第7話 異常
相変わらず下校の放送まで眠っていた結衣は
「今日は寝なかったのね。」
と少し残念にしながら言った。そして、
「あんた家どこ?」
と聞いてきた。正確な住所を言えばいいのかだいたいの位置を言えばいいのか分からず、「駅の近く。」
と答えた。質問の意図と合っていたようで、結衣はうんっと小さく頷き
「同じ方向ね。歩き?」
「えっと...そ、そうだけど...どうかしたの?」
結衣は大きなため息をつき、呆れた顔で
「言わないと分かんないの?一緒に帰ろうってことに決まってるでしょ!」
「あ、ごめん」
とっさに謝った。
「早く帰るよ。」と言い終わる前に結衣は図書室から出ていった。
住宅街を2人で並んで歩いた。下校時間にもなるとあたりは真っ暗だ。人生で初めて女子と2人で帰った。友達と一緒に帰るのもいつぶりだろう。いつもより胸の鼓動が早い気がする。
「昨日の夜はちゃんと寝た?」
ぼーっと歩いていると結衣が突然話しかけてきた。
「えっ!?えっと......」
「寝てないのね。」
結衣は呆れながら言った。
「ねぇ。なんで藤原さんは毎日あそこで寝てるの?」
ずっと気になっていたことを聞いてみた。
「うーん......特に理由は無いけど...。あそこあったかくてよく寝れるのよね。」
「そっか......」
「あんたさ、前にも言ったけどクマ酷いわよ?なんか塗ったら?」
「塗る???」
「コンシーラーでも良いし、学校行くだけだったら下地でもいいと思う。」
「こ、こんしーらー?したじ?」
この前初めて口紅にはたくさんの色と種類があることを知ったくらい化粧について無知なのだ。「ほらっ。」と言いながらスマホの液晶画面を見せてくれた。見たことない化粧品がたくさんうつされていた。
「これを塗るとクマがなおるの?」
「違う。目立たなくなるの。」
ほぇ〜。と声にならない声が出てしまった。少しの沈黙が流れたあと、結衣は僕に話しかけてきた。
「ねぇ。あんた好きな人とかいるの?」
僕の鼓動が急に早くなった。
「えっと......」
"ドキンドキン"あきらかに早くなる心臓の音。
「いるの?」
"ドキドキ ドキドキ"
「えっと.........」
胸が苦しくなって結衣の顔がぼやけて見える。急に足に力がはいらなくなった。
「うっ...」
「えっ?」
意識が遠のいていく。結衣が僕の名前を必死に呼んでいるのが聞こえる。頑張って声を出そうとしても出ない。
とうとう死ぬんだな......
母さんに謝りに行こう。
なんて考え、僕の意識は途切れた。
つづく
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