第5話 父

 家に帰ると既に明かりがついており、珍しく父が僕より先に帰ってきていた。


母が亡くなって以来、父は男手一つで僕を育ててくれた。そのため、夜遅くまで働き、家に帰ってくるのが日付が変わってからなんてこともよくある。そんな父がこんなに早く帰っているのは半年に1度ほどだ。

「おかえり」

久しぶりに父の声を聞いた。

「ただいま。今日は早いんだね。」

「あぁ。今日は飲み会だと言われてな。」

会社では、仕事を早く終わらし、飲み会が予定されていたらしい。父はあまりお酒が飲めないので飲み会はいつも断っている。

「今日の夕飯はカレーだ。もう少しで出来るから手を洗って待ってなさい。」

父は母が生きていた頃もよくカレーを作ってくれた。父のカレーはとても美味しい。早く仕事から帰ってくる日は決まってカレーを作ってくれる。

手を洗い、自分の部屋に荷物を置いていると、「できたぞー」という声が下から聞こえてきた。


久しぶりに父と一緒にご飯を食べた。学校での話。勉強の話。色々な話をした。

「疲れてるだろうから洗い物は僕がするよ。」

「悪いな。じゃあ頼んだ。」

そう言って早く食べ終わった父はお風呂に行った。父がお風呂に入って数分後に食べ終わった僕は洗い物をした。父がお風呂からあがった頃にはおおかた洗い物は済んでおり、あとは乾燥機に入れるだけだった。

「後は俺がやっておくから、風呂行ってきなさい。」

と言われたので残りは父に任せお風呂に入った。


ゆっくり湯船に浸かり、ゆったりしていると頭の中は結衣の事でいっぱいだった。彼女はなぜいつも図書室で寝ているのだろう。確かにあそこは暖房が効いていて暖かい。だからといって毎日そこで寝る理由になるだろうか......

「うーん...」

「考えごとしてる時に悪いが早く出ないと風邪ひくぞ。」

父だった。声が出そうなほど驚き、「う、うん。」としか返せなかった。8時頃にお風呂に入ったのに時計がさしているのは9時だった。急いで体を洗い、すぐにお風呂を出た。今日は体を温めて寝るとよく眠れると聞いたのでホットミルクを飲み、期待しながらベットに入った。

                 つづく

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