第7話 家族として
母とはうまくやれそうな雰囲気がある。ということで、他の家族とも関係を深めていきたい。次は、姉か妹。どっちが良いかな。
昼と夜の時間を使いたいから、妹の方が先が良い気がする。あの子は幼い感じがあるからな。俺が15なのだから、もっと小さい。それを考えると、早めに寝てほしいところだ。
だから、妹と交流を深めていこうと思う。今日中に全員と会話をしたいと考えると、それが効率的だろう。まあ、相手の都合次第ではダメになるんだけどな。
とはいえ、動いてみないことにはな。どうせなら、仲良くできたほうが嬉しい。俺に料理を作って喜んでもらいたいと言ってくれたし、相手の方も好意的だと思うんだ。
だから、妹の部屋へと向かっていった。声をかけると、すぐにドアを開いてくれる。
「お兄ちゃん、どうしたの~?」
「せっかくだから、話をしたいと思ってな」
「珍しいね~。でも、嬉しいよ!」
「それなら良かった。邪魔になるかもと、不安だったんだ」
「お兄ちゃんなら、いつでもどこでも歓迎だよ~」
とても明るく迎え入れてくれて、ありがたいことだ。やはり、今の家族は暖かいな。本当に、とばりになれて良かった。こんな関係は、前世では絶対に作れなかったからな。
だから、妹にはしっかり喜んでもらいたい。俺にできることなら、大体のことをするつもりだ。正直、とても甘やかしてやりたい。母さんが俺に甘えていいと言っていた気持ちが、とても良く分かる。
お人形みたいに可愛らしいこともあって、嬉しがる顔を見るのがとても楽しみだ。きっと、すごく暖かい気持ちになれるはずだ。
「なら、部屋に入れてもらって良いか? 落ち着いて話がしたいんだ」
「もちろんだよ~。そこまで興味を持ってくれるんだね」
「可愛い可愛い妹だからな、りんごは。当たり前のことだ」
「そんなに褒めてくれて、すっごく嬉しい!」
ちょっとした言葉でとても喜んでくれるので、もっともっと褒めていきたい。前世では家族と交流できなかったが、普通の家はこんなに幸せなものなのだろうか。あるいは、この家が特別なのだろうか。
どちらにせよ、今の家族はとても大切にするつもりだ。俺にとっては、大切な恩人だからな。家族の暖かさを教えてくれたんだから。
誰かに歓迎されるという事実がこんなに嬉しいなんて、知らなかったものな。だからこそ、今の喜びを家族たちに返していきたい。
入れてもらった妹の部屋は、可愛らしいものが多い。ぬいぐるみとか、カバンとか。いかにも女の子って感じで、面白いな。俺なら、きっと同じ部屋にはならないだろう。まあ、当たり前か。別の人間だものな。
というか、妹自身も大概可愛い。ぬいぐるみなんかと並べば、それはふわふわした雰囲気になるだろう。どれだけでも可愛がってしまいそうだ。
「りんごが喜んでくれるのなら、いくらでも褒めるぞ。だって、大好きだからな」
「もちろん、りんごもお兄ちゃんが大好きだよ~。ねえねえ、抱っこしてもらって良い?」
「ああ、良いぞ。それくらいの事なら、いつでも大歓迎だ」
返事をしてすぐに抱きついてくる。それを抱き返すと、胸のあたりに頬をこすりつけてくる。ペットが居たら、こんな感じなんだろうか。妹に考えることではないとは思うが。
懐いてくれているのは、素直に嬉しい。俺が好意を持たれているという事実は、心に癒やしをくれる。前世では無かった感覚だ。
「お兄ちゃん、ありがとう~。暖かくて、とても幸せだよ」
「それなら良かった。頼みがあるなら、大体は聞くからな」
「そんな事を言ったら、もっとおねだりしちゃうんだからね」
「構わないぞ。りんごなら、おかしなことは頼まないだろう」
「今のお兄ちゃん、優しい~。りんご、すっごく感動してる!」
感動されるほどなのか。前のとばりは、どれだけ冷たかったのだろう。今の俺が簡単に歓迎されるわけだ。どう考えても、別人みたいだろうにな。
だが、俺個人としては都合が良い。優しい家族に受け入れてもらえるし、今も妹と仲良くできているし。
それに、家族にとっても悪いことではないだろうな。みんな、とても喜んでいるし。だから、わざわざ前世を明かす理由はないだろう。そんな事をしても、お互いに損をするだけだ。
正直に言って、悲しむ家族の顔を見たくはない。それくらいには、みんなのことが好きなんだ。出会ってすぐなので、ちょろいとか言われそうだが。
「これくらいで感動してくれるのなら、いくらでも優しくしたいな。りんごの喜ぶ顔は、可愛いからな」
「もう、お兄ちゃん。りんごのこと、口説いてるの~? それなら、受けちゃうんだからね」
「妹だから、口説いたりはしないよ。大好きではあるけどな」
「ちぇ~。残念だな。でも、大好きって言ってくれて嬉しいよ。また、何度でも言ってね」
「当然だ。りんごのことが大好きなのは、これからもきっと変わらないからな」
今の感じだと、問題行動を起こすような子には見えないし、俺に攻撃するとも思えない。だから、ずっと大好きで居られるはずだ。
本当に、これから先も仲良くしていけるのなら、とても幸せなことだよな。可愛くて明るくて優しい妹なのだから。こんな人、めったに居ないはずだ。
俺の前世を考えれば、記憶喪失を理由に無視くらいはされてもおかしくないと思う。だけど、今の家族たちはみんな優しい。それだけで、好きになる理由には十分だよな。
「りんごも、お兄ちゃんのことがずっと大好きだよ。これからも、仲良くしようね」
「もちろんだ。ずっと仲良くできたら、きっと幸せだろうな」
「もう、お兄ちゃんったら~。りんごをメロメロにしちゃうつもり~?」
まさか、この程度の言葉で惚れるはずもあるまい。いくら男の人が少ないからって、ありえないだろう。ただ大好きだと言っただけだものな。
少なくとも、俺は惚れない。嬉しいとは思うけどな。だから、冗談か何かだろう。可愛らしいものだ。
「いくらメロメロになったとしても、きっとりんごは満足できると思うぞ。全力で、大切にするつもりだからな」
「そうだね~。今も、とっても幸せだから。お兄ちゃん、りんごをもっと可愛がってね」
「もちろんだ。何が良い?」
「抱っこだけじゃなくて、頭もなでて~」
そう言われたので、抱きしめながら頭をなでていく。満足そうな顔をしていて、こちらも満たされる。
相手に受け入れられるということは、とても嬉しいことだな。改めて実感できる。だからこそ、俺もりんごを受け入れるつもりなんだ。もらった喜びを、返していくために。
「どうだ、満足できたか?」
「ずっと最高だよ~。お兄ちゃんを知っちゃったら、他の男の人なんて目に入らないかも~」
「大げさだな。これくらいのこと、普通だろう」
「心配だな~。お兄ちゃん、高校に行くんでしょ? モテモテじゃ済まなかったりして~」
ガチ恋チキンレースの実行を考えれば、モテモテは困るんだよな。というか、普通に大勢との接し方とか分からない。だから、モテても対応に失敗して嫌われる可能性が高い。まあ、りんごが心配している事態にはならないだろう。
「仮にモテモテになったとしても、りんごを放って遊んだりはしないからな」
「だったら、ずっとりんごと一緒に居てね!」
「もちろんだ。大切な家族として、生きている限りはずっとな」
本当に、りんごと出会えて良かった。だから、約束するよ。ずっと、家族から離れたりしないって。
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