伝われ、この心地よさ。


舞台は、横浜。
穏やかな小漁村だった横濱村が歴史の突端に躍り出る頃の物語。

案内役は、鎮守、弁財天。
美しい娘御の姿に顕現せし村の守り神が、供たる蛇神・宇賀神と、市井のなかでひとびとの暮らしと時代の推移を見守ってゆきます。

緻密に丁寧に調べられ準備された、歴史的あるいは地文学的な事実が、端正で読みやすく落ち着いた文体で提示されてゆきます。パノラマのように展開される情景を追いかけてゆくだけで、読者は自然と、この歴史の特異点ともいうべき地域の近代について知識をふかめてゆくことができます。

……。

なんていう、前置き。要らない。
そんな話じゃない。
いやごめんなさい、そんな話だった。それでいいごめんなさい。

それでいいんだけど、違うんです。

激しい歴史の波に洗われ、大きく形を変えてゆくこの村の、この町の姿。
ひとびとは生まれ、育ち、愛しい人と出会い、あるいは、朽ちて。

すべてに、弁天さまは、柔らかな眼差しで微笑みかけます。
宇賀さまも穏やかな表情で、主を見守ります。

おふた柱ともに、冷たいあいすくりんを、ぱくり、お口に運びながら。

ああもう、伝われ!
この佳き世界の、なんとも言えない心地よさ!!





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