06 ボス戦は行動制限が付き物です

「――リリちゃん! ……おっ? ――あ、足が!?」


 食われたリリキルスを心配する暇もない。

 口から飛び散ったヨダレが足場となっている死体を溶かし、ドロドロになったことでサクラは足を取られる。

 攻撃をすると同時に拘束したのだ。それがこの捕食者が行う狩りの方法なのだろう。

 動きが鈍った獲物サクラへ、もう一本の首が飛んでくる。


「なにしてんだよ!」


 大剣を盾に、シュバルツがサクラを庇った。だが足りない。

 巨大であるが故に攻撃の重みが他のモンスターとは桁違いなのだ。

 そして、大剣は剣であって盾にはなれない。

 防御力不足で押し負けたシュバルツは、サクラと共に後方へ吹っ飛ばされた。


「うぅ……ごめーん!」

「いってぇ……こりゃ一筋縄ではいかねぇな」


 今の一撃で二人のHPは残り二割――レッドラインまで引き下げられる。


「二人ともポーションで回復でき次第、復帰してください!」

「分かってる! ――あ、あれ? なんだ? 飲めねぇ」

「うそ……ポーションが使えない……!?」


 アイテムポーチから回復ポーションを取り出した瞬間、使用不可のログが表示された。


「なぜ……? いや、こんな死体だらけの場所で飲食をしたいとは思わない……ということですか」


 DoFにおいて、ボスエリア特有の制限だ。ゲーム難易度を上げるため、プレイヤーにはなんらかの行動制限が科せられる。

 アップグルント・フェレライが巣くう《深淵口》は使


「――ですが、やはりなんとかなりそうですね」


 危機的状況でも、アルタイルはゲーマー魂を滾らせる。

 使えないのはポーションだ。当然、そこに回復スキルは含まれない。


「【ヒール】ッ!」


 ヌメヌメした口から顔を出したリリキルスは回復スキルを発動する。

 自身を含め四人分を一気に回復させたおかげでMPがかなり持っていかれるが、自然回復を待てばMP回復ポーションを必要としない。

 だが、依然としてリリキルスはボスモンスターに食われたままだ。

 回復したHPは再び減少を始める。


「くっ……牙が食い込んでる、持続ダメージか! ちょっと、私ヒーラーなんですけど! 攻撃手段なんてないんだからさっさと復帰してよね!」

「吹っ飛ばされた俺達がレッドラインなのにお前半分も減ってねぇじゃん。やっぱタンクだろ」

「いいから助けてよ! ここ気持ち悪いんだよ! うひゃっ、ぬるぬるするぅぅ!」

「へいへい。サクラ、合わせるぞ」

「はいよー!」


 刹那、【ブレイズ・アロー】と【ファイア・カノン】の光が首を貫く。

 首は燃えカスとなって死体の上に降りかかった。


「ぷはっ、うへぇ……これ回復しても取れないよね……」

「まだHP減ってるね。もしかして状態異常かな?」

「まぁいいよ、危なくなったら回復するし。それよりも」


 二つ首となった捕食者を見上げる。

 怒っているのか、耳障りな絶叫で辺りにヨダレを撒き散らして第二形態へと移行していた。


「どうやら首を落とせば良いみたいだ」

「ということは、引き付けてズドンね! アウェイアンドヒット!」

「なるほどな。じゃあ囮役頼むぞリリキルス」

「お願いねリリちゃん!」

「わたしからもお願いしますね」


 シュバルツは重装備。サクラは遠距離射撃で囮には向かない。

 直撃しても無事でいられるのはリリキルスだけなので当然と言えば当然だ。


「いや、そこの傍観者リーダー様は?」

「わたしは指揮官ですので」


 アルタイルは立てた人差し指を唇に当て、小悪魔のように微笑んだ。


「何しようっての……?」

「言った通り、隙を見て一気にぶちかまします。なので隙を作ってください」

「まったく。ヒーラーを囮に使うとかどんなロールプレイだよ……」

「でもリリさんにしか務まらないですよ?」


 一瞬、頬が熱くなるのを感じたリリキルスは顔をぷいっと背ける。


「……仕方な――あっぶな、流されるところだった。まぁやるしかないからやるけどさぁ!」


 頼られるのは悪い気はしなかった。

 だがそれはそれとして安全圏には居たかった。


「頑張ってくださいね!」

「くっ、他人事みたいに……! やってやんよ! ヒーラー舐めんなよ!」


 受けたダメージは、MPが許す限り回復するまで。

 リリキルスは覚悟を決める。

 無論、ガメオベラなどする気はないが。

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