第3話 出会い

 蔵の前についた。


 高さ6メートルくらい?の蔵。

 縦横も同じくらいだろうか?


 そんな小さな蔵だった。


 扉は2メートルちょいくらいか。


「ほら、見ろよ。鍵なんてねぇんだよ」


 優斗が蔵の入口を指さしていた。

 たしかにそこには鍵穴っぽいものも見つからなかった。


「おらぁっ!」


 優斗は扉を蹴っていた。

 しかし壊れる様子も見えない。


「いってぇ〜」


 蹴った本人が痛がっている。


 自業自得というやつだろう。


「ほら、お前やってみろ」

「開かないんでしょ?」


 俺はそう言いながら門の前に立った。

 そのときだった。


 ブルっ!

 優斗が震えてた。


 ギュルルルルルルルル。

 腹からやばそうな音が鳴ってた。


「トイレ行ってくるわ、漏れそう!急に来た!」


 優斗はトイレの方に走ってった。

 完全に姿が見えなくなった。


 走り方を見るにかなりヤバそうだった。

 それだけ急に来たらしいけど。このタイミングで、か。


 不思議なタイミングでの腹痛だったが。


(とりあえず、どうせ開かないだろうし、やるだけやってみるか)


 俺は蔵の扉に触れて力を込めた。


 キィッ……。


 スゥゥゥゥゥゥゥッ。


 まるで自宅の扉を開けるような軽さで蔵の入口が開いた。


「……」


 中は真っ暗だった。

 時刻は夕方。


 夕暮れの空。

 外からの光が中に入ってきてうっすらと中の様子が見えた。


 壁にはロウソクがかかっていた。


(ロウソク……?いったい、何年前に作られた蔵なんだろう?)


 俺は中に入っていった。


 ボウッ。


 壁にかかっていたロウソクに急に火がついた。


 俺は何もしていない。

 勝手についた。


「ゆ、幽霊……?」


 そう呟いてみたが返事は無い。


「な、わけないか。ばかばかしい」


 しかし、実に不思議な光景ではあるのだが、更に不思議な事が続いた。


 ロウソクなんだが、まるでこっちに来いと言っているような感じで、手前から奥へ向かって順番に火がついていく。


 俺はそのロウソクに釣られるように歩いていった。


 すると、蔵の奥の奥にそれはあった。


 黒い木の箱。


 フタに【絶刀】という文字が書かれた黒い箱だった。


 俺はその箱に手を伸ばした。

 その瞬間。


 ブワッ!とホコリが舞い上がった。


「げほっ!げほっ!すごいホコリだな!」


 そのホコリは俺の指にも着いてしまった。


「あちゃぁ……ホコリまみれだ。まぁいっか」


 俺は箱を開けた。

 すると中には……


「刀……?」


 箱の底には黒い刀が寝かされるように置いてあった。


「真っ黒だ。禍々しいなこれ」


 俺は刀に手を伸ばした。


 その瞬間だった。


『お待ちしておりましたにゃ、主様。続きは今宵』


 頭の中に声が流れてきた……。



 次の瞬間、俺の体は蔵の外にあった。


「え?」


 目の前には蔵の扉があった。


 パチクリ。


 俺は両手を見た。


 変わらない手の甲。

 そこには紋章なんてないし、刀もなかった。


「夢……妄想?」


 そう思いながら俺は蔵に手を伸ばした。

 扉はビクともしなかった。


「でも、いったいどこからどこまで?」


 俺がそう思ってた時だった。

 優斗が帰ってきた。


「ふぅ、どうだったよ?紋なし。開いたか?」


 俺は優斗の前で蔵の扉に手を伸ばした。

 ビクともしない。


(あれっ?さっきは開いたのに……?)


 優斗は「ははーん」みたいな顔をしてた。


「ま、この才能ありの俺でも開けられなかったわけだし、お前みたいな紋なしに開けられるわけないよな。ぷげらっ!」


 独特な笑い方をして優斗は家の方に歩いてった。


 そのあと優斗は呟いてた。


「いやーそれにしても、"快便、快便"っと」


 どうでもいい、くだらない言葉だった。

 同じ言葉を2度も繰り返すのだ、それだけ快便だったんだろう。


 でも、俺にとっては重要な一言だった。


「あいつがトイレに行ったところまでは現実だったんだ」


 それから俺は手を見た。


 手の指の腹には……


 ホコリが付着していた。


(全部、現実だったのか?)



 その日の夜。


 俺は五条家で初めての夜を過ごすことになっていたのだが妙に疲れた俺は早めに一人だけ寝させて貰うことにした。


 風呂ももちろん早めだった。

 家の面積に比例したのか風呂もそこそこ広かった。


 ちなみにこの家風呂は4つくらいあるそうだ。


 普段はそんなに沢山使わないらしいけど、風呂の数も多すぎるくらいだった。


 俺は体を洗いながら今日のことを考えていた。


「あれは、夢なのかなんなのか」


 食事中もずっと考えていた。


 でも分からなかった。


 だからモヤモヤしてた。


 全部俺の妄想なのか。

 妄想じゃなかったらあの声はなんだったのか。


 手についてたホコリは?

 あの出来事になんの意味があったのか……色々考えながら俺は髪の毛を洗ってた。


 その時だった。


 ガシャッ。


「ん?なにか落ちたか?」


 背後から物音がした。

 俺の背後はシャンプーボトルとかいろいろ置いてたんだけどそれが倒れたのかもしれない。


(でも、ガシャッなんて音するだろうか?まぁいいや。先に洗い流してしまおう)


 今の俺はシャンプー中だ。


 目を閉じているのでとりあえず先に薬液を流すことにした。


「ふぅ、さっぱり、おめめパッチリ」


 ってわけで振り返った。


「え?」


 そこに落ちてたのは刀だった。

 鞘に収められた刀。


(?)


 ゴシゴシゴシゴシ。

 目をこすって見たけど見間違えではなかった


「なんで……?こんなところに刀が?ここ、風呂場ですけど」


 キュッ。


 俺はシャワーをとめた、あんまり水をかけてると錆びるかもしれないからだ。


 刀を拾った。


(間違いない。これ、あの蔵で見た【絶刀】だ、でも。ん?)


 よく見てみるとこの刀には一滴も水滴が付いてない。


 この刀がこの風呂に現れてから俺は水を流しっぱなしだったのだが、こんなとこあるだろうか?


(ひょっとして)


 俺は鞘の部分にシャワーをかけてみた。


 水を弾いてた。


「どうなってるんだ?これ。不思議な力が働いてる?」


 そのままかけ続けてると頭の中に声が響いてきた。


『おやめくださいにゃ主様』


「あ、ごめん」


 水を止めた。


 するとその時だった。


 ポン。


 刀から煙が出て猫耳の黒髪の美少女が出てきた。


「お初にお目にかかりますにゃ。主様。私は絶刀と申します。あなたのことを待っていましたにゃ。500年ほど」


「しゃ、喋ったっ?!」


 猫耳美少女が!


 しかも全裸だぞっ?!


 なんでっ?!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る