05 アップグルント・フェレライ
パーティーリーダー……アルタイル。
メインアタッカー……シュバルツ。
サブアタッカー……サクラ。
タンク&ヒーラー……リリキルス。
以上四名――――最下層到達。ボス部屋前。
これまでの空気が一変するような、バーチャルなのに威圧感すら感じる重厚な扉を前にする。
リリキルスは扉を見上げる。大きな両開きの扉は巨大な口に無数の人が群がっているような不気味な装飾が施されているが、それが意味するものを推察する前にアルタイルが口を開いた。
「……では、改めて役割を明確にしていきましょう」
パーティーリーダーであるアルタイルは荷物を下ろす。
「スバくんは前衛で」
「シュバルツだ」
「スバルツは前衛で、リリさんの回復を受けれる範囲に留まりながら攻撃。サクラはいつも通り援護と、ボスの行動観察。わたしは弱点箇所が分かり次第、隙を見て集中攻撃します。リリさんはみんなの回復と、出来れば盾になってもらいたいです」
食い気味に訂正したシュバルツだったが、抵抗は虚しかった。
「盾って。HP高いだけで防御力はそんなにないんだからね? ……ところでダンジョンボスってどんな奴なの?」
「隠しダンジョンなので情報はありません。アンデッドであることは間違いないと思うのですが……まぁなんとかなるでしょう」
「随分楽観してるね」
「このパーティーなら負ける気がしませんので」
楽しそうに微笑むアルタイル。
シュバルツも、サクラも、そんなリーダーに釣られてニヤリと笑みを浮かべた。
「なら、期待にお答えしないとね」
「えぇ、期待していますよリリさん。――それではみんな! ゲームを始めましょうか!」
そうして、アルタイルは扉を押し開いた。
◆◇◇地下墳墓ダンジョン・
腹を空かせた獣が唸るかのように扉が閉じる。
閉じ切っても灯りがつかず、四人は暗闇と静寂に包まれた。
「……出て、来ないな」
「暗すぎますね。ガンマ値を上げるべきでしょうか」
「なんか、足場悪いわね……」
「私は暗視あるからそこそこ見えるよ。とりあえず中心まで行ってみようか、付いて来て」
声が響いていた。かなり広いことは明確だろう。
だがそれは敵も巨大であるということ。
より一層気を引き締めつつ、部屋の中心部へ向かってじりじりと擦り寄るように進んでいく。
「あっ……」
「――――ッ! 全員回避だ!」
リリキルスが天井を見上げるのとシュバルツが叫んだのはほぼ同時だった。
同時に、天井の存在に気付いた。
「グルゥアアァァーー!」
グパッと開いた口が降ってくる。
呻き声と共に落ちてきたそれはズシンと床を強打し、涎を撒き散らした。
その涎に当たって多少HPが削れたが、全員無事だ。
「初見殺し……! さすが隠しダンジョン、容赦ないね」
――部屋の松明が一斉に灯る。
真っ青な火が、「さあ、ご覧ください」とでも言うかのように主の姿を照らし、揺らめいた。
べったりと天井に張り付いた肉塊から、黒くぬらりとした皮膚の長い首、あるいは極太の触手が三本、床に向けて垂れ下がっている。
それぞれの首に目はなく、口だけがあり、喉の奥までビッシリと生えた無数の牙で歯ぎしりでもしているのか、ガチガチと奇怪な音を発していた。
「何よあれ……! キモっ……ミミズ?」
「サクラ、あれはワームですよ」
「いやヘビだろ」
「どっちでもいいよ! 【ヒール】!」
先刻の初見殺しは、天井に居座るあの異形モンスターが長い首を床に叩き付けたのだろう。
回避出来たのは良かったが、本当の戦いはこれからだ。
(三つ首ワームに噛まれたらヤバそうか――)
リリキルスが思考を巡らせていると、敵は再び天井から三つの首を伸ばし、床に散らばった
攻撃、というわけではないようだ。
「天井たっかいなぁ……攻撃届きそう?」
「ふむ……天井に張り付いてる肉の塊が弱点部位でしょうね。三つ首をどうにかすれば落ちてきそうですが」
「どーにかって、どーすんだよ……」
「ちょちょ、ねぇみんな! 下っ! したしたぁ!」
サクラの悲鳴で三人は釣られて足元に視線を移す。
「わぁ、リリさんのお仲間がたくさん……どうやら死肉をエサにしているようですね」
床一面がゾンビだらけ。死の
動く気配はなさそうだが、足場が悪いうえに酷い死臭だ。
「私、こんなに臭くない」
「……あ、ほら気を抜かないで。来ますよ」
「ちょ、今の間なに!? ねぇ!? おいコラちょっとこっち来なよ、臭くないよね? 嗅ぎなって」
「リリキルス! 上だ!」
「あーもう! 下だの上だのうっさ――――」
ドシャ――と、リリキルスは上から降ってきた捕食者に食われてしまった。
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