1-11「磔の男」作戦
1958年 ドイツ第三帝国 ウィーン
ドナウ川流域にある二つの中州である「ドナウ島」と「フリードリッツドルフ」を貫くように伸びる国道8号線であり、そこにまたがっている橋こそ「ライヒス橋」である。
ウィーンの行政区側には、一台のSd.Kfz.222と数人の親衛隊員が橋梁の入り口を見張っていた。
そこに歩いていく一人の浮浪者がいた。
「ん?何をしているんだお前」
親衛隊員が訝しみながら、その浮浪者を追い払おうと近づきながら払うような手を振る。
空いた装甲車に向かい大尉やアルバンがゆっくりと扉を開ける。
「誰だ、おまえら!」
装甲車に乗る乗員二人は、声を上げようとした途端、ルガーP08にて頭をザクロのようにはじけ飛ばした。
発砲音を聞いた親衛隊員は、慌てて後ろの装甲車にライフルを構えると、背後から襲って来た衝撃でのけぞる様に倒れる。
「よし!第一段階終了だ。死体を降ろせ」
大尉は、そう言って装甲車の死体を堤防の隅っこに降ろした後、後ろから来るオルぺ・ブリッツを持ってくると、そのまま先導して橋を横断する。
「本当にうまくいくなんてね」
作戦の内容は、橋展開している装甲車を拿捕すると、それを先導車として後方から幌付きのトラックにて隠れながら箸を突破して、その後に主要道に破壊した装甲車を置き道を塞ぐこと同時にアルバン達がトラックを使って攪乱行動を行い、敵の目を避けさせる手筈となっている。
装甲車には大尉と運転できるアルバンの部下が乗っており、後方のトラックには残り3人とアルバンと部下4人が乗っている。
「十分注意しろよ」
「あんたは、これを着たらどうだ。少しでも隠せる」
大尉は、運転手から死体が来ていた親衛隊の上着と帽子を手渡される。
「そうだな。だが、着るならばもう少し血しぶきの無いように殺しときゃよかったな」
大尉は無神経な事を言いながら、上着に袖を通して髑髏がかたどられた帽子をかぶる。
ルセフらの車列は、特に警戒されることものなく一つ目の中継点である「ドナウ島」のバリケードに到着する。
「とまれ!どこに行く部隊だ」
「現地の者よりフリードリッツドルフにある飛行場があると報告があったのでそこの警備に向かう者だ。後ろのブリッツは弾薬など積んでいる」
大尉がそのように説明していると、数人がトラックへと向かって後ろを確認すると、手を挙げてOKを示す。
「そうでしたか。お疲れ様です」
警備兵が、バリケードを開けて道を通してくれる。
「ありがとう」
大尉たちはそのように走っていく。
「第二喚問も突破したな」
「後は、フリードリッツドルフの検問所を超えるだけだな。そこを超えれば何とかなる」
そのような話をしていた途端、風を切るような推進音が大尉の横を通り抜ける。
「!」
大尉が後ろを振り向くと同時にトラックの少し後ろにて爆発による衝撃風が起こり、大尉たちに襲い掛かる。
「気付かれたか!」
「ばかな!完璧に化けてたはずだぞ」
大尉と運転手が慌てた様子でしゃべっていると無線から全国指導員が状況を確認するように声を荒げる。
〔一体どうなっているの!さっきの爆発は一体何なのよ〕
「わからんが、おそらく橋梁防衛している隊からの砲撃だろう」
そう言いながら大尉が双眼鏡を手に取り橋向を確認する。
「クソッタレが!誘われたか」
双眼鏡の向こうを確認した大尉が呟きながら、足にて前進するように運転手へと伝える。
運転手も理解したのかジグザグ走行をしつつそのまま前進する。
そこに居たのは、さっきいた腕の長い親衛隊員がLG40(75㎜軽無反動砲)にてこちらを狙う姿であった。
「ここまで来て、引き下がれるかよ」
大尉がそう言って車両装備の2cmFlaK30の球を装填すると照準を合わせる。
20㎜の重厚感がありながらも勢いのいい連射音が唸りを上げるとともに射線上に伸びるオレンジ色の閃光が無数に降り注ぐ矢のように腕の長い親衛隊員の体を引き千切りながら貫いていく。
そのうちの一発が置いてあった弾薬箱をぶち抜いたのか、次の瞬間には煉獄の炎を巻き上げながら噴煙が周囲に広がる。
「よし!」
大尉が歓声を上げるとともに爆発風により破片が装甲をコツコツと叩く音が響いていく。
「だが、これでバリケードを強行突破しなければならなくなったな」
運転手はそう言って、無線機に向かって状況を説明する。
「こちら先導車。敵がこちらの正体を気付いたので、これより強行突破を行う。ブリッツ組は、しっかりついてきつつ自衛射撃を行う事」
〔ばれたってどういう事よ。今の爆発ってもしかして・・・・すまない。こちらも了解した〕
暫くすると爆発音に動揺している「フリードリッツドルフ」のバリケードが、見えてくる。
「混乱しているみたいだな。このまま突っ切るぞ」
大尉は、そう言って20㎜を溜まっている兵士の方向へぶっ放す。
親衛隊員もパンツァーファウストやMP44を持って何とか抑え込もうとしてくる。
バリケードを突破すると共に後ろのトラックからも小火器や手りゅう弾にて攻撃し、さらなる攪乱を行っていく。
その光景を橋梁の反対側では、一人の男が双眼鏡を片手に反対の手でサンドイッチを口に運んでいた。
「総統後見様。橋梁守備隊より報告」
後方にあるADGZより、一人の将校が駆け寄ってくる。
「突破されたようだな。まぁ、想定の範囲内だよ」
総統後見と呼ばれる男は、近くにいた親衛隊員に手を挙げて示すと、その親衛隊員が首に下げた笛を奏でる。
その音を聞いたのか、堤防にいた腕長達がそのまま対岸へと向かっていく。
「このまま奴らを始末できれば何の苦労もないがな」
「は?」
総統後見の言葉を疑問に思った親衛隊将校に、彼は咳払いをしてごまかす。
「ところで、ヴィルヘルム閣下たちの身柄はどうなった?」
「申し訳ございません。現地配属の者たちと私兵により身柄を奪還され、現在行方を追っているところであります」
報告を聞いた総統後見は、近くにある皿にサンドイッチを置いて口を拭う。
「まったく情けない奴らだな。仮にも親衛隊員であろうに」
親衛隊将校は、その言葉に恐怖心を覚えたのか、緊張した表情を浮かべる。
「まぁ、無理しても仕方ない。彼の身柄を確保できればそれでいいのだ。頑張って挽回してくれ」
総統後見が彼の肩を叩きながら励ますも、すごい寒気を感じた彼は、すぐさまADGZに駆け寄ってさらに厳しく命じる。
「ここでの作戦は、これまでのようだな」
総統後見の狙いとはいったい?ルセフたちは、無事脱出できるのか?
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