第14話 入学に向けて
警護官の藤崎さんとは、きっと仲良くできると思う。だから、安心して登下校の護衛を任せられるはずだ。あの人は、とても優しい人だと思っているからな。
まあ、そのためには高校に受からなければならないのだが。私立の、愛坂学園。自由な校風だというが、どんなものだろうか。
母さんが選ぶくらいだから、問題のない範囲の自由なのだと思うが。というか、校則がゆるい学校は偏差値が高いと聞いたことがある。俺の学力で、大丈夫だろうか。
とはいえ、面接だけを受ければいいと聞いている。俺としては、勉強も頑張っていきたいところだが。前世では、授業を受けた経験すら無いからな。
ただ、誰に教わったら良いものか。独学でなんとかなるのだろうか。そもそも、受からないことには話が進まないのだが。
まずは、目の前の面接だな。今日の昼、学校の方で実施してくれるらしい。俺が受かったら担任になる予定の人と話をするのだとか。
母さんと藤崎さんが着いてきて、2人と一緒に話していくそうだ。親のフォローなんて受けていても良いのかって気がしてしまうな。
とりあえず、その2人と面談について相談している。
「何か、話す上で意識したほうが良いことはあるのか? ハキハキ話すとか、回答の方向性とか」
「基本的には、最低限の会話ができるだけで大丈夫よ。よほどの問題がない限り、受かるって話だから」
「同感。とばりなら、普通に話しているだけで合格すると思う。強いて言うなら、好意的に話しすぎない方が良い」
というと、距離を取るとか? イマイチ理由が分からないな。とはいえ、藤崎さんの言葉なら、信じていいと思う。それなら、事務的な感じで話をしていけば良いのだろうか。
なんとなく、どうせなら親しくなりたい気がするのだが。ああ、理由が分かった気がする。まだ入学するかも決まっていないのに、親しくしすぎても意味ないよな。
それなら、学校に入ったらやりたいことを話すのが良いだろうか。流石にガチ恋チキンレースとは言えないから、みんなとの交流くらいに取りつくろっておいて。
「分かった。まあ、不合格なら二度と合わない相手だからな」
「それだけじゃないけど、まあ良い。いざとなったら、私が守る」
「藤崎さんは、とばり君をしっかり守ってくれそうでありがたいわ。あなたを選んで正解だったわね」
「俺も、そう思うよ。藤崎さんが俺の警護官で良かった」
「ありがとう、2人とも。私の仕事は、しっかりと果たす」
そんな話をしながら、予定までの時間を潰していた。昼食は百合子さんの作ってくれたものを食べて、腹が落ち着いてきた頃に、愛坂学園へと向かう。
結構広い感じの校舎で、女の人がいっぱい居た。とはいえ、授業中みたいで、こちらには注目されない。何人かが手を振ってきたりはしていたが。
この人たちとは、同級生にはならないんだよな。もしかしたら、卒業しているのかもしれない。とはいえ、手を振り返すくらいはしておいた。
なんとなく、盛り上がっているような気がする。楽しい授業なのだろうな。やっぱり、この学校に入りたいものだ。雰囲気がいいから、きっと楽しめるだろう。授業についていけるかは不安だが。
俺は前世で、ろくに勉強ができなかったからな。というか、ベッドの上で横になっているだけの人生だった。そこから、高校のカリキュラムまで引き上げられるだろうか。
一応、四則演算くらいは問題なくできるのだが、流石に足りないよな。急に不安になってきたぞ。本を読んでいただけの知識で、どうにかなるはずはないよな。
とはいえ、俺の感情なんて関係なく状況は進んでいく。個室にたどり着くと、キリッとした雰囲気の女の人がいた。黒髪をポニーテールにまとめている、スーツ姿の人だ。なんというか、かっこいい感じだな。
おそらくは、この人が試験官なのだろう。俺は気を引き締めていく。席につくのを促され、座っていくと、相手の方から話し始めてきた。
「赤坂とばり君、だな。私は、この学校で教師をしている、
「よろしくお願いします。合格できるかは分かりませんが、入学したら頼りにさせてもらいます」
「ふむ、お母様の方は、とばり君を入学させることに、不満はないですか?」
「もちろんです。頼りになる警護官がいますし、何より本人が望んだことなので」
俺としては、前世で無理だった学生としての生活をしてみたい。ガチ恋チキンレースの話を抜きにしても、憧れがあるところだ。
それにしても、三上先生か。この人とうまくやっていけるだろうか。まあ、まだ気が早いのだが。合格しないことには、関係はここで終わりなのだから。
「なるほど。警護官の方には、授業中にも同じ部屋で待機してもらうことになります。問題ないですか?」
「少しくらい距離があったところで、ちゃんと守れる。大丈夫」
「藤崎さんが守ってくれるのなら、安心だな。まあ、悪い生徒がいるとは思っていないが」
「生徒はある程度選別しているが、問題が起きる可能性はゼロではない。気をつけておいて、損はないぞ」
「心配してくれるんですね。ありがとうございます」
今のところ、優しい先生だと思えるな。この人が担任なら、楽しく授業を受けられると思う。だから、受かるように頑張っていきたいな。
先生は穏やかな顔をしているし、今のところはうまく行っている気がする。ただ、気を抜くには早いからな。ちゃんとやろう。
「教師として、当然のことだ。さて、とばり君。お前はこの学園に入学して、何がしたい?」
来た。準備していた回答を話していけば良いだろう。
「学生として、クラスメイトや部活の仲間と交流していきたいです。できれば、色々な思い出を作りたいですね」
「なるほどな。この学園は、イベントの種類も多い。思い出を作るならば、いい環境だと思うぞ」
「そうなんですね。なら、この学園を選んで良かったです」
「ああ。お前なら、うまくやっていけると思う。少し心配なところもあるが、警護官の人と私が協力すれば、抑えられるだろう」
そのセリフが出てくるってことは、期待して良いのだろうか。よほどの問題がなければ大丈夫だと言われていたが、不安だったんだよな。
「それって、合格だと考えて良いんですか?」
「ああ。元々、男子の入学は簡単だからな。他の生徒に問題行動を起こすかどうかだけが判断基準だ」
「ただ、俺は学力という面では怪しいのですが……」
「なるほどな。お前に意志があるのならば、補修だって用意できる。だから、そう不安がらなくて良い」
「ありがとうございます。三上先生のこと、頼りにさせてもらいますね」
「それで良い。生徒なんだから、教師のことは便利に使えば良い」
先生はそう言ってくれるが、負担がない訳ではないだろう。ある程度は、自分でも努力していかないとな。
「できるだけ、お世話にならなくて済むようにしたいところです」
「その心意気は買うが、まずは私に相談しろ。自分で抱え込みすぎるのが、一番困るからな」
「分かりました。なら、相談させてもらいますね」
「ああ。それでは、お母様。入学に関する手続きですが……」
そこからは、俺を置き去りにして3人で話をしていた。まあ、お金の話とかだから、俺が入っていったところで分からなかっただろうが。
ということで、愛坂学園に入れることに決まった。今から、学園生活が楽しみだな。ガチ恋チキンレースも、単純な青春も。全力で、頑張っていこう。
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