第27話 これから先は

 今のところは、生徒会の仕事を進めていく必要がある。何をすれば良いのかも、まだ理解できていないからな。


 一応、イベントの企画運営、部費の割り振り、生徒の意見を集めること。それらを実行すればいいらしい。


 とはいえ、その中身までは分かっていないんだよな。例えば、イベントの企画運営で、具体的に何をすれば良いのかとか。


 俺は何も知らないから、最初の方は里緒奈会長たちに迷惑をかけそうで怖い。まあ、何を今更という話ではあるのだが。


「実際には、どんな仕事をすれば良いんだ? 俺は本気で何も知らないぞ」

「経験がなくても、勇気を出して生徒会に入ってくれたんですねっ。嬉しいですよっ」

「会長は、自分が注目されているのが、嬉しいんじゃないですか?」


 副会長は、ちょっと意地悪だな。まあ、里緒奈会長は笑顔だから、悪い関係ではないのだろうが。親しいからこそ、軽く棘のある言葉も言えるのだろう。


 俺に同じような言葉を向けられて、同じように楽しめるだろうか。分からないな。まあ、本気で悪意を持っている訳ではないのは分かるからな。きっと大丈夫だ。


 せっかくだから、副会長もガチ恋チキンレースのターゲットにしたい。どうせなら、他のメンバーも。ただ、急ぎすぎても良くないからな。


 まずは、里緒奈会長の応援をしつつ、ゆっくりと関係を深めていけば良いだろう。俺の対人能力なら、そっちの方が良いはずだ。


「副会長と里緒奈会長は、仲が良くて羨ましいな。俺も、似たような関係になってみたいよ」

「そうですか? すぐに、仲良くなれると思いますよっ。まずは、仕事を教えていきますねっ」

「どちらと仲良くなりたいなんて、言っていないでしょうに。自信満々なことです」

「じゃあ、あたしが教えていくよ。ちょうど良いだろう?」

「そうですねっ。会計の仕事は、初めての仕事と通じる所がありますからっ」


 どういう理屈なのかは分からないが、似通った所があるらしいな。会計の仕事ってことは、書類仕事みたいな話か?


 そうなると、俺はまず、紙に向かい合っていくことになるんだろうな。まあ、足で稼げと言われるよりはありがたい。


 正直に言って、知らない人しかいないところで、うまくやる自信はない。生徒会は、みんなが優しいからなんとかなっているが。


 クラスメイトとだって、みんなと仲が良い訳じゃないからな。それに、今の俺には体力がない。だから、書類仕事から慣れていくのは、ちょうど良いはずだ。


「よろしく頼むぞ」

「ああ、任せておきな。しっかりと仕事がこなせるように、手伝ってやるよ」


 会計に仕事を教わっていくことになる。姉御肌って感じの人だから、教わるには良い相手な気がする。しっかりと面倒を見てくれそうだ。


 ハッキリ言ってしまえば、今の俺には大した仕事はできないだろうからな。足を引っ張る場面も多いだろう。そうなると、見限られないかが心配だ。


 それに、迷惑をかけて喜ぶ趣味はないからな。できることならば、役に立っておきたいじゃないか。まあ、無理をしたら、余計に迷惑をかけるだろうからな。一歩一歩進んでいくだけだ。


「ありがとうございます。できるだけ早く戦力になれるように、頑張りますね」

「気負いすぎなくてもいいぞ。どうせ、生徒会の仕事は楽なものだからな」

「そうですねっ。人数に対しては、仕事が少ない方ですからっ」


 実際に楽なら、助かるのだが。みんなとの交流に時間を使えるからな。せっかくだから、仲良くなっておきたいじゃないか。


 とはいえ、目の前の仕事を真剣にこなすところからだ。仕事を放棄しておしゃべりに興じるなんて、性に合わない。それに、里緒奈会長にも失礼だろう。


 俺のこなすべき仕事は、書類の分割というか、誰に仕事を回すかを整理することと言えば良いのか? 要するに、会長にはこの書類を、副会長にはこの書類をと渡す仕事だ。


 金銭に関する書類は会計に回して、雑務になりそうな書類は庶務に回して、書紀の人には何も渡さなくて良い。議事録をまとめるのが、本人の仕事だからだ。


 難しいのが会長と副会長の仕事で、どちらに回せば良いのかの判断を迷うことが多かった。


 全体的には、より重要度の高い仕事が里緒奈会長のものだ。そして、そうでもないものが副会長のものだ。


 とはいえ、俺には経験が少ないからか、単に能力の不足からか、うまく仕分けができなかった。間違えたとしても、里緒奈会長も副会長も、単純に書類を入れ替えるだけ。それでも、俺は悔しくて仕方がなかった。


 会長の仕事と副会長の仕事の共通点は、方針を決めるということ。後は決める段階だという仕事は、里緒奈会長か副会長がこなす。


 後は、これから方向性が決まっていく仕事も、会長か副会長のどちらかに回していくことになる。


 庶務の仕事も形としてまとまってはいないが、会長のものか庶務のものかはすぐに分かる。だから、そこでは失敗しなかった。


 これは、俺に楽な仕事が回されているのだろうか。それとも、俺のために仕事が生み出されているのだろうか。なんとなく、重要ではないというのは分かった。正直、俺は必要ないんじゃないかと思う瞬間もあったからな。


「こうしていると、単純な仕事でも苦戦するものだな。やはり、能力の低さが浮き彫りになるよ」

「心配しなくてもいいですよっ。少なくとも、邪魔になってはいませんからっ」


 役に立っているとは、言われないんだよな。まあ、仕方がないと分かっているのだが。


 悔しくはあるが、これから信頼されていくために頑張っていくだけだ。俺としても、世辞で褒められたい訳じゃないからな。


 とりあえずは、目の前の仕事をちゃんとやる。そこをしっかりしない人間は、何よりも俺が好きになれない。うまくできないからと投げ出すのは、ありえない。


「いずれは、もっと役に立てるようになる。その前に、今の仕事を精一杯こなすだけだ」

「赤坂君の姿勢は、とても好ましいですっ。きっと、これから先は頼れるようになりますよっ」

「実際のところ、私も好ましいと思いますね。会長が気に入るのも、分かります」

「始めはうまく行かないものさ。あたしだって、何度も失敗したからね」

「そう言ってもらえると、安心できるな。俺は、ちゃんと生徒会の一員になりたいんだ」


 それぞれがそれぞれに笑いかけてくれて、ちょっと気分が楽になった。それからも、渡された仕事をきちんとこなしていく。失敗することもあったが、総合的には悪くなかったんじゃなかろうか。


 とりあえず、邪魔にはなっていないはず。それで十分だろう。成果を求めすぎて足を引っ張るのが、最悪のパターンだからな。


「赤坂君が生徒会に入ってくれて、とても良かったと思っていますっ。あなたとなら、きっといい仲間になれますよっ」

「同感です。会長も気に入ったみたいですし、ちょうど良いんじゃないですか?」

「あたしとしても、赤坂君はいい後輩だよ。今後の活動が楽しみなくらいさ」


 仕事の出来の割には、かなり褒められている。だが、表情を見る限りだと、本気で歓迎してくれているのは確かだ。


 仮に男だから甘く見られているのだとしても構わない。いずれ必ず、役に立つ存在になってみせる。そう誓った。


 学生生活を楽しむ上でも、ガチ恋チキンレースを目指す上でも、重要になってくることだろう。今後が楽しみだな。

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