第45話 友達とは
学校で過ごしていく中で、少しずつクラスメイトとの関係も作れていると思う。特に仲がいいのは明陽さんと遠野さんだが、他にも親しい相手はいる。
とはいえ、昼に弁当を食べる相手は2人だけだし、同じ部活の相手も少ない。というか、文芸部にはいない。
生徒会は、俺以外の一年生はいない。それもあって、クラスメイトとの関係は、ほとんど授業での関わりだな。
例えば英語の授業でお互いの発音を確認したり、数学の授業で分からないところを質問したり。そんな感じだ。
今のところ、ケンカになった経験はなくて、うまく行っているとは思う。とはいえ、友達とまで言えるのかは分からない。
明陽さんと遠野さんは、胸を張って友達だと言えるのだが。それ以外の人間とは、どうだろうか。まあ、時間はたくさんある。里緒奈会長とは違う。だから、急がなくてもいいはずだ。
それでも、友達を増やしたいという感情もある。とはいえ、明陽さんと遠野さんがいるからな。それ以上を求めるのも、贅沢な話ではあるか。
ハッキリ言って、2人とも最高だからな。これから先も、ずっと仲良くしていきたい相手だ。遠くない内に、家に誘いたいと思う程度には。
できれば、里緒奈会長も、別の機会に誘いたいものだな。明陽さんと遠野さんは、お互いに仲良くしているから、一緒に誘っても大丈夫なのだろうが。
とはいえ、今すぐは無理だな。家族にだって準備はあるのだろうから、許可を取るくらいのことは必要なはずだ。流石に、急に友達を連れてきたなんて言えない。
悩ましい問題だ。そもそも、許可が出るのだろうか。家族は優しいのは間違いないが、俺の友達とは何の接点もないからな。
知らない人を家に入れるハードルがどの程度なのか、俺は知らない。だからこそ、確認はしっかりとしないと。
そんな事を考えている内に、授業が終わった。次の授業まで、まだ時間があるな。
「赤坂君。次の授業、予習は終わってるかな? 実は昨日、サボっちゃって。良ければ、見せてほしいな」
よくある定番の会話ってイメージだ。そんな話をできるんだから、友達だと言っても良いだろうか。普段は俺が助けてもらっている優しい人だから、気に入ってはいる。
席が隣同士なこともあって、分からない所を質問することもあるからな。それで、答えてくれる。個人的には、勉強ができる印象の人だな。同時に、おとなしい感じでもある。
だから、見せたところで、大きな問題にはならないはずだ。雑に勉強をする人じゃないだろうからな。
「もちろん良いぞ、
「ありがとう! 今日は当てられそうだから、困っていたんだ」
「それなのに、サボったのか? 思っていたより、真面目じゃないんだな」
「あはは、否定はできないね。私、勉強は好きだけど、予習はめんどくさいんだ」
ああ、分かる気がする。自主的に勉強している分には楽しくても、義務になると嫌になるやつだ。それは、仕方ないかもな。
まあ、毎回見せてくれって言われたら、注意くらいはするかもしれないが。親しい人だからこそ、ちゃんと対応したい。
本音としては、親しくない相手の成績なんて、どうでもいい。ただ、柊さんは少しだけ心配だ。世話になっている相手だし。
「気持ちは分かるが、あまりサボりすぎないでくれよ」
「毎回見せるの、大変だもんね。私だって、分かってるつもりだよ」
「そうじゃなくて、成績が落ちたら大変だからな。間違っても、留年してほしくないんだ。離れ離れは、寂しいじゃないか」
最後の方に、少しだけ気持ちを込める。ガチ恋チキンレース的にも、悪くないんじゃないだろうか。まあ、今のところは、優先順位の低い相手ではあるが。
誰彼かまわず好意を稼ごうとすれば、印象が悪いだろうからな。そのあたりの基準は、ハッキリさせておきたい。
とはいえ、心配なのも本音で、留年してほしくないのも本音だ。一緒に卒業したい相手だと思っている。
「心配してくれて、ありがとう。赤坂君のためにも、気をつけるよ。寂しがらせたくは無いからね」
「じゃあ、ノートを貸すから。でも、間違っているかもしれないぞ」
「大丈夫。そこら辺は、どうにかするよ」
それなら、俺の手を借りなくても問題ないのでは? いや、気のせいか。全く手つかずなのと、手がかりがあるのとでは、全然違うだろうからな。
柊さんは、真剣な顔でノートを見ていく。授業で出るだろう問題を解いているものではあるが、自信はないんだよな。数学は、まだ三上先生に頼っているし。
とはいえ、それでも柊さんの役に立てるのなら、悪くない気分だ。友達の力になれるのは、嬉しいものだ。友達で、良いんだよな?
恋人になるには告白が必要という認識はあるが、友達は自然に移り変わるもののはず。だから、ノートを見せるような関係なら、友達のはずだ。そう信じたい。
まさか、本人に直接、俺達が友達かどうかなんて聞けないし。柊さんがどちらだと思っていても、お互いに不幸になりそうだ。世間知らずだと言って、ごまかせる可能性もあるか?
こういう時には、俺の常識の無さに困ってしまう。やはり、俺は周囲に助けられているのだな。改めて実感した。
柊さんはしばらくノートを眺めた後、こちらに返してくる。
「ありがとう。ところで、(2)では、平方完成を間違えているんじゃないかな」
そう言われて確認してみると、確かに計算を間違えていた。これでは、その後の問題にも影響が出てしまう。大変なミスだ。
というか、柊さんは、ほんの少し眺めただけで間違いに気づいた。もしかして、すごく計算が早いのだろうか。
彼女が勉強が得意なことは、知っていたつもりだったが。これは、想像以上に優秀なのかもしれないな。
もしかしたら、普段の授業は退屈だったりするのだろうか。だから、俺に話しかけてくるとか? すごく助けられているから、理由は何でも良いか。
それから、三上先生がやってきて、授業が始まる。その最中に、実際に柊さんが当てられる場面があった。
「柊、この問題の答えは何だ? 過程も含めて、説明してみろ」
「まずは、2乗の部分の係数が負の数なので、グラフは逆向きになります。それから平方完成をすると、頂点が導き出せます。頂点が軸より上なので、解は2つですね。後は因数分解をすれば、解が導き出せます」
スムーズな説明で、ちゃんと理解しているのがよく分かる。俺のノートを軽く見ただけで、ここまで説明ができるなんてな。
やはり、柊さんは頼りになる。これから先も、仲良くしていきたい相手だな。
説明を終えた柊さんは、こちらにウインクをしてくる。感謝の証だろう。さっきは悩んでいたが、絶対に友達だと思って良いはずだ。
それからは順調に授業が進んで、数学の時間は終わった。
「赤坂君、ありがとう。おかげで、当てられても答えられたよ」
「気にするな。友達だろ?」
「うん、そうだね。赤坂君が困った時は、私が助けてあげるね」
やはり、友達は良いものだ。そう確認できただけでも、一連のやり取りに価値はあったな。これから先も、仲良くしていきたいものだ。
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