第9話 書斎ごもり


 そんな感じで数日間、私は書斎の隅にあった本棚を漁っていた。

 その間は残念ながら……お嬢様に会えていない。

 ただ、それに加えて午前の間、書斎に籠るようになったことで、一つ分かったことがあるのだ。


「ぜんっぜん読めない……!」


 文字は読めるのに本が読めない。


 そう、気づいたことというのは、私の教養についてのことだ。

 書斎の利用を許可されてから私はネリーお嬢様と騎士学校について調べようとしていたんだけど……長いこと本に触れてこなかったせいか、全く読み進めることができなかったのだ。


 いや、もちろん文字は読める。

 読めるんだけど、前提知識とか専門用語とかがさっぱりで、騎士学校の成り立ちについてのことすら、まともに調べられないのだ。



「ちょっとこれ……まずいかも」



 そして私はこのことに、貴族のお嬢様のお付き人としての危機感を覚えてしまったわけで。困ったな、この辺りのことについて教えてくれる方はいないだろうか。


 もちろん、セブラさんは全て分かっちゃうんだろうけど……

 なんとなく、あの人は放任主義というか、聞いても自分で頑張れと言われる気がしてしまって、声をかけ辛い。


 もちろん、私は騎士学校に席を置いているわけでもないから、直接騎士学校にいくという手段も取れない。一応、庭師のレイサムさんとか、メイジェリアさんに聞くっていう手もあるけど……


「あ、そうか」


 私はそれより、もっといいことを思いついた。



「お嬢様。いらっしゃいますか」

「あらキュージ。どうしたの?」


 ある日の朝。自室にまで来られたのが本当に意外だったせいか、今日のお嬢様は声が大きくない。

 私が声を掛けると返事が返ってきた。扉のすぐ裏側にいるみたいだ。


「すいません。少々教えて頂きたいことがございまして……お時間ございましたらこの後、テラスまで来ていただけませんか」


 噓ではない。本当に教えてほしいことがあるのだ。

 流石に自室に踏み入るのはどうかと思うので、後でと言ってみる。


「あら、だったらもうここでいいじゃない! 入って来ていいわよ!」

「えっ……それは流石に……」

「いいのよ! ほら! 入って来て!」

「えっと……」


 そう言われると困ってしまう。だって……


「すいません、今両手が塞がっていまして……」

「そうなの! しょうがないわね!」


 お嬢様のそんな声が聞こえた直後、部屋の扉が開く。

 そっか、両手がふさがってるなら向こうから開けるに決まってるよね。

 止めようと思ってももう遅い。ああ、こんなことなら……


「……ねえキュージ。それ、どこから盗ってきたの……?」

「許可はとってますから!」


 自分の部屋まで、この山積みの教科書を運んでから声をかけるべきだった……

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