第15話 すごいぞトロール


俺たちが寮の予定地前で立ち話をしていたときだった。


ギィィィィィッ。


工事現場の門が開いた。

そこから出てきたのはトロールだった。


2メートルくらいあるから余りの圧に少し身構えてしまったのだが。


「ごめんでロル。怖がらないで欲しいロル。おでは悪いトロールじゃないでロル」


そんなことを言ってきた。


(日本語堪能なトロールだなぁ)


「失敬するでロル」


そう言いながらトロールは俺たちの近くを通ってどこかへ歩いていく。


(すごい普通に生活してるなぁ)


なんてことを思いながら見ているとトロールは資材置き場から物を取ってきてそれを工事現場に運んでいた。


そんな光景があるからか周りに人が集まってきていた。

ガヤガヤガヤガヤ。


「おぉ、すごいなぁトロールが普通に働いてるぞ〜」

「しかも喋ってた〜」

「流石国立の学園だな。最新技術を採り入れてゴブリンを労働力にしてるなんてな」


大人から子供までトロールを見ていた。


「はははっ。あんまり見られると恥ずかしいでロルよ」


このトロールはかなり温厚なようでそんなことを言いながら資材置き場と現場を往復していた。


トロールは工事現場に向かって叫んでた。


「おーい。ゴブリン数匹手伝ってくれロル」

「ゲギャッ」

「グギャッ」


中からゴブリンが2匹出てきた。


1匹はトロールと同じでやる気がありそうだったが、もう一匹はやる気なさそうだった。


これも性格って奴なのかもな。


「しかし、すごいなぁ。モンスターが労働力になってるなんて」


俺がそう呟くとリイナが説明してくれた。


「首元に首輪が付いてますわよね?あれでモンスターの知性を強化しているのですわ。人間の5歳くらいの知能はありますわ。言うことを素直に聞くんですわよ」


「へぇ、あれがね。でも壊れたりしないの?」

「どんな魔法を使われても耐えられるような首輪ですの。安心安全ですわ」


そんなことを言っているリイナ。


そのときタツヤが口を開いた。


「ま、その安心安全ってのもどこまで信用出来たもんだかな。万が一があるかもしれない。だから見守りがいるわけだしな。考えれば分かるよな?」

「感じ悪いですわね。ほんと」


俺はリイナに言ってやることにした。


「無視でいいよ」


俺がそう言った時だった。


カランカラン。


鉄パイプかなにかが地面に落ちたような音が聞こえた。


「ロル?」

「グギャッ?」


俺も音の聞こえた方に目をやると。


「どうしたロル?」

「グギャッ?」


最後尾を歩いていたゴブリンが鉄パイプを落とした音だった。


(様子が変だな)


俺がそう思ってるとゼッチャンが口を開いた。


『わかってる通りあのゴブリンは暴走しますよ。そういう未来が見えました』


「絶刀」


カシャッ。


手元に刀が現れた。


ゴブリンの様子を見ていると、ゴブリンは落とした鉄パイプを拾った。


そして


「ギャギャギャギャギャ!!!!」


ズブっ!


トロールの足に鉄パイプを突き刺した。


「う、うわぁぁあぁあぁ!!!」

「あのゴブリン、暴走したぞぉぉぉぉ!!!」


周りにいた人達が逃げ始めた。


もう1匹のゴブリンは暴走ゴブリンを取り抑えようとしていた。


「グギャーッ!!!」


暴走ゴブリンは取り抑えようとしたやつを弾き飛ばす。


(鎮圧するしかないな)


【斬撃波】


斬撃を飛ばすとゴブリンは粉々になった。


「グギャッ!グギャッ!」


「ひぃぃぃぃぃ!!!ビビったロルゥゥゥゥ!!!」


残ったモンスターたちはその場で両手を上げた。

敵意がないことを示すように。


だがすぐに学園の警備が集まってきた。


「なんの騒動だ?!」

「ゴブリンが1匹暴走したんだロル!!」

「なんだと?!」

「ギャギャギャ!」


トロールとゴブリンが必死に説明していた。


勇気さんたちが不憫に思ったのか警備の方に近寄って説明をし始めていた。


その時になってタツヤが俺を見てきた。


「俺が鎮圧してやろうと思ったのに」

「残念。俺の方が早かったね」


そう言うとリイナが口を開いた。


「さすがです。零様。さすが私の婚約者ですわ」


その言葉を聞いて更にタツヤは発狂を始めたが、俺はなんとかタツヤをなだめてやることにした。


それにしてもなぜこんなに切れているのかだけど。


「お前まさか三条のこと好きなのか?」


俺はふとタツヤに聞いてみた。


「っ?!」


タツヤはリイナの方を見た。


「ち、ちがう!そんなことはない!」


(あーっ)


子供特有の反応だなぁとか思いつつ俺は言った。


「バレバレ」


俺はリイナに言ってやることにした。


「そいつは君のこと気になるらしいから少しくらい話してやったら?」

「零様ぁ♡このような愚か者にチャンスをくれたやるのですね。私の中で好感度がまた上がってしまいましたわ」


それからリイナは辛そうな顔でタツヤと会話をしようとしていた。


余計なお世話ってやつだったのかもしれないが。


「ぜ、ぜろ」


今度はタツヤが俺に声をかけてきた。


その顔は真っ赤になっていた。


「か、感謝なんてし、してやらないんだからなっ!嬉しいなんてこれっぽっちも思ってないんだからなっ!余計なことしやがって!このやろう!」


(お前はいつの時代のツンデレだよ)


俺がそう思ってたらリイナは言った。


「あらそう。じゃあ私もあなたと話す必要もないですわね。ワタクシあなたのことが嫌いですので」

「あっ……」


一瞬にして絶望するタツヤ。


自分が空に向かって吐いた唾がこんなに速攻戻ってきたやつを見たのは初めてのことだった。


その後今回の件のゴタゴタが終わったあと二条と三条家はすぐに帰って行った。


最後まで残っていたのは結衣を待つ必要があった俺と四条 タツヤだった。


だがタツヤも帰ることになったようだ。


最後に俺の顔を見てきた。


キリッとした顔。


(またなんか言われるのかな)


そんなふうに身構えていたらタツヤは頭を下げた。


「零さん、俺は、なんてダメなやつなんでしょう。うぅぐすっ」


(すすり泣いてる?)


そう思ってたら顔を上げたタツヤ。


「あなたに貰ったチャンスを棒に振って……俺は大バカものだ!それよりありがとうございました零さん。俺なんかのためにチャンスをくれて」


「零さん。この家系で一番偉いのは一条じゃない。あなたがナンバーワンだっ!俺たち分家はあなたを認めますよっ!零さん!」


そう言って四条家当主の方に向かってった。


(なんでか知らんが、俺は分家のヤツらに認められたのか?)


俺は何もしていないのに。


まぁいっか。


認められるのは悪いことでは無いし。


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