第7話 五条のダンジョン
「す、すごい……オーガがバラバラになっちゃいました」
結衣がそう言った。
実戦では初めて使うことになったが……
「凄まじい威力だな」
正直俺も驚いてるくらいだった。
(今更だが俺はとんでもない魔剣に気に入られてしまったのかもなぁ)
そんなことを思いながら俺は更にダンジョンを奥に進んでいくことにした。
道中でアイテムなんかを拾いながら歩いているとやがて、ボス部屋の前にやってきた。
「お、大きな扉ですね」
「ボス部屋だよ」
「兄さんはまるで知っているみたいですね?」
「こういうダンジョンには何度か来たことがあるからね」
そう言いながら俺は扉を開けた。
中にはオーガがいた。
「さっきより大きいオーガがいますね」
よく見てみるとオーガの顔や体には傷が入っていた。
そして筋肉はさっきの個体よりも大きく見える。
「特殊個体か、強いかもしれない」
ならば、手加減はできない。
俺はそう思いながらオーガの後ろの扉に目をやった。
オーガはその扉を守るようにして立っている。
あれは出口だ。
このオーガを倒せば使用できるようになる出口だ。
「グルォォォォォォォォォォ!!!!」
オーガは力強く吠えた。
そして飛び上がった。
「【斬撃波】!」
俺はもう一度オーガに向けて斬撃を放った。
すると……
バラ。
バラバラバラバラ。
またしてもオーガは細切れになった。
結衣がそれを見て興奮してた。
「す、すごいです!オーガがまたバラバラになっちゃいました!」
「……」
俺も正直自分で困惑していた。
まさか、こんなに強いなんて思っていなかった。
「いつのまにこんな技使えるようになったんですか?元から使えてた訳では無いんですよね?」
「一週間練習したら出来るようになったんだ」
そう答えると結衣は俺の目を見つめていた。
「どうしたの?」
「あの、尊敬の意味も込めてこれからは兄様とお呼びしてもいいですか?零兄様!」
どうやら俺は"兄さん"から"兄様"にランクアップしてしまったようだ。
そんな会話をしていた時だった。
グラグラグラグラ。
「ダンジョンが揺れてませんか?」
「主を倒したことで揺れてるんだ。早く出てしまおう」
俺はそう言ってオーガが守っていた扉に向かっていくことにした。
ちなみにだがこの世界はモンスターからは素材が落ちたりはしない。
壁から鉱石を採掘したり植物から果物を採取したりっていうのがアイテムの一般的な入手方法である。
俺は扉を開けて、その中に結衣と一緒に入っていった。
次の瞬間、俺たちの体はダンジョンに入る前の場所にあった。
そしてダンジョンに繋がっていた穴は塞がっていた。
「よし。これでダンジョンは消滅っと」
「こうやってダンジョンって潰すんですね」
「知らなかったの?」
「はい。初めて知りました。ひょっとして兄様は以前からこのようなことを?」
「そうだね。"お父様"に言われてやってたよ」
「本家は大変なんですね。そんな環境で育ってきた兄様はやっぱりすごいんですね」
にっこり笑ってそう言ってくれた結衣だった。
その言葉になんだか救われたような気がした。
今まで俺の努力を認めてくれた人なんていなかったから。
◇
家に帰ってくると選抜式前の軽い宴会が始まっていた。
選抜式は明日から行われることになる、のだが。
俺に視線が集まっていた。
「あれがゼロくん?」
「紋なしで本家から追放された彼か」
「えーあの子本家の子なのに紋ないのー?」
大人子供問わずに俺を見てそんなことを言っている連中がいた。
俺はそんな空間を不快に思いながらも勇気さんの手伝いをしていた。
主にメイドが作った食事を会場まで運ぶだけなのだが……。
俺が料理を運んでその場を離れる度に俺を蔑むような声が聞こえていた。
「紋なし」
「ゼロ」
そんな罵倒するような言葉ばかり聞こえていた。
俺はなんとか準備を終わらせて五条家が集まる場所で最後に座った。
その時だった。
一条家当主の一条 正がパンパンと手を叩いて皆の視線を集めた。
「よく集まってくれたな。本家の者として礼を言ってやろう」
あくまで尊大な態度だった。
それから一条 正は言った。
「知ってると思うが一条 零を先日追放した。本家には一人分枠が多くめに空いている。よって今回は本家入りできる人間が多いかもしれない」
ザワザワ。
「本家に入れるかもなんだ」
「頑張るのよ、タツヤちゃん!」
「がんばる!」
みたいな会話が聞こえてきた。
その時だった。
「おやっ?」
勇気さんのスマホが鳴った。
(誰かから連絡か?)
そう思ってたら勇気さんは俺に言った。
「零くんそろそろ客人が来るかもしれないんだ。出迎えに行ってここに案内してくれないかい?」
「こんな夜中にまだくるんですね」
「ちょっと用事を頼んでいてね。それで遅れたんだ」
「分かりました」
俺が立ち上がると勇気さんは言った。
「案内が終われば部屋にいてくれていいよ。食事はメイドに持っていかせるから」
「では、そうさせてもらいます」
俺は立ち上がって部屋を出ていくことにした。
廊下を歩いて玄関前に行くとガラスの向こうに誰かがいるのが分かった。
(これが客人か)
俺はガラス扉を開けるとそこに人が立ってた。
黒い髪の女の人だった。
たぶん初対面のはずなのに見覚えがあった。
実力のある探索者としてメディアなんかにも出ているのでよく知っている人物だった。
黒い髪の女の子が口を開いた。
「ここは五条家で間違いありませんよね?剣王のひとり七海というものです。よろしくお願いします」
「はい。ここは五条家です。今から案内しますね」
俺が答えると彼女は俺に剣を見せてきた。
そちらの剣も見覚えがあるものだった。
(【魔剣】だ。どうしてこんなもの持ってきてるんだろう?)
パチパチと瞬きしながら剣を見ている七海は口を開いた。
「こちらは家に持ち込んでもいいでしょうか?見ての通り高価なものです。盗難などの被害にあいたくないものですから」
「もちろん。でも……何故そのようなものを?家で保管しておけば良かったのでは?」
「予定ではここに来るまでに、とあるダンジョンで必要になるはずだったのですが、急に必要なくなりました。困ったものですよね、ははは」
そう笑っていた彼女。
(まさか、今日俺が行ったあのダンジョンのことじゃないよな?)
そんなこと思いながら七海を会場に案内することにした。
その後に俺はさっさと風呂に入って1人で寝ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます