2-4 収容所の怪

1958年 ドイツ第三帝国 マウンツハイム


 ドイツ占領前から一定の工業化が進んでいるチェコスロバキアの西部ボヘミア。

 ウィーンと同じように総統府が置かれる予定だったが、この地域に住むの多くのチェコ人を治めるために保護領とするようになっている。

 大戦中に戦線より離れており保護領でもあったここには、いくつもの収容施設や後方物資なのど製造工場が設けられていた。

 戦後、収容施設の多くが閉鎖されたものの、親衛隊管理施設のいくつかは、未だに稼働していた。

 途中攻撃を食らいながらもルセフ達は、何とかマウンツハイムへと到着し、現地に駐屯するハンス・クロー大佐以下の第3降下猟兵旅団へと合流していた。

 「ルセフ閣下。よくぞご無事でしたな」

 クローは、ルセフの到着を外にて出迎えてきた。

 「出迎え頂きありがとうございます。今回の支援について私を含めてここに居るものは、大変うれしく思っています」

 ルセフが、クロー大佐と握手をしながら受け入れてくれたことに謝意を示す。

 クローが指揮する第3降下猟兵旅団は、従来の師団編成より小数で展開できる部隊として創設された。

 1941年に起こった「ギリシャ内戦」において、現地ファシスト党を支援のために派遣された第1降下猟兵軍団が予想以上の戦果を挙げた事になり、空挺戦術の有用性と欠点を認識。

 当時の現地で指揮を執っていたヘルマン=ベルンハルト・ラムケにより、降下作戦において大規模な兵力投入は、多くの的を作ることになり、本来の奇襲より強襲に近いものとなってしまう事から、小数かつ精鋭化する事によるにより、機動力と即応力長けた部隊となることになった。

 彼は、自身の指揮下にいた幕僚団をこれの指揮官として配備し、ユーラシア大戦でのオデッサ攻略作戦である「白傘作戦」を実施。

 クローもその作戦で、オデッサの軍港占領と補給路閉鎖を行い、オデッサに残留していたソ連軍を圧倒するに至っていた。

 その後も、「キエフの戦い」や「モスクワ強襲」にも参戦してソ連軍との激戦を戦い抜いていった。

 戦後は、占領地での駐屯任務が主となり、このマウンツハイムにもレジスタンス警戒にと周辺交流を行っていた。

 「もしよろしければ、閣下にわが隊を見てもらいたいと思いますが、どうでしょうか?」

 クローは、ルセフを近くにある滑走路へと案内する。

 滑走路周辺では、訓練中の所属部隊員達がクローの到着で敬礼する。

 「あちらに居るのは、空挺大隊です。隣にあるのは、空挺用に改造されているⅡ号戦車であります」

 訓練中の彼らを見ながら、ひときは目立つ乗り物にルセフは目を奪われる。

 「大佐。あれは、一体何なのだね」

 彼が指さした先には、水滴のような形状に上と横にプロペラをつけた乗り物である。

 「あれは、ブレード・ローター機であります。機種名をFW300と申しまして、対空用のロケットと20ミリを主兵装として装備して、地上の支援と索敵を主に行われるものです」

 「なるほど。これほどの兵器を装備しているとは」

 ルセフは、クローの部隊を見ながら感心する。

 「ルセフ閣下。わが隊が味方する限り。SSの豚共がいくら来ようと、叩きのめして見せます。ですので、心行くまでこの地でゆっくり腰を据えて政権奪還を行ってもらいたいです」

 クローの案内によりルセフらは、仮の住まいとなる山間部別荘に付く。

 ここは、ボヘミア王国時代に多くの貴族たちや富豪が避暑地として作った別荘が多くあったが、欧州大戦やドイツ併合の煽りを受けて多くの建物が所有者不明の状態となっていた。

 そのうちの一棟を接収し、彼らの仮住まいとしたのである。

 「ここを皆さんの仮住まいとなります。必要なものなどは、出入り口におりますゲートガードに連絡をすれば車の手配などもできますので何なりと、お申し付けください」

 クローがルセフたちの山の別荘に案内してから施設回りについて一通り説明した後、ルガーは、大尉たちを手招きして呼び出した。

 「閣下の事は、我ら効果猟兵旅団が護衛させていただくことになる。そこで、君達には、一つ任務に参加してもらいたいのだ」

 「任務でありますか?どのような」

 大尉たちは、クローの言う任務を確認するため、下にある司令部へと向かう。

 司令部では、クローの幕僚団が険しい顔を突き合わせながら、何かの施設が描かれた地図を睨みつけていた。

 「旅団長。お戻りになりましたか」

 「おお。例の施設についての情報は、どうなのだ?」

 クローと大尉たちは、幕僚たちがにらみつける地図を見る。

 町の地図にそろえて置いてあった施設の地図には「シュトラウツ収容所」書かれており、この駐屯所から反対側にある施設のようであった。

 町の地図に手この施設を確認すると、かなり大型のものであり、収容人数も近隣施設の比ではないことが分かる。

 「君たちに頼みたいのは、この施設の調査だ」

 「なぜ、我々にその様な事を要請されるのですか?」

 「我らは、元々この施設を含む近隣施設を親衛隊が放棄していないで稼働させているという事を聞いており、本当に彼らが放棄しているかを調査していたのです。ですが、施設の多くが調査を受け入れてくれない状況でしてな」

 大尉の質問に深刻そうな顔でクローが説明すると、大佐が自分たちを頼った事が理解できた。

 国防軍でありルドルフに近い勢力である彼らは、SSの勢力化にある施設の調査などいかなる引き延ばしなどをされてまったく進まないだろう。

 しかも、アドルフ・ヒトラーが病にかかり、影響力を落としている以上、SSにおいては止金を失った状態となっていた。

 「まぁ。国防軍を嫌っている親衛隊なら入れてくれませんわな」

 記者が、顔をなぞりながらクローの話に納得する。

 「しかし、仮にも副総統からの命令で動いている部隊に拒否を行うなんて、あまりに挑戦的ではございませんか?」

 全国指導員は、記者の方を見ながら、正論を投げかける。

 「そんなもの、彼らには関わり無い事ですよ。ベルリンではどうあれど、影響力の低い地方なら問題ないからな」

 大尉は、そう言いながら地図を見なら何かを考える。

 「大佐。この地域には、総統閣下の事は以下に伝わっておりますか?」

 「ん?昨日の報告では未だ昏睡状態と言いておるが」

 クローから現状を聞いた後に大尉は、何かにひらめいたように口を緩める。

 「いい作戦を思いつきました。大佐」

 「?」

 大尉が思いついた作戦とは?ボヘミアにいるSSの計画とは?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る