1-4「磔の男」作戦
1958年 ドイツ第三帝国 ウィーン
太陽がほぼ真上に上った頃にウィーン中央駅に三人の乗った列車がゆっくりと滑り込んでくる。
昨夜にかち合ってしった親衛隊による検閲の影響により、しっかり休めない状態であった乗客は、疲労感のある顔をもたげたままに客車から降りてくる。
ドーム型の屋根には、太陽の光を入れるためにつけられている曇りガラスがはめられており、そこにで口があると思った煙たちがそこに集まり更なる光の乱射を促していた。
「お忘れ物の内容にご降車ください。本日は、到着が遅れてしまい申し訳ございません」
列車を降りた者たちの流れに乗って三人もよろよろとしながら出口へと歩いていく。
外に出れば、かつて偉大だったハプスブルクの王都であったこの街は、帝国の都市改造計画の一つに入っていたにも関わらず、多くの建物はオーストリア=ハンガリー帝国時代か、それより古いオーストリア帝国時代の物が目立っていた。
辛うじて、この中央駅ぐらいがドイツ式の近代建築であり、目の前に置かれている老舗ホテルとの対比がノスタルディックな光景を演出させていた。
先の大戦では、ほとんど戦火にもさらされることがなく。多くの駐屯施設は、戦前に設けられたものばかりであり、中には先に挙げた時期の建造物に指令所や弾薬庫・兵舎などへと活用いた。
「やっと着いたな。さて、これからが大変だぞ」
体を伸ばしている大尉をよそに二人は、始めてきたウィーンの街を一望しながら、給仕係に書きこんでもらった観光地図を見て、目的の場所を確認していた。
「大尉。ここから目的地まではタクシーで一時間ほどかかるそうです。ここらへんで拾っていきましょう」
全国指導員がそう言って、後ろの大尉にも探すように声をかける。
ウィーンの市街は細い小道も多くあり、主要交通となりつつある市営バスは、町の外周を回っており、多くがタクシーか市内に6件あるレンタカーショップで車を借りるかが主な移動手段となってる。
その6件あるレンタカー屋の一つ「ダイムラーシェアショップ」が中央駅前に看板を上げており、軒先には古びたダイムラーベンツが何台もさび付いたナンバープレートを掲げながら並んでいた。
「車ならそこにあるぞ」
大尉がダイムラー車指を差しながら他2人に示す。
「だれが運転するんですか?」
大尉も含めてここにいる全員が運転免許を取っておらず、しかもこの街の道を全然理解していないのだった。
「うーん、あー。そうだな」
大尉がそう言って、その場から離れて、二人とともにタクシー乗り場を探し始める。
三人が、何とかタクシー乗り場を見つけて、一応の目的地であるウィーンの行政管理施設である「ウィーン総統府」と呼ばれる施設に向っていった。
ウィーン総統府。西方電撃戦終了後の休戦期に「中央都市管理運営計画」に基づき設立した施設であり、ベルリン以外の主要都市の管理を一任されている施設であった。
オーストリアには、こウィーンとドイツとイタリア、スイスに近い都市インスブルックの二か所に設けられ、東西に分かれて近隣都市への歯車として動いていた。
三人がウィーン総統府の建物に到着すると、一人のSS将校が彼らの前に歩いてくる。
「失礼します。私はSSウィーン管理局のジュンタースと申します」
ジュンタースと称する男は、三人に向かって自身の身分書を見せながら自己紹介すると、それをしまいながら質問を振ってくる。
「本日は、当局に一体何のご用件でお越しになったのでしょうか?」
ジュンタースがそう尋ねるとともに、周囲より感じる視線をよりきつく感じ取る事が出来た。どうやら周囲にいる人間も関係者の用であり、私たちのことをいたく”歓迎”しているようであった。
「我々は、ただの招待された客ですよ。私、『ドイチェランド』という新聞社で記者をしている者でして」
記者は、そう言って彼に自身の名刺を手渡すと、ジュンタースは一瞥してから彼の後ろにいる二人を見た。
「後ろの人間も連れかい?一人はどう見ても軍人に見えるがね」
「元国防軍の兵士だったんですよ。戦時将校とかでして、今は予備役だからお手伝いいただいているんですよ」
記者の口から出た嘘に、軽くジュンタースから警戒の視線を感じると、大尉は笑みを作りながら軽く会釈して答えようとした。
「ふーん。まぁそれでしたら、問題ありませんが。一応護身用の者などお持ちなら私どもにお預けください」
ジュンタースの言葉に応じるかのように周辺にいとりまき達から数人が、三人の持っているものを預かるように抜き去っていった。
「くれぐれも、問題を起こさないでくださいよ」
ジュンタースがローマ式敬礼で彼らを見送ると、三人はウィーン総統府の中へと入っていく。
総統府の施設は、元ハプスブルク家一門関係者の首都邸であり、多くの美術的彫刻や値段の付け難い絵画が掲げられており、さしずめ美術館のようであった。
全国指導員は、あっけにとられながらも正面に座る受付に近づいていく。
「すいません。こちらにいらっしゃるヴィルヘルム・クーベ閣下にお取次ぎをお願いしたいのです。ベルリンより来たものでして」
彼女の言葉に受付は、いぶかしく見た後に電話を繫いだ。
「ベルリンよりのお客様ですが・・・・はい・・・・はい、確認します・・・・装備の方はジュンタース殿が回収していると・・・・はい・・・・承知しました、確認します」
しばらくの通話の後、受付が立ち上がり全国指導員そばに来る。
「命令書を拝見」
短いながらも、彼女の来た理由素早く理解する言葉で受付が言うと、彼女はカバンから「総統命令書000」を手渡す。
「では、しばらく掛けてお待ちください」
受付は、そう言って上の階に上がっていく。
しばらく時間の空いた三人は、多少緊張した面持ちで、客席に座りながら、口安めのブラックコーヒーを口に含んでいた。
「砂糖も茶菓子もなく黒コーヒーだけとは、私ら招かれてませんね」
記者は、そう言いながらもコーヒーを一番早く飲み切り、お代わりを要求していた。
「ベルリンよりのお客人とはあなた達かな?」
そう言って三人へと声をかけてきたのは、思っていた老人ではなく、30代くらいの小柄な男性であった。
しっかりとノリで固められた七三の髪型は、まるで彼の性格を示しているようであり、髪色も黒くナチスドイツが提唱する「偉大なるアーリア人」に該当するような人物でないことはわかる。
「ええ。あなたが」
「いえ。私は、ルセフ・ヒュルールと申します」
ルセフが自身の名を話すとともに、彼は三人のへ手で行き先を示してくれる。
彼が案内した先に向かうと、かつてハプスブルク家の象徴である「王冠を被る獅子」とそこに重ねるように塗られたハーケンクロイツを掲げる鷲の肖像が刻印されていた。
「クーベ総統管区長閣下。お客様をお連れしました」
その声を聴いて、アドルフ・ヒトラーの肖像画から、目こちらに向けた。
「よく来られましたな、ベルリンからの使者よ。では、お話を聞きましょう」
いったい彼は、何を知っているのか?帝国を揺るがす一大事件が、きしむ音を立てて蓋を開けようとしていた。
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