第8話 【七海視点】 いったい誰が?


 七海が部屋に通された瞬間、会場は湧き上がった。


「七海さん?!」

「剣王の?!」

「現在日本のダンジョン界の最先端にいるあの人?!」


 誰もが七海を2度見3度見した。

 それほどまでに物珍しい人だったからだ。


 だが、七海は「お気になさらず」とだけ言って五条 勇気のもとに向かった。


「五条さん。遅くなり申し訳ございません」

「あ、いや。むしろ早かったくらいだよ」


 七海が五条の近くに座った時だった。


 一条 正がやってきた。


「これはこれは七海さん。遠いところよくおいで下さいました」


 ぺこり。


 一条が七海に頭を下げた。

 この男がここまでするほどの存在。


 七海には頭が上がらないことが一瞬で分かる。


 それから一条は勇気にとある話題を振った。


「ところで五条は自分の敷地内にダンジョンができても気付かないのかね?分家として恥ずかしいと思わんのかね?」


「気付いてましたよ。だから七海さんに、ここにくるついでに消滅を依頼したのです」


 一条はその話を聞いて鼻で笑った。


「はっ。分家のレベルがこの程度だと恥ずかしくなってくるな。五条、貴様の言い訳は聞くに耐えん。一条の分家であるならダンジョンくらい自分の手で消滅させてみろ」


 そう言って一条は歩いていった。


 それから七海は五条の顔を見て言った。


「五条さん。実はダンジョンの話でお話があるのですよ。もらった情報通りダンジョンに向かったのですよ」

「はい。依頼通り消滅させてくださったんですよね?あのダンジョンを消滅させてこの短時間でここまで来てくれるなんてさすがですよ七海さん」


 七海は首を横に振った。


 その意味はもちろん、否定。


「私は消滅なんてさせていませんよ。ダンジョンにも入っていません」

「えっ?」


 五条は言葉を失っていた。


 そんな中必死に言葉を探して、やっとの思いで口を開いた。


「ど、どういう意味ですか?まさかここに来るのが思ったより早かったのはダンジョンをスルーしたからですか?」

「スルーするしかなかったと言った方が正しいですね」


(どういうことだ?よく分からない)


 五条は七海の姿を見た。


(あちこち土煙だらけ。服が汚れているのだし、まっすぐに家まで向かってきたとは考えられないけど)


 七海が口を開いた。


 その口から飛び出してきた言葉は五条が考えてもいなかったものだった。


「私がたどり着いた時ダンジョンは既に消滅していました。いったい……誰が消滅させたんでしょうね?」


(そ、そんな馬鹿なっ!あのダンジョンはSランクのダンジョンだぞ?!)


 五条は急いで宴会の会場を見た。


(この中であのダンジョンを消滅させられるのは、本家の当主か分家の当主レベルだろう。しかし、その人たちは全員ここにいた)


 ダンジョンの消滅なんて行く暇なんて無かったはずだ。


 考えられるパターンとしてはダンジョンに気付いた一条家がここにくるまでに消滅させたというパターンだが。


(ありえない。本家が分家の問題に首を突っ込むとは思えない)


『分家の問題は分家で解決しろ』


 それが本家の意向である。


 だから勇気は七海にダンジョンの消滅を依頼したのだが。


(いったい、誰が……)


 そこで優斗が口を開いた。


「父さん。第三者って可能性はないのか?」

「ありえない。五条の山には高度な結界が貼られている。侵入者の感知くらいできるが、反応はしていない」

「となると、元から中にいた誰かがやった……か」


 そこで優斗は呟いた。


「そういえば零のやつが昼頃に敷地外に出ていくの見たぜ」

「零くんが?」

「なんか、急いでるみたいだったぜ急ぐようにして敷地外に出ていったわ」


 そのとき七海は聞いた。


「零くんと言うと私を案内したあの子ですか」


 七海は考えてから呟いた。


「私が依頼されたダンジョンはSランクダンジョンの判定が出た場所です。とてもあのような子供に攻略ができる場所とは思いませんが」

「だが状況からして……」


 優斗がそう言った時だった。


 これ以上の会話は続かないことになった。


「えー、こほん」


 一条 裕也がまた全員の視線を集めた。


 七海ではなく、分家の人たちに向かって口を開き始める。


「今回の本家選抜式はただの選抜式ではないことを察していると思う。その通りである。七海さんに見に来てもらっている。外部の、それも日本のダンジョン界を率いるトップの探索者である七海さんだ。心して実力を披露するように」


 それから一条は続けた。


「今回の選抜式で本家に入れた者は国立探索者養成学園に入学することができる。ここに入れるだけでエリート扱いされるような学園だ。ダンジョンに向かいたい者は出し惜しみせずにやることだ」


 そのとき優斗は小声で呟いた。


「自分らが1番有利な条件で戦うくせによ。魔剣まで持ち込みやがって」


 そのつぶやきはとうぜん誰にも聞こえていない。


 しかし、答えるように一条 正は言った。


「もちろん、最終戦で戦うであろう当家の一条 一也かずやも全力で挑ませてもらう。だが一也を倒せた者は無条件で一条家に招こう」


 その時だった。


 一条 一也が立ち上がる。


 手には赤い剣を持っていた。


「我が家はSランクの【魔剣】を手に入れた。その俺を倒せる奴なんて分家にはいないだろうけどな。ははは」


 一条 一也は笑いながら五条 優斗に近付くと口を開いた。


「お前らごときが俺に勝てるわけないんだよ」

「あぁん?喧嘩売ってんの……」


 言葉は続かなかった。


 バキッ!


 一也が優斗を殴り飛ばした。


「がっ……(いつ、殴られた?拳が見えなかったぞ)」


 優斗はその場に横向きに倒れた。


三本剣スリーソードごときが。俺は七本剣セブンソードだ。弁えろよカス」


 優斗の頬に足裏を押し付けてグリグリと踏みつける一也。


 誰もこの行為を止めない。


 一条家とは……


「まぁいい。続きは明日だな」


 そう言うと一也は一条家の方に帰っていった。

 そこで一条 正が口を開いた。


「明日。開会式で我が家の魔剣の切れ味を披露しようと思う。もちろん分家の皆にはこれ以上の迷惑をかけないつもりだ」


 五条 勇気はそこで嫌な予感がしたが。


 そんなこと露知らずと言った様子で一条 裕也は言った。


「明日。選抜式の開会式を行う。そこで一条 一也と五条 零による余興を行う。我が一条家の魔剣の強さを知るがいい!貴様らは圧倒的な結果の前に絶望するだろう!」

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