第6話 本家選抜式の裏で

 俺は結衣と一緒に家から庭を見ていた。


「零兄さんは参加しないんですね。本家選抜式」

「まぁね」


 こんな制度があっても本家に向かいたくない者なんて俺くらいのものだろうな。


「そういえば兄さん今回の選抜式は一波乱ありそうなんですよ」

「一波乱?」


 そう聞くと結衣は人の悪そうな顔をしていた。


「一条家がS級の魔剣を入手したようなんです」

「まじか」


 探索者の強さは自分の強さ×装備の強さで決まると言われている。

 一般常識といっても過言じゃない。


 だから魔剣を入手する、ということは強くなることと同義だ。


「この意味が分かりますか?零兄さん」

「う〜ん」


 俺は今日を迎えるまでに勇気さんにいろいろと教えてもらった。


 この本家選抜式なのだがまずは分家の参加者同士(人数制限なし)で競い合うというのがいつものルールだったのだが、今回は1家につき1人までしかきていなかった。


「今回の選抜式は本家への引き抜きがメインの目的ではないのかな?」

「そうなりますね」


 俺は一条のクズさから何が目的かを導き出した。


「魔剣を手に入れたことを分家にも見せて力の差を見せつけるってことか?」

「私はそう思っています」


 俺の実父は相変わらずのようだ。


 本家と分家をそこまでして区別したいようである。


 そんな会話をしてた時だった。


 俺のスマホが鳴った。


「ん?誰だ?」


 スマホを取りだして画面を見た。

 そこに表示されていたのは


【お父様】


(あぁ。一条家の、か)


 俺は勇気さんのことは【勇気さん】で登録してあるから間違いなく一条家の方の父さんである。


「はい」

『ゼロか。貴様は選抜式にはとうぜん参加しないだろう?』

「もちろん」

『ちょうど良かった。今五条の家に向かっているのだが、五条の敷地内にダンジョンを確認した。暇なら消滅させておけ。ランクはナシだ。お前みたいな能無しでも簡単だろう?』

「分かりました」


 俺がそう答えた時向こうから声が聞こえてきた。


『五条家は自分の敷地内にダンジョンが出来てても気付かないような無能かぁ。ゼロにはピッタリな家だな〜』

『『『ぶぎゃはははは!!』』』


(兄貴たちの声だな。全員で来てるのか?)


 そんな声が聞こえた瞬間電話は切れた。


 ま、なにはともあれやる事が出来た。


 俺は結衣を見た。


「ごめん。ちょっとお使い頼まれたから行ってくるね」

「お付き添いしましょうか?」

「え?いいの?」

「私こう見えて五条家の人間ですし、役に立つと思いますよ?兄さん」

「そう?じゃあお任せしようかな」


 俺は結衣と一緒にダンジョンの方に向かうことにした。


 場所は"お父様"が送ってきてくれたので問題なく分かる。

 確かに五条家の敷地内だった。



 屋敷を出て山の中に入っていく。


 この山だが結衣の方が詳しいので俺は地図を見せて結衣に案内してもらうことにした。


「えーっと、こっちですね」


 結衣に案内してもらっていると、地面にポッカリと穴が開いてる場所についた。

 これがダンジョンだ。


 山の中腹くらいの場所にあった。


 落とし穴みたいな入口。


「なんです?これ」

「ダンジョンだよ。ランクはナシだって。簡単なダンジョンだよ」


 俺は近くの木にロープをグルグル巻にした。


 ロープの逆側を手で持って穴の中に入っていく。


 そのとき、結衣が聞いてきた。


「は、入るんですか?」


 どうやら結衣はあまり気が進まないようだ。


「案内してもらったしそこで待ってくれててもいいよ」


 そう言ってみたけど結衣は入ってきた。


 俺はそのまんまロープを使って一番下まで降りた。


 結衣が降りてくるのを待ってから歩き出した。


 薄暗い道だった。


 懐中電灯でも付けようかと思ったら


「【フラッシュボール】」


 結衣が魔法を使ってくれていた。


 光の玉が俺たちの前に浮かんで、その光の玉が周囲を照らしてくれていた。


「すごい魔法だね」

「私は剣は使えないので魔法だけは練習してたんです」

「とてもありがたいよほんと。でもこれ、中にモンスターがいたりしたら向こうからも見えるの?」

「それなら安心です。モンスターからは見えないようになっていますよ。この光は」

「へぇ、なるほどなぁ」


 俺はふと思った。


「将来は結衣と探索することになる人は良いよね。こんな便利な魔法が使える子がそばにいて」

「そんなにですか?初級魔法ですよ?」

「俺魔法は全然だからすごいと思うよ」


 そんな会話をしながら進んでると結衣が口を開いた。


「あれはなんなんですか?」


 キラリ。


 壁に光るものが埋まっていた。


「あぁ、鉱石だよ」


 近寄ると俺は鉱石を壁から引き剥がした。


「キラキラしてます〜」


 目をキラキラにさせて鉱石を見てた結衣。


「初めて見る?」

「はい。こんなに珍しいもの初めて見ました」


(たしかに、珍しいなこれ)


 俺は何度かダンジョンには入ったことがあるけどこんなにキラキラ光る鉱石は初めて見た。


 ちなみにダンジョン内で手に入る鉱石なんかは全部拾った人のものである。

 つまりこれは俺のもの。


 俺のものをどう扱おうとそれは俺の勝手というものである。


 俺はそれをポケットにねじ込んだ。


「さて、次に進んじゃおうか」

 

 そう言って進み始めたら、


「グルルルルル……」


 唸り声。


(モンスターか?)


 こんな低級ダンジョンに?とは思ったけど。


 たしかに唸り声は聞こえた。


「結衣、何が起きても叫んだりしないで」

「は、はい」


 俺は念を押してダンジョンを進んでいくことにした。


 壁裏に身を隠しながら岩陰から岩陰に。


 モンスターに見つからないように進んでいたのだが。


 やがて暗闇の中にとあるモンスターが浮かんできた。


「グルルルルルルルル!!!グラァァァァァ!!!!」


 視界の先にモンスターがいた。

 始めは聞き間違えかと思ったけど、間違いない。あれはモンスターだ。


(オーガか?あれは)


 赤い体。


 その頭には角が生えていた。


 俺はあの子の名前を呼んだ。


「【絶刀】力を貸してくれ」


 カチャッ。

 俺の手に黒い刀が握られた。


 俺は剣を振った。


「【斬撃波】」


 斬撃が飛んでいきオーガは豆腐のように細切れになった。


(ワンパンなのか。俺がびっくりするくらいだ)


 ひょっとして、俺強すぎ……?



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