第5話 絶刀の力


 俺は翌日から人知れず努力をすることにした。


 手始めに裏庭に行き絶刀を振るう。


 勇気さんの前ではやる気がないように振舞っているが実はやる気満々である。


 裏庭には訓練道具が一通り用意されている。

 ダミー人形だったり、木だったり岩だったり。

 五条家の人が使っているのだろう。


 ちなみにダミー人形に関しては本家でも使っていたものだ。

 どうやって使えばいいかは分かる。


 というより使い方なんてひとつしかない。

 刀剣や魔法で攻撃するだけだ。


 とりあえずダミー人形と向き合った。


(はぁ、嫌なこと思い出すね)


 ちなみにだが俺はこのダミー人形を殴って傷を付けられたことはない。それだけ硬いのだ。


 本家ではダミー人形に傷を付けられれば初心者卒業と言われていたのだが俺はできなかった。


 俺がそのことで悩んでいる中も兄弟達はどんどんと初心者を卒業していった。


 その虚しさや悔しさは尋常ではなかった。


(ま、今回も無理だろうな)


 そんな諦めを抱きながら俺は刀を振った。


「スラッシュ」


 一条家でも散々やってきた基本の振り方。


 スパン!


「え?」


 ダミー人形は真っ二つに切れた。


「へっ?」


 ポカーン。


 現実に起きたことが信じられなかった。


 俺は足元のダミー人形の残骸を見つめた。


「ま、まじか……」


 傷をつけるどころか壊れてしまった。


「壊すはずじゃなかったんだけどなぁ。まさか壊れるなんて」


 そんなことを呟いた時だった。


 ザッザッ。


 足音がした。


 振り返ると優斗が近付いてきていた。

 話しかけてくる。


「本家の連中ってのはすげぇな。壊すつもりがなくても壊せるんだもんな?分家に対する新手の嫌味か?」

「あ、いや。そういうつもりじゃ」


 言葉に詰まってると優斗は笑ってた。


「ははは、冗談だよ。今日はな。謝りに来たんだよ。昨日の件は悪かったな」

(へっ?)


 俺がいろいろ考えてると優斗はペラペラ喋ってた。


「本家の奴らはイケすかねぇ奴ばっかだって思ってたけどお前は違うみたいだ。だから普通に接することにするよ、零」


 すっ。


 手を差し出てきた。握手ってことだろうけど。


「これで手打ちにしてくれよ。気が収まらないってんなら殴ってくれてもいいぜ?」


 俺は優斗の手を取った。


「殴れるわけないじゃないか」


 そう言うと優斗は嬉しそうな顔をしてた。


 それから聞いてくる。


「零、お前は他にどんなことができるんだ?本家の力見せてくれよ」


 そう言われて俺は困った。


 他にできることなんてないからだ。


 そんな時ゼッチャンの声が頭に響いた。


「主様。【斬撃波スラッシュウェーブ】を使いましょう。あちらに木が見えるでしょう?あれに向かって使ってみましょう」


(あっちの木って言っても結構距離あるけどなぁ)


「大丈夫ですよ。届きますので」


 半信半疑になりながらも俺は使ってみることにした。


斬撃波スラッシュウェーブ


 遠くの木に向かって俺は刀を振った。

 もちろん素振りみたいな形になったんだけど。


「おいおい、刀から斬撃が飛んでったぞ?」


 優斗がびっくりしてた。


(こんなこともできるのか。俺の魔剣すごくない?)


 俺もびっくりしてた。


 飛んで行った斬撃は細分化して木の枝を切り落としてた。


「おー、本家のやつってすげぇんだな。初めて見たぞ。斬撃が飛んでいくなんて」


 優斗はそう言ってきた。

 その言葉に練習のモチベーションがあがった。



 そうして一週間が過ぎた。


 12月23日。


 今の俺は剣を振ると斬撃を飛ばせるようになっていた。


 まぁそんな俺でも今日からは修行が出来ないんだけど。


 今日からはあれだ。

 分家や本家の人間が家に集まってくるからである。


 俺は自室の窓から庭の方を見ていた。


 するとまず車が一台やってきていた。


 庭に入り端の方にあった駐車場に車を止めた。


 そこから降りてきたのは四条家の人間だった。


 庭を見ていると勇気さんが忙しそうに走り回っていた。


(人手足りてないのかな)


 仕方ない。

 本当は関わるつもりはなかったけど勇気さんには恩がある。


 ちょっと手伝おうと思った。


 俺は庭に降りると早速勇気さんの近くに向かい話しかけた。


「何か手伝えることはありませんか?」

「それなら四条の人たちを客室まで案内してくれるかい?」

「分かりました」


 俺は頷くと四条家の連中に目を向けた。


 当然の話だが俺はこいつらと会った事があるし向こうも俺のことを知っている。


 俺としては話し合うつもりなんて無かったんだけど。

 向こうは話したいようだった。


「一条 零だったよな?」


 そう聞いてきたのは四条 タツヤという男だった。


「なに?四条 タツヤ」


 そう聞くとタツヤは笑っていた。


「お前が一条家から追放されたって聞いて会うの楽しみだったんだぜ?馬鹿にしてやろうと思っててさ、どう?今の気持ちでも聞かせてくれよ」


(はぁ)


 ため息を吐きながら俺は答えてやることにした。


「今はすがすがしいよ」

「強がりばっかりだなお前は」


 まぁそう受け取られても仕方ないのが今の状況である。


 普通俺たちは一条家を目ざして、一条家に入れた者はそこから落ちないようにするのが義務みたいなものだからだ。


 言ってみれば俺は落ちこぼれだ。


 そうして四条家を案内していると次にまた違う分家の奴がやってきた。


 こうして俺は次の案内を始めることにした。


 そんなことを繰り返しているとやがて最後の家である二条家の人間がやってきた。


(ん?女の子なのか)


 二条家の子供は女の子だった。


 俺が案内をするために近付くと女の子は俺の顔を見ていた。


「なに?」

「お前、一条 零だよな?」


 そう聞かれて頷いた。


「そうだよ」


 そう言うと女の子は笑顔を浮かべた。


 どんな悪口を言われるのだろうと思って身構えていたけど、


「そうか。私は二条 沙也加。よろしく!」


 そう言って手を差し出してきた。


「えっ?」


 予想外の事態に固まってると沙也加は聞いてきた。


「どうした?握手、しないのか?それとも私と握手したくないのか?私が二条家、分家の人間だからか?やっぱり本家は分家を差別してくるのか?」


 うるうるうる。


 逆に泣きそうになっていた沙也加。


 俺は手を取った。


「あ、いや。逆だよ。俺のこと馬鹿にするんだろうなって思って」

「馬鹿にする?そんなことないじゃないか。元は本家の人間なんだろ?すごいじゃないか!」


 笑顔でそう言ってきた沙也加だった。


 俺はそんな沙也加を客室まで案内した。


 それからも彼女は俺に着いてきた。


「零は一条に戻りたいのか?」


 どうやら俺が例の選抜式に出場するものだと思っているらしいが。


「いや。俺は参加するつもりないよ」

「むむっ。残念だ。お前と一緒に一条家に行こうと思っていたのに」


 どうやらこいつは良い奴っぽいな。


 正直な話、一条家の家系なんて分家も含めて、クズ揃いだと思っていた。


 だから意外だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る