第2話 私の心の休憩所

 私が泣き止む頃には、窓から差し込んでいた夕日の光はもうほとんど見えなくなっていた。

 それまでずっと背中を撫で続けてくれていた司書さんは、


「つらい時は、おもいっっきり泣くことも大事よ。」


そう言ってくれた。


「私の名前は浅原香織。見ての通り、この学校の図書室で司書をやっているわ。あなたお名前は?」


「私は、藤原結衣です。小5です。」


「よろしくね結衣ちゃん。と言ってももうこんな時間だからお家に帰らなきゃね。」


壁にかかっていた時計は6時をさしていた。


「また、何かあったらいつでも来てね。泣きたくなった時でも良いし、何か話したくなった時でもいいし、ただぼーっとするだけでもいい。困ったらいつでも来てね。待ってるわ」


そう言って香織さんは私を玄関まで送ってくれた。





 その日から私は図書室の小部屋に入り浸るようになった。


 いじめられても、図書室にいって香織さんに会うことで心がすっきりした。


 香織さんは、司書の仕事が空いている時は、いつも私の相手をしてくれた。しかも、なぜかあの日私が泣いていた理由を聞いてこなかったのだ。


ある日私は気になって尋ねてみた。


「ねぇねぇ香織先生。なんであの日泣いてた理由聞かないの?」


「ん?結衣ちゃんが言いたい。聞いて欲しい。って言う時に聞こうと思ってるからよ。私が聞いたら、結衣ちゃん嫌だって思っても無理して答えるでしょ?だから結衣ちゃんが言いたいって時まで聞かないわ。」


確かに香織さんが聞いたら、私はなんでも答えてしまう自信があった。小5ながらに香織先生の大人な気遣いに感動を覚えた。そして同時に、彼女のような思いやりのある人になりたいと憧れを抱いた。




 小6に上がってからも学校がある日は毎日図書室に行った。授業中にサボるために言ったこともあった。そんな時香織さんは少し叱りはするが、代わりに勉強を教えてくれた。普通の先生の授業よりも集中することができた。


 その頃から香織さんは私に司書の仕事をさせてくれるようになった。前から手伝いたいと言っていたが頑なにダメと言われていた。手伝うと言ってもそんなに難しいことは頼まれなかった。生徒が読んだ本の片付けや、本棚の整頓、ポップ作成などだった。






私はこの生活がずっと続くと思っていた。


 ある日、いつものように図書室で香織さんとお話をしてから家に帰ると珍しくお父さんとお母さんがいた。

 2人は一言も喋ることなく、リビングのイスに向かい合って座っていた。


 私がリビングに入ると、いつもより格段に低い声でお母さんに「ここに座りなさい。」と促された。

                つづく

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