■あらすじ
家族から「なきもの」として扱われるやちよ。
そんな彼女はある日、父に呼ばれ、“ある事”を告げられる。
それは、
“「宝石病」なる病に冒された桜花院家の当主・唯月の仮の妻となり、
その病を代わりに引き受けて死ね。
正式な妻には、妹の市佳がなる。
これは、家の為である”――というものだった。
“たとえ疎んじられていても、嫁ぎ先では幸せを願ってくれるのでは”
そんな僅かばかりの期待をも打ち砕かれ、桜花院家に向かったやちよ。
彼女を待ち受けるものは、死か、あるいは――?
四季の移ろいとともに語られる、全30話の中篇和風恋愛ファンタジーです。
■おすすめポイント
(1)美しくも恐ろしい「宝石病」なる奇病
身体の一部が宝石と化し、やがて完全なる宝石へと転じてしまうという、
美しくも恐ろしい奇病“宝石病”。
物語の背景で刻々と過ぎ去っていく四季の移ろいは、
留まることなく滑り落ちていく砂時計の砂のように、
唯月の命の刻限を静かに、また美しく、そして容赦無く刻み込んでいきます。
と同時に、唯月の身体も次々と宝石と化し、段々と身動きが取れなくなっていく……。
果たして、唯月達はこの「宝石病」を克服する事ができるのか。
やちよが見つけた“答え”とは……?
また、唯月は何故、この病に罹患してしまったのか。
本作品最大の“みどころ”です。
(2)それぞれの思いと葛藤
諦めの中で、役目を果たさねばと思うやちよ。
他人を犠牲にして生きる気はないという唯月。
やちよの家族の所業に腹を立てつつ、やちよや唯月を気遣う幸子。
主治医として、それを見守るヘルマン。
国に必要な存在として唯月を死なせるわけにはいかないと、やちよに身代わりになるよう迫る正。
それぞれの立場と思いが複雑に交錯し、物語に深みを与えています。
(3)心にすっと沁み入る文体
本作品は、基本的にはやちよの一人称視点で語られます。
ものやわらかな語り口調は、そのまま彼女自身の気質や品性を感じさせて、
すっと心にしみ込んできます。
静かに過ぎ去っていく日々を真摯に見つめる、
透明感のある彼女の眼差しが想像される、美しい文章を是非ご堪能ください。
■こんな方に
☑四季の移ろいとともに美しい文章で綴られる物語を楽しみたい方
☑切なくも優しい純愛物語を味わいたい方
☑大正浪漫な世界観が好きな方
主人公やちよは実家で酷い扱いを受け続け、ついには呪いの身代わりとなり命を捨てよと命じられて家を出ます。
長く続いた虐待により、心も身体もとうに限界を超えていたやちよ。
生きていること、命を繋ぐことを許されていないと、考えていたのです。
いや、自分の命はもうそこにはない、身体を捨ててこそ浮かばれるんだと、もう半ば彼岸に彼女は漂っていたのだと思います。
そんな彼女を変えたのが、かりそめの嫁ぎ先の縁のひとびと、そして誰よりも、呪いで命を限られているはずの旦那さま。
この人のために、と思った時から、やちよの心の色は変化したのです。
美しく消えかけていた半透明の魂が、もがき、身を捩り、あがき。
激しく燃焼するようになったのです。
穏やかな時間も、そして心臓が飛び出してしまいそうな冒険も。
ぜんぶの経験がやちよを変えてゆきました。
そうして最後に、掴んだ奇跡。
大正浪漫の香りのなか、きらきらと輝く宝石の光に包まれて。
稀有な読書体験をしてみませんか。
「お前の嫁ぎ先が決まった。――お前は、春までに死ね」
『宝石病』にかかった桜花院当主の代わりに死ねと命じられたやちよ。
ところが夫にあたる唯月は、彼女の接触を拒む。彼は呪いを誰かに押し付けることをよしとせず、死を受け入れるつもりでいた。
実家では疎ましがられ、せめて死ぐらいには意味を見出したい。やちよは唯月と接触することを考えるが……
やちよの不遇な境遇に怒る、優しい幸子。
様々なことを教えてくれるヘルマン医師。
そして、どれだけ自分が苦しくとも、やちよを犠牲にすることを良しとしない唯月。
「好きかはわかりません。――でも、死なせたくありません」
少しずつ変わっていく日常の、終わりが近づいてくる。
その中でやちよは、ある決意を決める。
やがて見えてくる『宝石病』の真実。
はたして、二人に春のその先はやって来るのか。