり一条のお父様が七海に目をやった。


 どうやら彼女に話しかけるようである。


「前置きはこれで終わりにしてさっそく七海さんにお見せしたいと思います。我ら一条の強さを」


 ザワザワザワザワ。


 なぜかここにいたヤツらの視線が俺に突き刺さった。


 そしてボソボソと言葉が聞こえてくる。


「かわいそうに」

「紋なしってだけなのにね」


 俺が不安に思っていると一条 一也がやってきた。


 俺の1番上の兄で一番虐めてきたやつだった。


「よう。ゼロ。1週間ぶりくらいかぁ?」

「なんでしょう?一也兄さん」


 そう聞くと一也は顔を手で覆って笑い始めた。


「なんだもクソもねぇよゼロ。ご挨拶だな」


 俺が次の言葉を待っていると一也兄さんはとんでもない事を言い出した。


「今から余興を行う。俺と、お前で」

「余興?」

「お前と俺で決闘する。ルール説明も兼ねてな。選抜式がどうやって進むのか、一見さんにも分かりやすいだろ?」


 ザワザワ。


 そこで一条のお父様が言った。


「ゼロ。一也。そこにフィールドを用意してある。そこに立って見合いなさい」


 言われた通り俺と一也兄さんはフィールドに立つと見つめあった。


 一也兄さんの手には魔剣が握られていた。


「ゼロ。お前も剣を持ってきたよな?」


 俺は呟いた。


「絶刀」


 カチャッ。

 

 黒い刀が俺の手に現れた。


「なに?あのみすぼらしい刀は」

「黒いわよ。錆び付いてるようにも見えるし」

「小汚い刀ですこと」


 そんな言葉が周囲から聞こえてくる中だった。


 七海の表情だけが変わった。


 そして、口を開いた。


「一条当主殿。この余興は……やめておいた方がよろしいかと」


 その言葉に周囲の人々の目が七海へと注がれた。


「どういうことですか?七海様」

「今の言葉はゼロくんの身を案じての事ですか?」


 そんな言葉が聞こえ始めて、お父様は代表して七海へと言った。


「どういうことでしょう?七海様?」


 七海は目を閉じて言った。


「このまま続ければ彼が負けるでしょう」


 場が静寂に包まれた。

 緊張感が立ちこめていた。


 一也は七海に向かって声をかけた。


「七海さん?それはゼロのやつが負けるということですよね?」

「残念ながら負けるのは君だよ」


 七海の声は小さかった。

 しかしそれでもこの場にいた全員の耳にたしかに届いていた。


 恥をかかされたと思ったのだろう、一也兄さんは叫んだ。


「俺がこんな紋なしに負けるわけがないでしょう?!喧嘩売ってますか?!」

「年長者の意見は聞いておいた方がいい。私は忠告した」


 ギリギリ。


 歯を食いしばって俺を見てきた一也。


「ゼロォォォォォォォォ……。お前なんかにこの俺が負けるわけないってのに、なんだ今のは。なにか手を回しただろう?!負けるのが怖いんだろう?!」

「さぁ?俺も分からないですよ。一也兄さん」

「はっ。まぁいい。燃えないゴミの日の確認をしておけ」

「なぜ?」

「俺がその刀をボロボロにしてやるからだよ!刀を捨てなきゃならねぇだろ?!ひゃはははは」


 ギリ。


 魔剣を握りしめる一也兄さん。


(すごい敵意だな)


 今までこんなに敵意を感じたことは無かったのだが。

 チラッ。


 七海を見た。


(七海に言われてムカついたってところか。それを俺にぶつけないで欲しいのだが)


 俺は審判役のお父様に声をかけることにした。


「お父様。俺はどんな技を出してもいいのでしょうか?」


 ニヤッ。

 三日月のように口元を歪ませたお父様。

 

「話を聞いていなかったか?ゼロ。我が家の一也は魔剣を持っているんだぞ?お前が技を出す前に完封してやるさ。だから出せるもんなら出してみろ」


 そう言うとお父様は試合開始の合図を出し始めた。


「試合……」


「開始っ!」


 お父様の声が聞こえた瞬間、一也兄さんは走り出した。


「ハンデをくれてやるよ!紋なしの雑魚が!俺は魔法を使ったりはしない!」


 俺はその場で遠慮なく刀を下から上に振り抜いた。


「斬撃波」


 一振りしかしていないのに三本の斬撃が飛んでいく。


 ズガガガガガガガガガ!!!!!


 地面を抉りながら斬撃が一也へと向かっていく。


 その様子はまるで、海面付近を泳いでいるサメの背びれといったところか。


「へっ?な、何だこの技は!」


 一也兄さんの短い動揺。

 だが、兄さんも名家の人間だった。

 すぐに切り替えていた。


「このっ!受け止めてやる!ブロック!」


 飛んで行く斬撃に向かって一也兄さんは地面と水平に剣を構えた。


 斬撃を受け止めるつもりなのだろうが……結果は。


 ザン!!!!!!


「ま、魔剣がぁぁぁ!!折れたっ?!」


 一也兄さんが持っていた魔剣は豆腐のように切られて、真っ二つに折れた。


 俺の飛ぶ斬撃を一也兄さんの魔剣では受けきれなかったのだ。


 そして、魔剣を切り落としてなお止まらない斬撃波。


 今度は一也兄さんの目前まで迫っており……。


「うわあぁぁぁぁあぁぁぁ!!!」


 三本の斬撃は兄さんをあっけなく切り裂いていく。

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