12 ゲームオーバーは許さない

 日が傾き、月が顔を出した頃。

 リリキルスが草原で星空を眺めていると、通知音と共にギルドチャットが開かれる。



Guild Chat

[18:31]AltaiR >Re:LiLikiLLs.

[18:31]AltaiR >やらないという選択肢はありませんね!

[18:33]織神桜 >うわ、ギルマスがやる気だ。

[18:34]†漆黒の騎士† >そんな面白そうなもん 当然やるだろ

[18:34]Sonia Nosta >私も微力ながらサポートします……!

[18:35]織神桜 >アプデ前のイベントだもんね~

[18:35]Sonia Nosta >たのしみです!

[18:36]AltaiR >フフフ、双星の名を刻む時が来ました。

[18:36]†漆黒の騎士† >アルタイルが中二病みてーになってる

[18:36]織神桜 >あんたがそれを言うのか漆黒の騎士

[18:36]AltaiR >スバくんにだけは言われたくないです。

[18:38]†漆黒の騎士† >泣きそうなんだが?

[18:38]Sonia Nosta >わ、私はかっこいいと思いますよ!



 ギルドメンバー達の会話に、リリキルスは顔を綻ばせる。


「あっはは、みんな思ったよりやる気だ。……良かった」


 ――星の下、丘の上にツインスターズギルドが集結する。

 新人であるリリキルスの一声が、ギルドマスター・アルタイルの大声へ移り変わる。


「八月末、ギルド対抗の大イベントが開催されます。イベントの内容は毎年変わっていて、まだ何を競い合うのかは不明です」


 ――ですが、とアルタイルは続ける。


「我ら双星の冒険者。どんなことにも挑戦し、天に輝くあの星々のように、我らも一層強く輝いてやりましょう!」

「これじゃあエンジョイをガチでやるエンジョイガチ勢だな」


 エンジョイガチ勢という言葉に、なぜ自分はこんなエンジョイパーティーにイベント参加を提案したのか、リリキルスは一人納得する。

 感じていたのだ。アルタイルのプレイスタイルに自分自身と近いものを。


(そうだ。【全剣の覇者オールブレイダー】の獲得条件は刃物系の熟練度MAX……熟練度はそう簡単には上がらない。それこそ、ガチじゃないと……)


 リリキルスの視線に気付いたアルタイルがにっこりと微笑む。


「やってやりましょう。わたし達で」


 アルタイルは剣を掲げ、反転。

 柄頭をリリキルスに向けると、胸の剣とコツンとぶつけた。


「うん……!」


 ――ツインスターズギルド、エントリー。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 しかし、イベントに参加するうえで必要なことは山ほどある。


「後出しジャンケン?」


 リリキルスは首を傾げる。

 後出しジャンケン。アルタイルが言うこのギルドの基本戦術のことだ。


「わたしのエクストラスキルなんですが、実はチャージ時間があるんです。大量の剣を操るためにはその分時間を要する……そして、剣使用中はMPを消費し続けます」


 アルタイルは一本の剣をフワフワと弄びながら言う。

 ボス戦でなかなか動こうとしなかったのはそのためである。

 強力なスキルには当然デメリットが存在し、エクストラスキルであってもそれは例外ではない。

 アルタイルが保有するエクストラ・パッシブスキル【全剣の覇者オールブレイダー】は、と、

 そしてアクティブ枠である【盤上の剣インフィニート・マーノ】は、と、だ。


「そうか。つまりアルタイルの攻撃で敵を一掃は出来るけど、それまでの時間稼ぎが必要で……それにもし耐え切られたら次の手を打つのに時間がかかるってことだね」

「そうです。それを解消できるのがリリさんのようなタンクなのですが」

「うん、タンクではないけどね?」

「リリさんのような盾役ヒーラーなのですが、この戦い方は防戦一方。事実上、攻撃制限を常に抱えています」


 そして何より、アルタイルの攻撃に依存しすぎている戦い方だ。


「アルタイルがチャージ中の攻撃は俺とサクラだけだもんなぁ」

「ノスタは攻撃できないの?」

「で、出来ないこともないんですが、サポーターなので特化はしてないんです。時間もかかりますし……」

「そっか。アタッカー三人にサポーター二人……バランスは悪くないはずなんだけど……」


 リリキルスはうーんと唸る。


(シュバルツは大剣だから攻撃が大振り……サクラは弓だから引く動作が入る……アルタイルはチャージが必要……ノスタはそもそもサポーター……って、そうかこのチームっ!)


 ハッと表情を変えたリリキルスに、アルタイルは意味ありげに微笑む。


「気付きましたか、リリさん」

「あぁうん気付いたよ。気付いちゃったよ。攻撃役三名、もれなくモッサリしてるってことがね」


 モッサリ。それはアクションが鈍いことを意味する。

 後出しジャンケン戦法なうえに全員の予備動作が長いのだ。


「それなら速くしちゃえばいいんだ」


 何か思い付いたリリキルスは検索をかける。


「パッシブスキルに行動短縮とかあるとは思うけど、こういうのって上昇値は微々たるものだし、それじゃあ火力が上がらない。だったら私達のPSを上げればいい」

「ぴーえす? なんだそれ、ゲーム機か?」

「プレイヤースキル。純粋な実力だよ」


 検索にヒットした画像をシュバルツに見せつけながら言った。


「こ、このモンスターって……」


 横から覗いてきたサクラがゴクリと喉を鳴らす。


「シルバーラビットだよ」


 そのモンスターの名を聞いた途端、全員の背すじがゾッとした。


「り、リリキルス……お前、まさかっ!?」

「ふふっ……そのまさかだよシュバルツ。予測出来ないすばしっこさ、そして硬すぎる肉質。倒しても特にアイテムが落ちないくせに、めちゃくちゃ出現率が高くて邪魔ばかりしてくるまさにクソモンスの代表格。この銀兎……みんなでサンドバッグにしよっか!!!」


 それは倒しても特に美味しくない敵。

 だが、だからこそ練習台サンドバッグにちょうどいい。

 すばしっこくて硬い敵を易々と倒せるようになれば、確実にプレイヤースキルが上がっている証拠になるのだから。


 ――その日、クソモンス代表の《シルバーラビット》を必死に倒そうとしてる頭のおかしいパーティーが居ると掲示板に書き込まれたが、リリキルスは鼻で笑ってページを閉じた。

 美しい銀の毛並みをしたクソモンスをしっかりと目で捉える。


「みんなならすぐ戦い方を身に付ける。そうやって笑ってられるのも今のうちだよ」


 その言葉は、自分自身にも向けたものだ。

 リリキルスは笑顔を消し去り、シルバーラビットの群れに石ころを投げて挑発する。


「遅れるな。追い越されるな。私が強くならなきゃ、ゆりねは弱いままだ」


 イベント開始までに対抗策を得なくては、勝ち残ることは出来ない。

 トップ10入りすると決めた。

 11位ではダメだと決めた。


「ゲームオーバーは許さないぞ、リリキルス……!」


 ゆりねは、リリキルスへそう言葉を投げる。

 リリキルスはその言葉を受け止め、銀兎の群れへ突っ込んでいくのだった。

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