1-9「磔の男」作戦
1958年 ドイツ第三帝国 ウィーン
早朝からSSにより自身の住まいを破壊された挙句、自身の身すらも危険にさえあされたルセフは、整理のつかない感情に流されながらマンホールの下に伸びる迷宮を歩いていた。
先導人である浮浪者みたいな男は「アルバン」と称しており。
彼を含む者たちは、4人を守るように6人が広く展開し、手元にはKar98kやGes41を手に持っており、腰には柄付手榴弾を2、3本差し込んでいた。
「あんたら何者だい?見たところただの浮浪者には見えないが」
大尉が先導するアルバンに尋ねる。
「我らは、とある御仁より依頼を受けた者たちです。親衛隊の動きが怪しいので閣下を見守れと」
「閣下を見守れ?じゃあ、あんたらは・・・・」
大尉が次の言葉を続けようとしたとき、アルバンが手を横に出して静止を促した。
(おい!この下にいたか)
(いえ隊長!この下には見当たりません)
(次に向かうぞ!早く来い)
上で慌ただしくしているのは、おそらくSSだろう。彼らは、4人・・・・特にルセフの事を探しているようで、懐中電灯をマンホールの下にのぞかせて探していた。
「降りてくる気はないようですな」
記者が鼻をハンカチで押さえながら判断する。
「奴らは、ここまで降りてこない。マンホールの下を警戒していれば大丈夫だ」
アルバンは、そう言うと再び進みだす。
「私は、西部戦線で戦っていた退役軍人でな。今回の任務の隊長を任されているだ」
「西部方面って。あんた、大戦の最初期から戦っていたのか?」
大尉が驚き顔で尋ねる。
西部戦線。フランスを中心とするヨーロッパ諸連合を相手に戦ったこの戦争は、ドイツにおける華々しい戦歴の幕開けとなり、のちの東部戦線で起こる地獄を感じさせないもので、いくつもの戦時作品映画の題材とされていた。
初の電撃戦を活用した高速戦術や航空機を使った空陸一体となった三次元戦術の基本を作ったこの戦線は、今でも活躍する将校たちの下積みとなっており、士官学校の教材としても活用される戦場となっている。
だが、今から20年近く前の戦争であり、全線将校として参戦していれば、若くても30歳後半となる。
ベテランといえば聞こえがいいが、軍人で言うなら退役して然るべき歳の者である。
「あんた、最終階級は」
「中尉だ。戦闘中に目をなくして退役した」
アルバンがそう言った後に大尉のほうを向いて布を上げる。そこには、本来もう片方あるはずの目の位置に布が括り付けられていた。
「そうだったのですか」
一同がしばらく下水道を進んでいくと、ウィーン総統府の下にたどり着いていた。
「我らはここまでとなります。皆様、閣下の事をお頼み申します」
守備していくれたアルバン達が、敬礼をして4人を見送っていく。
大尉が先行してマンホールから外に出てくると、周囲を確認しながら他の者たちを引き上げる。
4人が周囲を見ながら施設内に入っていくと、受付の者が慌ててヴィルヘルムの下へと走っていく。
「ルセフ君!無事でよかった」
「閣下。一体何が起こったのでありますか」
襲われた理由を察しながらも状況を確認したいルセフは慌ててヴィルヘルムへと尋ねる。
「わしも今情報を集めているところだ。だが、ベルリンにある親衛隊司令部より、かなりの部隊が出撃しているそうだ」
ヴィルヘルムの後ろでは、慌ただしく各地の情報を確認するために連絡を取り合う職員たちの姿があった。
「閣下。彼の家も襲われて破壊されましたが。支援者である『アルバン』という者たちに助けられました。閣下は、その者たちの事は」
大尉がルセフの横からヴィルヘルムへと尋ねる。
「いや。ワシは、おぬしら以外の人間を配備していないぞ」
彼がそう言うと共に、扉が勢いよく開いて数人の黒服たちが雪崩れ込んでくる。
「動くな!親衛隊だ」
「貴様ら!いかなる権限をもって、ここに乗り込んできている」
飛び込んできたSSに副官と数人の職員が突っかかるように人壁を作る。
「しばらく時間を作ろう。その間にどこかへ避難を」
「だとしてもどちらに行けと!」
ヴィルヘルムは、ルセフらを裏口の方へと押し出すと、すぐに扉を閉められる。
「さあ、ルセフ!ここにいてもヴィルヘルム閣下は、喜びませんよ」
全国指導員がルセフの手を引いてその場より離れていく。
どこまで走ったか理解した時には、すでに総統府に掲げられていたハーケン・クロイツの旗が辛うじて見える場所まで来ていた。
彼らは、中央通りの一郭にあるごみ回収ポイントに身を潜めていた。
「それで、これからどう逃げますか?」
記者がごみバケツの蓋を抱えながらルセフたちに近づきながら尋ねる。
「取り合えずこの街から出る方法が必要です。この状況だと、鉄道は論外ですし、国道にも検問隊がいるでしょうから・・・・」
「航空機はどうだろう。乗ってしまえばベルリンまで2時間ほどだから」
記者が脱出の条件を1づつ潰していくと、横から大尉が提案する。
「無茶なこと言わないでくださいよ。絶対親衛隊の奴らが張っているでしょうから、我らが来たら直ぐに捕まりますよ」
「そうでもないぞ」
ふいに後ろから聞こえた声に4人は、その主に向かって視線を上げる。
そこには、少し埃を被ったことで白くなった制服を払いながら立つSS将校であるギュンタースが仁王立ちしていた。
「ギュンタースさん!」
ルセフが声を上げるのと同時に大尉が胸元からルガーを取り出そうとする。
「落ち着いてください閣下。さっきは上の命令で仕方なくやっていただけなんですよ。それよりも、ここじゃまずいのでこちらへ」
ジュンタースと数人は、4人を奥へと連れていく。
「閣下には、すぐにでもベルリンに行ってもらわねばならないので、今回は強引にでもこのウィーンより出てもらわねばなりません。そこで、このまま我らが用意した飛行機にて向かってもらおうと思います」
「用意した飛行機って、一体どこにあるんだい」
「場所は後で説明します。まずはその服を着替えてもらわねばなりません」
ギュンタースはそう言いながら近くのオルぺ・ブリッツのほろを開ける。
彼らが中に入ると、数枚の身分書と変えの着替えが用意されていた。
彼らが中で着替えると、ギュンタースと部下が運転席と助手席に乗り込んで発進させた。
「君たちの身柄は、途中までこのトラックで護送するようにして運ぶ。その後で、君たちの代わりとなる死体を用意して時間を稼ぐつもりです。その間に、件の飛行機の下に向かって貰う事になります」
ギュンタースは、今後の行動計画について後ろにいる4人へと伝える。
「その間の護衛は?」
全国指導員がギュンタースに確認する。
「我らでは護衛できない。すまないが、そこにある武装で何とか身を守ってほしい」
「そんな。こっちには、まともに銃を扱える奴が俺しかいないんだぞ」
大尉が置いてあった改造型のFG42をバラ解体しながら答える。
「そう言われても、こちらとしてはどうしようもない。我らは、これ以上の支援ができない。なにせベルリンから厄介な連中が来ているものでね」
「厄介な部隊?」
大尉がギュンタースにそのことを尋ねると同時に車が急停止することとなった。
「どうしたんだ?」
「どうやらここまでのようだ。連中だ」
ギュンタースがそう言った後に車から降りていく。
「降りよう。どうやら、彼の案内はここまでみたいです」
記者がそう言って後ろから降りながら後の三人に告げる。
ウィーンの街にはびこるSSをいかに対処するのか!
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