07 当たり前だがヒーラーは盾ではない
「さあ、畳み掛けるよ!」
天井に張り付くダンジョンボスの胴体へ、サクラは矢を射る。
バシュンと風を切り、見事に突き刺さった矢はダメージエフェクトと共に消滅。既に二射目の構えを取っていたサクラの弓に再び装填された。
「グロロロォ……!」
唸り声を上げ、今まで以上にヨダレを滴らせてサクラの方へぬらりとした首を伸ばす。
「ナイス! 首が降りればこっちのモンだ! ――【ライト・オブ・セイバー】ッ!」
ヘイトがサクラへ移れば、シュバルツの攻撃がしやすくなる。
【ライト・オブ・セイバー】は光属性の中距離攻撃スキルだ。薙ぎ払うと光の刃を飛ばして攻撃する。
「っお!?」
だが、発動モーションで踏ん張ったシュバルツは足を滑らせた。
光があらぬ方向へすっ飛んでいき、ダンジョンの壁に直撃する。
「しまっ――サクラ!」
「こっちで回避するから! ――って、う、動けない……!?」
アップグルント・フェレライのヨダレで溶けた死体が沼のようになって、サクラは足を取られていた。
直後、体当たりがサクラとサクラのHPを吹っ飛ばす。
(スキルでもなんでもない、ただの体当たりでここまでッ)
死体の上に転がる。起き上がろうとすると、死体と目が合った。
「クオリティー……高すぎなのよ……」
動悸が止まらなかった。
時間の感覚がなくなるような、自分も死体になったのかと錯覚してしまいそうだった。
「このダンジョンのデザイナー、一生恨むわ……」
「同感。さっさとクリアして脱出しよう」
リリキルスはサクラのHPを回復させ、シュバルツが引き付けてくれている首を睨む。
攻撃手段は多くないが、足場が悪くこちらの攻撃がやりづらい。だから、敵の猛攻が止まらない。
これでは隙を作るなど無理だ。
「【ファイア・カノン】ッ!」
シュバルツが天井へ向けて放った光が首に直撃する。
「サクラ、いまアイツ、胴体を守ろうとしたよね?」
「うん、あたしにもそう見えた。弱点は胴体の……あそこ! 首の付け根だ! 人の口みたいなのがある!」
「うへぇ、牙ビッシリの首と違って歯並びがいいのも気味が悪いな……アルタイル! 今の聞こえたー? 攻撃してよー!」
依然、仁王立ちのリーダーへリリキルスは言葉を投げる。
「まだダメです。ですが攻撃モーションは大体分かりました。スバくん、サクラ! 次は体当たりが来ます!」
「「了解!!」」
その数秒後、咆哮したアップグルント・フェレライは本当に体当たりをしてくる。
二本の首が牙を晒して向かってくるが、タイミングが分かるならば、カウンターを合わせられる。
「あとは足場……だが! これがゾンビなら、討伐が出来るってことだよなァ!」
シュバルツの大剣が光り輝く。エンチャント・ホーリーセイバーにによる聖剣化だ。
「ひっさァァつ! 【ライト・オブ・セイバー】ッ!!!」
噴き出す光、ズッシリと重い聖剣を薙ぎ払い、足場の悪いゾンビ床を消し飛ばす。
きらめく消滅エフェクトが舞い上がった瞬間、ダンジョンの石畳を強く踏み付け、サクラが弦を引く。
「【アタック・ブースト】【ツイン・アローシェイプ】――」
スキルで強化。加えて、MPがみるみるうちに減少していく。
チャージショット、MPを消費することでよりダメージを出す弓士の固有能力だ。
「リリキルス! 攻撃阻止するぞ!」
「人使いが荒いなぁ!?」
「だってお前タフだろ? ほら、行ってこい!」
二つの首、うち片方をシュバルツが引き付けてリリキルスに擦り付ける。
「だから私タンクじゃないんだってぇぇぇぇ!!! へぶっ」
攻撃手段なんて殴ることしかできないリリキルスは、迫り来る口から逃げることが出来ずに捕食された。
「体を張って攻撃を止めるとはさすがだ。どうやら俺はお前のことを見くびっていたみたいだな……」
「
「何言ってんのかわっかんねぇ。ウケる」
「
騒がしい二人を横目に、サクラはMPが尽きるギリギリ――もうひとつ、スキルを使えるだけのMPを残す。
「来る……けどまだ、まだ引き付けて……!」
体勢を立て直したアップグルント・フェレライが再びサクラへ突進する。
MPの減少速度は決して遅くない。
シュバルツが押さえてくれるが、タイミングを見誤ればスキルを発動できずにあの気味の悪い口に食われる。
「……っ」
また、死体の顔を思い出してしまった。
HPのすぐ横に覚えのないアイコンが表示される。
状態異常、恐怖。
敵モンスターを前にすると否応なしに恐怖し、スキル成功率が低下する。というものだ。
死への恐怖か、そのおぞましい姿への恐怖か、サクラは震える手で弦を引き続ける。
弓はギリギリと音を立て、引く力加減もあやふやになり始めて、一秒が何十秒にも感じるようになった。
「――っあー! もう! 獲得すんのおっそいんだよ!」
「り、リリちゃん!?」
片首の口から顔を出し、ケホケホと飲み込んでしまった化け物の唾液を吐き出して、リリキルスはサクラへ視線を飛ばす。
「【キュア】!」
それは溶解性の唾液にまみれたおかげで獲得した、状態異常を回復させるアクティブスキルだった。
「ぶちかましてやれぇぇぇぇッ!」
「……! ――――【ヴォーパル・アロー】ッ!!」
刹那、手放した矢は眩いライトエフェクトを纏う。
アクティブスキル【ツイン・アローシェイプ】の効果で矢は二つに分裂し、アップグルント・フェレライの二つ首を穿った。
パラパラと灰化し、エフェクトと共に消えていく双頭。
天井に張り付いた本体の口がグパッと開き、金切り声を上げる。
「――キィシュァァァァァァ!!!」
「ったくうるさいなぁ! ラスト、本体っ!」
「形態変化だ! 落ちてくるぞ!」
不定形なそいつは、歯をガチガチと鳴らして降ってくる。
首の代わりか、体を変形させて触手を幾本も伸ばして暴れていた。
「あとちょっとなのに、これじゃあ隙が無いよ!」
「ここまで来て弱音吐くなよサクラ! 隠しダンジョンだ。こっちもあるもの全部使って打ち倒すッ! そうだろアルタイル!」
触手の鞭を防ぎ、シュバルツはリーダーの言葉を待つ。
「そうですね。ポーション扱いである聖水は使えず、この攻撃の密度では爆弾アイテムを使ったら返されてしまいそうです」
「お、おい、そいつはまさか……」
「はい、お手上げというやつです!」
「んな満面の笑みで言うことかよ!? くっ、こんなことしてる間にもどんどんこっちに這い寄って来やがる……!」
「あたしの弓じゃもう捌ききれないよ!」
鞭を浴びせながら、じりじりと這い寄る大口。
エリア端に追い詰められれば触手から逃げる術はない。
バカみたいな攻撃頻度で、隙を作るなんて無理と豪語したくなってしまう。
それが意味するのは、
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