第2話 蔵の話
「よう。
黒髪の男が話しかけてきた。
勇気さんが注意していた。
「やめなさい、優斗。初対面の相手にかける言葉ではないでしょう?」
チラッ。
優斗と呼ばれた男は俺の左手に目を向けた。
「だってそいつ、才能なしじゃん?俺より劣ってる。探索者が相手を見下すのは当たり前だぜ?父さん」
「優斗!」
勇気さんはそう言ったが優斗は聞く耳を持たなかった。
俺は今までの経験上こういう奴の扱いを知っていた。
だから勇気さんを制止することにした。
「慣れてます。お気になさらず」
「しかし、零くん……」
俺は首を横に振った。
優斗は俺の対応を気に入ったのか口を開いた。
「才能なしのくせに俺への礼儀は知っているようだな。そうだ。お前ら才能なしは俺のような才能のあるやつにひれ伏さないといけない」
俺はこの手のバカの扱い方は知っている。
とりあえずおだてておけばそれで満足するのだ。
この手のバカは扱いやすくて助かる。
「
「それもそうだ。お前みたいなヤツと話をしてもなんの生産性もないからな。紋なし野郎。だが一応体には教えといてやろう」
フッ!
優斗の体が消えた。
次の瞬間、俺の首に剣先を突きつけていた。
(なにも見えなかった。これが【剣の才能】か)
「反応すら出来てねぇな?紋なし。これが俺とお前の違いだ。どっちが偉いか分かったな?」
優斗はそう言うと家の方に戻って行った。
(この世界はどこに行っても才能なしに当たりが強いな)
初めは衝撃を受けたものだがこの世界での才能なしに対する扱いなんてこんなものである。
才能がない人間に対しての差別が当たり前のように蔓延しているのだ。
才能なし=紋章なしのことを【紋なし】と呼ぶ。
見たまんまの言葉である。
「すまないな。零くん」
勇気さんが謝ってきたが俺は「気にしないで」と言いながら首を横に振った。
「慣れてますよあの程度の差別。聞き慣れました」
「そうか……だが優斗のあの態度はダメだ。私からも言っておこうと思う。それでとりあえず許して欲しい」
それから勇気さんは話を変えるように言った。
「そうだ。零くん。そろそろ部屋の案内などをしよう」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「礼儀正しい子だね。さすが本家の子だ」
それから俺は父さんに敷地内を案内されることになった。
その道中で色々見えたのだがメイドのような人達が何人か見えた。
分家と言っても名門の分家だ。
こういう人たちを雇うだけの余裕はあるっぽい。
そんなわけで俺は思ってた。
(俺の生活の質はかなり上がりそうだな。一条のときは、メイドも俺を見て見ぬふりだからな)
生活の質なんかを考えると、結果的に一条家を追放されても良かったかもしれない。
で、案内されてる途中で裏庭に出た。
家の裏側にある場所で陽の光が当たらずに薄暗い場所。
その隅の方にデカい建物があった。
(蔵……か?あれは)
そう思ってたら勇気さんが説明してくれた。
「あの蔵には近付かないようにしてね」
結衣も言ってきた。
「お化けが出るんですよ」
「お、お化け?」
勇気さんは「ははっ」て笑ってから続けた。
「お化けなんて出ないよ。でも長い間掃除できてないんだ。だからホコリっぽいだろうし、ね。そもそも鍵がなくて誰も入れないんだよ」
肩を竦めていた。
なんともまぁ、いわく付きの蔵らしい。
てか、鍵がないのか。
「でも、変なんだよね。あの蔵には鍵なんてかかってなかったはずなんだけどねぇ」
勇気さんは「ま、いいや」って気楽そうに笑って俺たちに言った。
「さ、家の案内に戻ろうか」
◇
俺は武家屋敷の一室を部屋として与えられた。
俺を引き取るって話はかなり前からされていたらしく、家具などは勇気さんが揃えてくれていた。
ずっと前から俺の追放が決まっていたのだと思うと少し悲しくもなってきたけど、今は勇気さんの優しさに感謝しようと思う。
それと同時に俺は思っていた。
(俺が強くなることで恩返しできるかもしれない)
勇気さんは『こいつは一条の子だ。磨けば光るかもしれない』みたいな考えで俺を引き取った訳じゃないと思う。
だから良くも悪くも俺には期待してないんだろうけど。
(その期待してなかったやつが強い探索者になれば……勇気さんも嬉しいんじゃないだろうか?)
今現在大多数の日本人の夢は強い探索者になることである。
そして、親は子供が強い探索者になって欲しいと願ってる。
だから勇気さんもそのはずだ。
そこで俺が強くなることが出来たら、多分あの人は喜んでくれる。
それで俺を引き取ってくれた恩返しが出来ると思う。
だから強くなろうと思う。
それにしても
(やることがないな。この部屋)
勇気さんには生活のための準備をしておいて欲しいとは言われていたが特にやることはなさそうだ。
(夕食の時間まで裏で訓練でもしてみるか。才能がないんだ。人一倍……いや、10倍くらい努力しないと)
そう思った俺は部屋にあった木刀を手に取ると裏庭に向かうことにした。
裏庭にはたぶん誰もいない。
この家の誰かの邪魔になることもないだろうと思っての行動だ。
そうして俺が裏庭にくると、
「ちっ!相変わらずだなこの蔵は」
ドカッ!
蔵を蹴りつけている優斗の姿が見えた。
向こうも俺に気付いたのかこっちを見てきた。
昼間のような顔はせず真っ直ぐ俺の方に近寄ってきたら話しかけてきた。
「よう、紋なし。名前は零なんだっけな」
「そうだけど」
「お前あの蔵の秘密知ってるか?」
「なんかあるの?」
優斗はにんまり笑って言ってきた。
「あの蔵を開ければ強くなれるって噂が流れてるんだよ」
「おとぎ話みたいだね。嘘だと思うけど」
「よく考えてみろ。開かずの扉だぜ?開けたら報酬があるに決まってる。ゲームで宝箱開けたら宝が入ってんだろ?同じだ」
「実際に強くなった人はいるの?」
「いや、いない」
「その噂は誰から聞いたの?」
「覚えてないけど俺は数ヶ月くらい前に聞いたぜ。丁度お前が養子にくるかもって聞かされたタイミングくらいだ」
話を聞いている限り本当に開かないらしいけど。
でも……。
鍵がないのに開かない……ってのはどういう事なんだろうな?
(うん。少し興味が湧いてきたかもしれない)
俺は頷いて優斗に目をやった。
「ところで、なんで俺にその話を?」
そう聞いてみると「待ってました」みたいな顔をしていた。
「いつもと同じことをしても蔵は開かねぇ。しかし今日お前がここにきた。ってことはいつもと違うこともできるって訳だ」
優斗は続けた。
「ついてこい。俺とお前であの蔵を調べるぜ?」
俺はこの時何となく思ってた。
(こいつ、根は悪いやつじゃないのかもしれない)
口や態度はたしかに悪いが、本家の兄弟達とは違う気配を感じる。
なにより本家の兄弟達はこういう場面で俺を誘ったりはしない。
絶対にだ。
(こいつの口調や態度は個性だと思うことにしようか)
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