2-3 収容所の怪
1958年 ドイツ第三帝国 バイエルン州
先にオーストリアに行った時に見た穀倉地帯とは異なり、旧領主たちが建てた古城とそれを覆うように生えているマツ科やブナ科の森林地帯が広がっており、道路を走っていても周りが死角になりやすい場所である。
空から偵察するにしても、この森林のお陰で見つけることが難しく、地上のを探るにしても森林内にあるバンカーなどに隠せば見つけることも困難となる。
大尉たちが乗る2台のオペル・ブリッツは、出発から3日かけて、この森にたどり着くいていた。
よく訓練されている大尉の部下は、この程度の移動わけも無かったが、ルセフや全国指導員にとっては、答えるものがったようで、車内でうとうとすることが多くなった。
「ルセフさん。だいぶお疲れのようですな」
記者は、肩にあたった銃に気づき、声をかける。
「すまない。車両の長旅には慣れていなくてね」
ルセフは、記者に向かって答える。
「ところで、君。だいぶ慣れているみたいだが、従軍経験があるのかね」
「大した経験はございません。従軍記者として戦地に行っていただけですよ」
記者がそう答えると、しばらく大尉が彼のほうを見つめた後に、隣に目をやる。
隣で転寝する全国指導員は、だいぶ疲れれているのかつらそうに首の置き場所を探していた。
「・・・・そろそろ休憩しよう。運転手。このあたりのバンカーに止めてくれ」
「了解です」
ブリッツがゆっくりと、少し走った後に、道を少し外れた小道に入って行く。
その道は、しばらく走っていくとかつてルフトバッフェが使っていたであろう航空機用バンカーが置かれていた。
森に隠れているバンカーは、木々が邪魔をしており滑走路もすでに草木に覆われていた。
「おい、嬢ちゃん。休憩だぞ」
「ふぇ?」
ほとんど寝ぼけていた全国指導員は、大尉の声聞いて情けない声を出した。
「そこで横になってろ。毛布を掛けといてやる」
そう言った途端全国指導員は、誰かのリュックを枕にして横になる。
「隊長も優しいですね」
外にいる大尉の部下は、笑顔で声をかける。
「クソッタレが。貴様にも子守歌を歌ってやろうか」
「う~ん。大尉に添い寝してもらいたいですよ~」
部下たちが大尉を冷かしながら声をかける。
中のよさそうな大尉の部隊は、各々に食事や団欒を楽しんでいると、大尉の元に4人ほどが近づいてくる。
「隊長。周辺の偵察に向かいます」
「おい。俺に報告するなよ。一応小隊長が指揮を執ってるんだから」
大尉がそう言うと、はっとしたようにその場から小隊長の少尉に近づいていく。
「大尉も大変ですね。ばれないためとはいえ、こんな役回りとは」
「なに。命令とあれば、いかなる仕事もこなしますよ」
大尉がそう言いながら、手元に置いているStG45を撫でる。
小隊の装備は、Gew41とStG45を半分ずつ携帯しており、機関銃であるMG45は2丁と対戦者火器であるパンツァーファウスト20丁を装備している。
見張りに出向いている兵士たちに定時連絡の照明を照らす。
暫くすると三か所からは、返事があるも一か所だけ返事がない。
大尉は、StG45を構えながら立ち上がる。
「どうしたんですか?何かありましたか」
「そうですね。すまないがあんた達も車に乗ってもらったほうがいいようだ」
ルセフと記者は、おどついた状況でトラックへと乗り込んでいく。
大尉は、近くにいる少尉を呼び出すと兵士たちをいかに配置するかを指示し始めた。
「こことここ、あとのの奴はブリッツ周りに集めよう。俺の元には4人だ。ゲートに展開する」
「了解です。でしたらこいつとこいつ、あとそこの二人にしましょう」
少尉は、選別した兵士を呼び集めると大尉の元に手渡して、そのままトラック周りに展開する。
暫くすると見張り兵達が3人帰ってくる。
