08 レアドロップには気を付けろ
「ここまでかよ……くそっ」
意気消沈したシュバルツは刃を地に向ける。
あとはもう、ゲームオーバーを待つだけ……。
――だが、それは
「あるものは全部使うって! こういうことでしょぉよぉーっ!!!」
このパーティーのイレギュラー。
新参者であり、もっともレベルが低く、HPが高いだけのヒーラー。
リリキルスがアイテムポーチを開放する。
「「――ゾンビ……肉っ!?」」
サクラとシュバルツは宙を舞う腐った肉に唖然とした。
それは、この地下墳墓ダンジョンの全宝箱に入っていたゾンビ肉。その数、99――ストック限界数。
なぜ隠しダンジョンの宝箱がこんなにもシケてるのか、リリキルスはずっと疑問に思っていた。
その答えが、ダンジョンボス対策の必須アイテムだ。
ぶちまけられた無数のゾンビ肉がアップグルント・フェレライの食欲を掻き立てる。
「ギュるァァあァ!!!」
落ちてくるゾンビ肉を喰らおうと、大口をめいっぱいに開く。
「触手の動きが止まった……! リリちゃんすごい!」
サクラは唖然としていた表情をぱーっと明るくさせる。
肉に目がないアップグルント・フェレライは、攻撃の手を止めて降ってくる肉を貪り食っていた。
「――そうです、あるものは全て使う! それがわたし達……ツインスターズギルドのモットーです!」
アルタイルのバックパックが弾けるようにしてライトエフェクトと共に消滅する。
――溢れ出たのは
細剣、刀、ナイフからアックスまで。多種多様の刃が地面に突き刺さった。
中にはシュバルツの大剣も。
「【
MPが大量消費され、アルタイルは不敵な笑みと共にスキル名を叫ぶ。
すると突き刺さっていた剣が全て、誰かが握りしめたかのように浮き上がると、その刃はアップグルント・フェレライの大口へ向けられた。
「全剣、一斉掃射です!」
その号令が下された直後、全ての剣が死肉の代わりにアップグルント・フェレライの口へ。
止まない斬撃エフェクトが残りのHPをゴリゴリと削り、ヒット数が爆発的に増加していく。
刻まれた漆黒の肉塊はもはや跡形もなく、かろうじて残った肉片も形があるのは数秒ぽっちだった。
消滅していくアップグルント・フェレライから、アルタイルの剣が帰ってくる。
「毎度思うが、俺の剣も使われちゃうのやめらんね?」
アルタイルに使われ、戻ってきた自身の大剣を回収したシュバルツが不貞腐れながら言う。
「いやぁ、このスキル、エリア内の刃を持つものは全部操作出来ちゃうので……一本だけ使わないようにするほどわたしのプレイヤースキルは高くないですし」
「あたしは弓だし別にいいけど……いつ見てもバカみたいな火力。いや、数の暴力ね……」
記録は244hit――瞬間コンボ数では間違いなくナンバーワンだろう。
「いやそれほどでも……ん? あの剣、わたしのじゃありませんね」
「え?! もしかしてレアドロ!? ちょ、私が貰っていいよね! まだ武器持ってないんだし! どこ!?」
「上です。ほら、宙に浮いて……あ、落ちてきた」
「おおぉぉぉ私の武器ぃぃぃぃ!!!」
アップグルント・フェレライからレアドロップした剣を受け止めるべく、リリキルスはホームランボールを追いかけるかの如く全速力で剣の落下ポイントへ向かう。
「これでようやく攻撃手段が……!」
「お? リザルト画面が……なになに、レアドロップ――――」
アルタイルの前に現れた成績表には、討伐経過時間とドロップアイテム一覧が表示される。
アップグルント・フェレライの素材と、レアドロップには確かに剣があった。
「
「「えっ?」」
「は……?」
アルタイルが読み上げたレアドロ剣の説明に、リリキルスはぽかんと口を開いた。
武器欄に装備出来るが、武器として使えない。ダブル防具化とかいう攻撃もクソもない剣――と、アルタイルは言ったのだ。
――――ザクッ。
気付いた時には、リリキルスはその胸に死剣を抱いていた。
ずっぷりと、奥深くまで刺さる。
体を貫いた刃は、腰から尻尾が生えたかのように突き出ていた。
「《死剣エンドフィリア》を装備しました。呪いの効果が発動します」
胸に刺さったことを
「プレイヤー《LiLikiLLss》の種族がアンデッドに変更されました。《死剣エンドフィリア》の付属エクストラスキル【
「え、あの」
「STRがゼロになりました。DEFがゼロになりました。HPに補正、HP回復量が上昇しました。回復速度が倍加しました」
「は? ゼロ? いや待って装備解除、いやパッシブ解除っ!」
「《死剣エンドフィリア》の呪縛効果により付属パッシブスキルの【肆屍】は外すことができません」
「…………はっ?」
視線を落とし、胸に突き刺さった剣を睨む。
静まり返るボス部屋。
レアドロップを入手した歓声はなく、アルタイル達は苦笑いする。
一瞬の静寂を破ったのは、リリキルス自身だった。
「どこをどう見たら装備したように見えるんだよ!!!」
嘆くリリキルスは後に、こんな言葉を胸の剣と共に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます