第4話 魔剣との出会い


 当然の話だが俺も猫耳美少女も全裸だった。


 異常な状態だと言うのにどちらもそこに突っ込まない。


 というより俺は全裸よりも気になることがあった。


(なんで猫耳?いや、まぁどうでもいいか)


 風呂場に突然現れたことが一番気になる。


「あ、えーっと話が見えないんだけど」


 そう言ってみると猫耳美少女は頷いた。


「私は魔剣ですにゃ。知っていますにゃ?」


 魔剣なら知っている。


 ダンジョンが世界中に現れてから各地に魔剣と呼ばれるものが登場した。


 そして、その魔剣を手に入れた人間は強くなれるという話だったが。


「魔剣って人型になれてしゃべるんだね」

「私だけですにゃ」


 胸を張ってきた。


 目のやり場に困ってきた。


「あ、あのさぁ。とりあえず体洗っちゃうね。話はそれからでいい?」


 俺は猫耳美少女に背を向けて体を洗い始めたんだけど。


「洗いましょうかにゃ?主様♡」

「あ、はい。お願いします」


 俺は欲望に忠実だった。



 風呂も終えて俺は自分の部屋に戻ることにした。


 ちなみにこの猫耳美少女だが、とうぜんのように裸で廊下を歩いてる。


 本人曰く大丈夫という話らしいが


(なにが大丈夫なのか分からない。完全に痴女だぞ)


 ちょっと不安になってると前から人がやってきた。

 結衣だった。


(変態とか思われなかったらいいけどな)


 俺は結衣と廊下ですれ違っていた。


「零兄さん、おやすみなさい」

「うん、おやすみ」


(ってあれ?なんで猫耳少女に反応しないんだろ)


 俺は猫耳美少女の方を見てみたが。


「どうしたんですか?零兄さん、そこになにかいるんですか?」


(あぁ、俺以外には見えてないのか、これ。とりあえずごまかそうか)


「いや。なんでもない。なんか物音が聞こえたような気がして」

「そうですか。また明日お会いしましょうね」


 結衣は歩いていった。


(ほんとうに見えてないんだな。人間ではないんだろうな)


 俺は部屋に戻った。


 自室に入ると俺はベッドで寝転んでいた。


 すると猫耳美少女が横に入り込んできた。


「主様」

「ん?」

「私の使い方をお教えしますにゃ」

「使い方?」

「はい。私の名前を呼んでみてくださいにゃ」


 名前っていうのは箱に書いてあった【絶刀】でいいんだろうか?


 ゴクリ。


 俺は呼んでみる事にした。


「絶刀」


 すると、カシャッ。


 音がなって俺の右手には刀が現れた。


 しばらく握ってると空気に溶けるように刀は消えていった。


 そして俺の横にまた猫耳美少女が現れた。


「このようにすれば私をお使いいただけますにゃ」

「へぇ〜すごいなぁ〜こいつはいいな〜」


 でも、


「俺は君のことをなんて呼べばいいの?刀の名前で呼ぶと刀になるんだよね?」

「はいですにゃ」

「ならそのモードの時はゼッチャンって呼ぶことにするよ」

「はいですにゃ」


 それからゼッチャンは言ってきた。


「主様。私は主様を剣王の一人にするつもりですにゃ。主様もそれが夢なんですよね?」

「うん。剣王の空きは……1枠空いてたはずだね」


 そう言うとフルフルと首を横に振ったゼッチャン。


「違いますにゃ。主様は特別ですにゃ」


 あー。


 なんだろう。


 俺なんとなくこの後に言われる言葉が分かってしまった気がする。


 そう思っていたらゼッチャンは悪い顔をして言った。


「幻の8人目にするつもりですにゃ」

「そんなことできるの?」

「圧倒的な力で認めさせればいいですにゃ。それに残り一枠をめぐって主様と競争させられる他の人がかわいそうですにゃ。だから八人目」


 『にゃにゃにゃ』って笑ってたゼッチャンだった。

 この子も中々独特な笑い方をするなぁ。


「主様。あなたにはそれだけの潜在能力があると私は知っていますからにゃ」



「のど乾いた」


 寝ていたが水が飲みたくて起きた。


 台所の方に向かうことにしたのだが、廊下を歩いてるとリビングの電気がついているのに気付いた。


(夜中の3時くらいだったと思うけど、誰が起きてるんだ?)


 そう思いながら俺は気になってそっちの方に向かった。


 聞き耳を立てていると中から声が聞こえてきて。


 優斗と勇気さんの声だった。


「優斗。次に零くんを見下すようなことを言えばもっと怒るぞ?」

「へいへい。分かってるよ」


 分かってなさそうな返事。それから優斗は言った。


「それより父さんは本家の奴に見下されてて恥ずかしくねぇのかよ?」

「五条は本家よりかなり劣っているのは事実だ。仕方ないだろう」


 優斗は苛立ったように言った。


「本家だけじゃねぇ。二条、三条、四条、他の分家のヤツらにもウチは見下されてるだろ。中でも一番酷いのは本家だけどな。俺らのことゴミみたいな目で見やがる」

「優斗……」

「父さんがそんなんだから俺が見返してやろうとしてんだよ。だから俺は誰にも負けられねぇんだよ。それは零のやつも同じだ。気持ちで負けらんねぇ」


 その言葉を聞いて俺は理解した。


 優斗が俺に対して高圧的だった意味を。


(俺が本家の人間だったからか)


 嫌いな奴が自分の家に来たんだ。

 嫌悪するのは当然の話だろう。


 それから優斗は言った。


「便所行ってくるわ。昼ぐらいから腹の調子が悪いんだよ」


(うんこでもしに行くのか)


 俺は察して鉢合わせしないように水飲みに向かった。


 台所に向かうとゼッチャンが話しかけてきた。


「あ、ちなみにあいつの腹痛は私が起こしましたにゃ。主様と私の出会いにあいつは邪魔だったので消しましたにゃ」


 との話らしい。


 正直腹痛のタイミングは出来すぎていたので、そんなところだろうとは思ってた。


 俺がそうして水を飲んでいると勇気さんがやってきた。


「あっ、零くん。ちょうどよかった、話があるんだ。一週間後他の分家の人達と本家の人たちがここにやってくるんだ」

「なぜです?」

「本家の君は知らないだろうけど、分家の生まれでも優秀な子は本家に行けるんだよ。成績を測定するための模擬戦を数年に一度だけする事になっている。それを選抜式っていうんだ。それを行うのがこの家なんだ」


 なるほど。


 そういうのがあったんだなぁ。


「でも、俺はもう本家には行きたくないんでそういうのは参加しませんよ」


 本家にいた日々は地獄のような日々だった。

 あんな場所に戻ろうなんてことは思えない。


 そう言うと勇気さんは頷いた。


「うん、分かってるよ。ここはなんにも無いけど、平和なところだ。ゆっくりしてくれると嬉しいよ」


 笑顔でそう言ってくれた。


 実の父からは向けられた事がなかったような笑顔だった。


(もう本家には関わりたくないな)


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