「おい!街道沿いを見に行っていた者はどうした?」
「あいつの姿を見ていません。もしかしたらやられたのかも」
「くそ!」
見回りの兵士たちがゲートから入って行った後、両脇の兵士が長距離用の照明器で前を照らす。
真っ暗らなバイエルンの森林に二つの光線が伸びる。
「頼むぞ!静かな夜で終わってくれよ」
大尉が呟くと共に、それを破る様に雷光のような光と閃光が彼の顔を掠めて行く。
「野郎が!各員撃て」
大尉の号令に従い部下たちが一斉に7.92ミリの鉛の矢を一斉に放たれる。
ゲート前に置かれた土嚢に次々と鉛球が命中し、中に入った砂が次々と零れ落ちてくる。
大尉の持つStG45からはじけ出る7.92ミリは、闇夜の中に移る僅かな発砲光へ向かって飛ばしていくも、相手から無数に飛んでくる。
「奴らここの明かりに向かって撃って来てるな。お前ら、俺とついてこい。少尉!何人かここに回してくれ」
大尉の命令に従い、数人の兵士が走ってくる。
兵士が到着すると大尉が指で配置を指示すると、自分たちちは、ゲートの外に出て闇の中を走っていく。
「闇夜とはいえ、敵の動きが適格だ。もしかしたら、夜間装備をしてるかもしれないな」
ナイトビジョン。暗視装置の原型は、ユーラシア大戦時にパンサー戦車などの付属装備として発明され、歩兵用装備にはそれから2年後にスコープ型の物が開発されているがほとんどが特殊部隊に配備されているのがほとんどである。
ゴーグル型の開発も進められているが、重さがそれなりにあることから出来上がるのには、もうしばらく掛かるだろう。
「おそらく、近くに指揮車があるはずだ。それを片付けるぞ」
「了解」
大尉の命令で二手に分かれたメンバーは、闇夜に紛れて消えていく。
街道から少し寄った森林の入り口には1台のSd.Kfz.251/20と4台のトラックが道をふさぐように展開していた。
指揮者にいるSS将校は、苛立ちながら前線の状況を赤外線サーチライトの映像をにらんでいた。
「あんな規模の敵にここまで苦戦するとは、うちの兵士は何をやっているのだ!あの薄気味悪い兵士まで導入しているのに」
SS将校は、部下たちの仕事ぶりに不満があるようである。
彼の部下たちは、木々の間から撃ち上げる姿勢で発砲しており、森林の為に迫撃砲や軽砲などの火力支援も使えないのである。
交戦体制も火力支援も難しい地点で、歩兵が持つ小火器と肉弾攻撃しかないのである。
その為、奇襲をかけたかったのだが、気付かれたことから、安易な数で押す戦術に切り替えていたのである。
「隊長!第3分隊が壊滅。特務文体が穴を埋めるように展開します」
「わかった!」
SS将校は通信士の報告にいら立ちを隠さずに答える。
「隊長!」
見張り員が叫ぶと同時に後方で止まっていたトラックが吹っ飛ぶ。
「何!」
SS将校の困惑が改善することなく、次の脅威が瞬時に間合いに飛び込んでくる。
夜明けと共に、周囲の現状が徐々に明らかになる。
周辺には無数のSS兵士の死体が転がっており、1台のトラックとSd.Kfz.251/20の残骸が出入り口に朽ち果てていた。
「あの。昨夜は大丈夫でしたか?」
埃まみれとなっていた大尉に全国指導員が不安げに声をかける。
「大丈夫じゃなかったら、こんなに元気じゃないよ」
大尉は、笑顔で手を振る。
「しかし、連中の死体の中には、あの手長猿がいなかったな」
大尉が後ろを見ながら呟く。
「中隊長が言っている獣みたいなやつが本当に要るんですか?」
「お前が気にしなくても、そのうちに会えるよ」
大尉がそう言いながらその兵士の肩を叩く。
闇夜の襲撃をかわしながら大尉たちは目的地であるマウンツハイムに向かうのであった。
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