第4話 ひとりぼっちの父

 お母さんとの二人の暮らしに慣れてきたある日、私は母に内緒でお父さんに会いに行った。父は前の家に1人で住んでおり、お母さんには近づくことを固く禁じられていた。数ヶ月前まで住んでいた家。小さい頃からの思い出が詰まった家。


 勇気を振り絞ってインターホンを押した。


「はい。」


聞きなれた声がインターホンから聞こえた。


「お父さん。結衣だよ。」


そう言うとお父さんはドアを開けてくれた。


「結衣、よく来たね。」


そう言ってお父さんはキョロキョロ外を見回した。


「お母さんは居ないよ。」


それを聞いたお父さんはほっと息をつき、中に入れてくれた。




 久しぶりに会うお父さんは少し痩せていた。キッチンには洗い物が溜まっていて、服も脱ぎっぱなしになっていた。離婚してから自堕落な生活をしているようだった。


 たくさんの思い出の詰まったリビングでたくさんの話をした。アパートはどうか。ご飯は食べているか。お母さんは元気か。お父さんはとにかく2人での生活が心配なようだった。お母さんはあまりお父さんの話や昔の話はしたがらないがお父さんは違った。


 2時間近く話をして、遅く帰るとお母さんが心配するからとアパートに帰った。お父さんは帰り際にこっそりお小遣いをくれた。

私はお父さんが1人でいるのが心配になり、時々お母さんがパートに行っている隙をついてお父さんに会いに行くようになった。





 夏の暑さも無くなり、少し肌寒くなってきた10月。その日もお父さんに会いに行った。


 私はいつも通りインターホンを押した。いつもならすぐにドアを開けてくれるのになかなか開けてくれなかったのでもう一度インターホンを押した。

「はい。」

中から聞こえてきた声はいつものお父さんの声ではなく、若い女の人のこえだった。

               つづく

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